東京の下町に暮らす平凡で貧しい家族は、「万引き」で生計を立て、「犯罪」でつながっていた・・・。家族を描き続けた是枝裕和監督が、“家族を超えた絆”を描いた最新作『万引き家族』。主演はリリー・フランキー、その息子をオーディションで是枝監督に大抜擢された11歳の城桧吏(じょう・かいり)が演じる。

 

父親・治の複雑な感情や独特の存在感をひょうひょうと映し出したリリーと、その父親から教わった万引きを繰り返す息子・祥太の心の奥に潜む葛藤と成長を演じきった城。インタビューが行われたのは、まだカンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞する前の某日。撮影以来となるリリーは城に、「久しぶりだな、“祥太”。元気だったか?」と話しかけ、まるで父子の再会のような温かさが溢れていた。

 

 

(C)2018『万引き家族』 製作委員会

 

■オーディションで大抜擢された11歳の少年


――家族の衝撃的な物語で、締め付けられるような思いがしました。今作は、是枝監督が10年考えてきたことを全部込めた作品だと話していますが、出演が決まったときの率直なお気持ちを聞かせてください。まずは、リリーさん。これまで是枝監督の作品には3度出演されていて、映画『そして父になる』での味わい深い父親役から、「あんなリリーさんをもう一度撮ってみたい」と、今回主演にオファーしたと伺いました。

 

リリー:是枝さんの映画に呼んでいただけるのは嬉しいし、いつも楽しくて刺激的です。プロットを最初にいただいて目を通して、本当に是枝さんらしいと思いましたね。家族を描き続けていますけど、一方で社会問題という、是枝さんのもともとのジャーナリストの部分が出ていて。その家族という中で子供の立場である、祥太の目線で描かれているんですよ。
 

――城さんはいかがでしたか?オーディションで選ばれたときの気持ちは?

 

城:選ばれたとき、すごくうれしくて。家の中をとびはね回って喜びました。でも、なんで僕が選ばれたのかな~?って思いました。

 

――リリーさん、城さんの演技はいかがでしたか?

 

リリー:祥太にしても、ゆり(治に拾われてきた子・ゆり役=佐々木みゆ)にしても、二人がとてもいい。この映画自体が祥太の目線でずっと動いているので、大変な役だったと思います。(城へ)ちょっとあがりを観せてもらったけど随分よかったよ。


城:えへへ(照れ笑い)、ありがとうございます。

 

リリー:いま11歳だっけ?撮影現場にいるときは、ほかの11歳よりすこし幼いんですよ。逆に、ゆりは女の子ということもあってほかの6歳の子よりも大人びている。でも映画になると、ちゃんとした11歳の子供だったよ。

城:(照れて、かすれ声で)ありがとうございます。

 

(C)2018『万引き家族』 製作委員会

 

■カットがかかると震えがピタッと止まった

 

――本当に、心に迫ってくる演技で、是枝監督の『誰も知らない』で、カンヌ国際映画祭において史上最年少&日本人として初の最優秀主演男優賞を受賞して脚光を浴びた、事務所の先輩・柳楽優弥さんを彷彿とさせる存在感でした!お二人が、役作りにあたって工夫や、準備したことは?

 

リリー:準備はあんまりしていなくて、「日焼けしておいて」と言われたことぐらいかなぁ。今回プロットを読んで、すごく好きなお話だなと思ったのでいろいろ考えましたね。でも、是枝さんの映画は、こっちが勝手に役作りしたところで何ら解決しないから。是枝さんから、こういうふうにしてほしいというのは丁寧にお手紙でいただきました。役については、「木偶の坊のお父さんでいてください」と。そういうお父さんに、祥太がどんどん疑問を感じ始める。万引きについても、どんどん、これは悪いことなんじゃないかなと思ってくるんです。
 

――なるほど。

 

リリー:去年の12月から今年の1月にかけて撮影したんですけど、海のシーンだけ去年の夏に撮影したんですよ。その時点で台本は完成していないんです。祥太はそもそも、台本をもらっていないしな。

 

城:はい、もらってないです。
※是枝監督は、子どもたちには台本を渡さず、口立てで演出する手法を行う

 

 

――城さんは今作が役者人生の中のターニングポイントになったと思います。是枝監督は、11歳の城さんが祥太の役に決まったことで、11歳の少年としてのデティールを書き加えていったといいます。撮影前に準備などはしましたか?


リリー:祥太は役作りで、歯とか抜いていたもんな!

 

城:笑(首を振る)。

 

リリー:ゆりは撮影中、実際に歯が抜けて、それも映画に反映してあるんです。(樹木)希林さんなんか、歯を入れずにやっていて。

 

城:台本はもらってなかったので、準備は特にしていないです。

――劇中、夏のシーンで薄着ですが、撮影は冬。寒かったのでは?

 

城:寒かったです。撮影する前は、口がガタガタと震えていたんですけど…。用意スタートとなった瞬間、震えが止まって。でも、寒かったです。

 

――それはすごい!演技経験が多かったわけではない中でのことだったと思いますが、監督の演出はどうでしたか?


城:すごくやりやすかったです。リリーさんや、みなさんが優しくて。笑わせてくれました。

 

――今の笑顔もですが、劇中の城さんの、思春期に入ったような少年のはにかむ笑顔がとてもリアルでした。撮影現場の家族の住む家は、今にも壊れそうな平屋で、家族がひしめき合っている生活をしています。城さんはそのすさんだ様子にコワイなと思ったり、難しかったことはありましたか?

 

城:難しかったことはなかったです。みなさんもいたので溶け込めました。


リリー:今回、希林さんも、(母親役)安藤サクラさんも、松岡茉優さんも誰もがノーメイクだし、作品の中で、誰が自我を出すでもなく、みんなが自然に、「この汚い家の家族になる」と気持ち的に一致しているのはありました。

 

――その場に入ると、すっと溶け込んで家族の一員になれるというような空気を全員が作っていたのですね。

 

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

 

■息子が帰っていく姿に切なくなった


――お二人の様子を見ていたら、本当の親子のようです。リリーさん、城さんのような息子がいたらどうですか?

 

リリー:いや~、良いですよね。祥太みたいな子供がいたら毎日楽しいだろうな。素直で適度に甘えん坊で。これで、祥太が大きくなって、次に舞台挨拶なんかで会ったときに髭が生えていたりアゴが割れていたら寂しいだろうな。

 

――また10年後など、城さんが大人になってから共演する機会もあるでしょうね。


リリー:10年後に俺が生きている可能性は低いけど、祥太は何かしらいろんなお仕事をしているんだろうな。何になりたいか決まった?
 

城:俳優さんになりたいです。

リリー:子供からやっていると、大人の中に入っていかないといけないから。是枝さんの現場のように健全としたところならいいけど。息子が心配です。

――リリーさんは劇中の役では、教養も甲斐性もなく、息子に教えられることといえば盗みしかなかった。なんだか今のお話に父親の愛情を感じて、ホロリと来ます。城さん、リリーさんのようなお父さんはどうですか?

 

城:(しっかり頷いて)良いと思います。やっぱり、明るくて面白いから。


リリー:でも、撮影では息子のように一緒にいてくれるけど、終わると本当の親と帰っていく。その後ろ姿を見るのが切なかったですよ。(城の)お母さんは美人で。住んでいる家も都会で、全然祥太とは違うんです。

 

 

 

 


――リリーさんから城さんに、こうしたらもっといいよ、という点やアドバイスはありましたか?

リリー:祥太とかゆりに対してお芝居の話はしません。今回、子役2人もそうですけど、茉優ちゃんも希林さんも安藤さんも役者としてすごい濃厚な人ばかりだったので、何にも考えなくてもその世界に連れて行ってくれるというのはありました。だからあんまり、撮影している、していないの境目がちょっとわかんなかったですよね。

 

■リリー、裸からの“パンツ履き”早業を褒められる

 

――好きなシーン、見てほしいこだわったシーンはどこですか?


リリー:それはぜひ祥太に聞きたいですね。やっていて楽しかったシーンは?


城:魚釣りのシーンも好きです。
 

リリー:海での?くそ寒かったじゃん。でもあそこは映画の撮影後半で、祥太が結構長いセリフでルアーの説明するシーンだったんだけど、セリフ回しがすばらしくて。その撮影の後、是枝さんと「祥太、ずいぶん上手くなったな」って話をしたよ。

 

城:はい(照れてもじもじ)

――ずっと褒められて照れちゃいますね。リリーさんのお気に入りのシーンはどこですか?

 

リリー:今回、唯一是枝監督に褒められたシーンがあるんです。ほかは全然褒められていないんですけど。「リリーさん、パンツを履くのが速いですね」と。安藤さんと二人で素っ裸でふとんに寝転がっていると(余韻に浸っているシーン)、子供たちが帰ってきて。速攻でパンツ履いたんですが、「速い」って。
 

――(笑)。ちなみに、リリーさんはそのほかにも、今作で裸のシーンが多かったように思いました。監督のこだわりだったのでしょうか?

 

リリー:俺のお尻を撮りたいって。なぜ?って思いましたけど。

――やはり、意図して多かったのですね!それは、家族の生々しい姿をみせたい、というような狙いもあってなのでしょうか。

リリー:家族の中にある性の部分というんですか。たとえば茉優ちゃんの職場(女子高生見学店)や、それぞれの性を描いている。だからこそ、生々しいというか。是枝さんは食べている人間とセクシャルなものを両方撮る人なので、今回、食って脱いでが多いでしょう?


――なるほど!それでは最後に、映画を楽しみにしている読者に見どころやメッセージをお願いします。


城:スーパーで缶詰を落とすところから最後まで、家族がどうなっていくのか、というところを見てほしいです。感動もあります。いい作品になっているので観てもらいたいです。


――リリーさんもお願いします!


リリー:映画を観ているのかドキュメンタリーを観ているのかちょっとわからないような、是枝さんらしい、すごく濃厚な作品です。いろんな家族の問題が起こっていく。でも、その家族の徹底的に煩わしいものを見た後、俺は撮影が終わったときに家族というものの豊かさを感じました。是枝さんは善悪のパラレル感を描きたかったと思うんですね。ネタバレになるのであまり言えないですが、とにかく、おすすめの映画です。是非ご覧ください!

 

 

Photography=Mayuko Yamaguchi

Interview=Ameba

 

映画『万引き家族』6月8日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

 

☞是枝裕和監督 最新作『万引き家族』公式サイト

 

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro

 

【STORY】

高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。

足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。

冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく──。