死と隣り合わせの情事。女の正体は、女神か、死神か――

 

『氷の微笑』

[Basic Instinct]

(1992年)アメリカ映画

 

 

 

<あらすじ>

元ロックスターのナイトクラブ経営者ジョニー・ボズがアイスピックで刺されてベッドの上で死んでいた。サンフランシスコ市警の刑事ニック・カラン(マイケル・ダグラス)は、被害者の恋人で美人作家のキャサリン・トラメル(シャロン・ストーン)を尋問する。
彼女は数カ月前に事件とそっくりのミステリーを出版していたのだ。
彼女に翻弄されて捜査が難航する中、ニックの周囲で次々と新たな殺人事件が起きる……。

 

<スタッフ>

監督:ポール・ヴァーホーヴェン

脚本:ジョー・エスターハス

制作:アラン・マーシャル

制作総指揮:マリオ・カサール

音楽:ジェリー・ゴールドスミス

撮影:ヤン・デ・ボン

編集:フランク・J・ユリオステ

 

<キャスト>

シャロン・ストーン(キャサリン・トラメル)女流作家、ボズのセックスフレンド

マイケル・ダグラス(ニック・カラン)サンフランシスコ市警の刑事

ジョージ・ズンザ(ガス・モラン)ニックの同僚の刑事

ジーン・トリプルホーン(「ベス」エリザベス・ガーナー)ニックの恋人、精神科医、臨床心理学者

レイラニ・サレル(「ロキシー」ロクサンヌ・ハーディ)キャサリンの恋人

ダニエル・フォン・バーゲン(マーティン・ニールセン)内務課の捜査官

スティーヴン・トボロウスキー(ラモット)スタンフォード大学心理学教授

デニス・アーント(ウォーカー)警部

チェルシー・ロス(タルコット)本部長

ドロシー・マローン(ヘイゼル・ドブキンス)前科者の老婆

ビル・キャブレ(ジョニー・ボズ)元ロックスター、ナイトクラブ経営者

ウェイン・ナイト(ジョン・コレリー)地方検事副検事

 

 

感想

元ロックスターがセックス中に

アイスピックで滅多刺しにされて

殺されるという事件が発生。

その恋人キャサリンは事件と同じ手口の

犯罪小説を出版していて

容疑者として取り調べを受けるも

決定的な証拠が無い。

刑事ニックは彼女につきまとうが、

逆にキャサリンに翻弄されて

その魅力に惹かれていく。

果たして彼女は殺人者なのか?

それとも――?

 

魔性の女を演じたシャロン・ストーンが

一躍有名になった作品で、

中でも取調室で

シャロンが足を組み替えるシーンは

スカートの中が見えるか見えないかで

当時ものすごく話題になった。

 

実はこの場面はシャロンが監督に

騙されて撮影した場面らしい。

白い下着がカメラに反射するから何もつけないで

そこは写さなようにするという約束だったのに

後で見たらバッチリ写っていて

シャロンは監督をびんたするくらい怒ったとか。

脚本家もこんなシーンは書いてなくて

ヴァーホーヴェン監督のアドリブだったそうだ。

なんともひどい話だが

この時代だから許されたところもあるし、

当時ほぼ無名のシャロンにとっては

売名のチャンスだから納得したようだ。

が、これでセックスシンボルの印象がついて

後の親権問題では不利に働き

敗訴するという皮肉な結果に……。

 

監督のヴァーホーヴェンは

『ロボコップ』

『トータル・リコール』

この『氷の微笑』を挟んで

『スターシップ・トゥルーパーズ』と

ヒット作を連発している。

マイケル・ダグラスは個人的には

フィンチャー監督の『ゲーム』で

謎に振り回される主人公が印象的。

『危険な情事』でも女性に翻弄されて

良い意味でこういう役がハマってると思う。

ジーン・トリプルホーンは本作が

映画デビューだとか。

シャロンに負けじと

こちらも濡れ場が見られます。

 

で、『氷の微笑』ですが

かなり昔に観たことがあって、

レンタルビデオだったので解像度が低く

ボカしであそこは見えなかったが

子供心に強烈なインパクトだった。

その後、

シャーリーズ・セロンが好きになって

それからアナ・デ・アルマスなど

脱ぎ脱ぎ系の金髪セクシー美女が好きなのは

やっぱりシャロン・ストーンの影響が大きい。

 

犯人か?それとも犯人じゃないのか?

シャロンの演技の上手さで

最後まで緊張感が持続しているし、

危険な女とわかっていても

惹かれてしまう魅力がある。

エロティックなシーンは興奮するし

激しいカーチェイスもある。

ただしミステリーとしては平均以下、

過剰なフェイントのせいで

視聴者を余計に混乱させたし

どんでん返しというほど驚くことはなかった。

シャロンの魅力で加点したとしても

7点を超えるほどではないと思う。

 

 

★★★☆☆ 犯人の意外性

☆☆☆☆ 犯行トリック

★★★☆☆ 物語の面白さ

★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ

★★★☆☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 △

エッチ度 ◎

泣ける度 -

 

評価(10点満点)

 7点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

ジョニー・ボズ ---●キャサリン・トラメル ---衝動【刺殺:アイスピック】

マーティン・ニールセン ---●キャサリン・トラメル ---障害の除去【射殺:38口径のリボルバー】

「ロキシー」ロクサンヌ・ハーディ ---●ニック・カラン ---事故【転落死:車のハンドル切り替えミス】

※突っ込んできたニックの車を避けようとしてロキシーの車が橋から転落した。

ガス・モラン ---●キャサリン・トラメル ---衝動【刺殺:アイスピック】

「ベス」エリザベス・ガーナー ---●ニック・カラン ---衝動【射殺:ピストル】

 

〇ドブキンス一家(夫・3人の子供) ---●ヘイゼル・ドブキンス ---衝動【刺殺:ナイフ】

〇キャサリンの両親 ---●キャサリン・トラメル ---実験・娯楽?【爆死:船】

〇ノア・ゴールドシュタイン教授 ---●キャサリン・トラメル ---衝動?【刺殺:アイスピック】

〇マニー・バスケズ ---●対戦相手 ---事故【殴殺:パンチ】

〇ロキシーの弟2人 ---●「ロキシー」ロクサンヌ・ハーディ ---衝動【斬殺:カミソリ】

〇ジョゼフ・ガーナー ---●キャサリン・トラメル ---衝動【射殺:38口径リボルバー】

 

<結末>

キャサリンとベスは大学時代に同級生で

関係を持ったことがあると聞き、

教授殺しやニールセン殺し、

さらに夫の不審死もすべて

ベスが犯人ではないかとニックは疑問を持つ。

それはキャサリンに惚れてしまったから

彼女を犯人と思いたくないという想いもあった。

 

ガスと共に向かったビルの4階で

エレベーターから出たガスが

アイスピックで滅多刺しにされて死亡。

遅れて駆けつけて逆上するニックの前に

ここに呼び出されたというベスが現れて

ベスへの疑念からニックは

彼女の言葉を無視して射殺してしまう。

 

ベスは銃を持っていなかったし

反撃するそぶりもなかった。

ニックはキャサリンの仕業だと気づくも

なぜかすべての証拠がベス犯人説を示し、

自分の正当防衛を主張するためにも

そのままベスを犯人にするしかなかった。

 

それからもニックはキャサリンを抱く。

今は甘い快楽に身を委ねるしかない。

キャサリンもニックの要求に応える。

ベッドの下に

冷たいアイスピックを忍ばせて――。

 

真犯人は誰なのか?

何度も殺すフェイントをしたり

ベスが犯人でも一応は筋が通っていることから

本当は犯人じゃなかった?と思わせて

ベッドの下のアイスピックを映して

やっぱり犯人なのか?と

多くの人がモヤモヤしたあの結末。

 

真犯人は――キャサリンです。

監督も出演者もそう答えているから間違いない。

とすると1番の問題が

キャサリンの殺人はどこまでかということ。

 

キャサリンの両親は彼女が高校生の時に

ボートの爆発事故で亡くなっているが、

後に執筆した最初の犯罪小説で

主人公が好奇心と実験を理由に

両親を爆発事故で殺している。

まったく無関係なことは

書かない主義のキャサリンが

小説に書くということは真実の可能性が高い。

 

ボクサーのマニー・バスケズの死は

リング上で殴られて死んだから無関係かと思うが

コカイン中毒の彼女が

彼氏にコカインを服用させるなどして

試合に影響がでたのかもしれない。

 

大学のゴールドシュタイン教授も

エリザベスが殺している。

後に同様の手口で何度も犯行に及ぶ

アイスピック殺人の開幕だ。

ジョニー・ボズもアイスピック。

彼はもう小説に登場させたから

いつでも用済みだった。

 

ニックと口論した後に殺されたニールセンは

ニックを疑わせるというよりも

キャサリンにとって知られたくない秘密を

彼が嗅ぎつけてきたため

邪魔な存在だから殺されたと思われる。

貸金庫に5万ドル入っていたから

もしかすると強請られていたのかもしれない。

 

ここで重要なのが「38口径のリボルバー」

ニールセンを殺した銃です。

これが鍵の壊れたベスの部屋の本棚で発見された。

監督が「壊れた部屋の鍵」が重要と言うのだから

このリボルバーはベスのものではないことになる。

すると同じ銃で殺されたことが証明されている

ジョゼフ・ガーナーも

キャサリンが殺したということになる。

 

なぜベスの夫まで?

ベスはキャサリンの方が

自分に執着していたと言うので

ベスを自分のものにしたかったのだろうか。

それをニールセンが捜査して

強請ってきたので邪魔だった……とか。

 

ロキシーがニックを殺そうとしたのは

本当に誤算だったと思う。

なぜなら小説では

そんな死に方を予定していないから。

シューターは悪い女に騙されて殺される予定です。

ロキシーが死んだことを悲しむより

自分の計画が狂わずに済んだから

メインディッシュの楽しみが残って

良かったと思っていそう。

(あくまでも俺の主観ね)

 

ガス殺しはベスに罪を着せるためのもので

彼にはなんの恨みも無い。

小説の通りに殺したいという

彼女のポリシーがそうさせた。

小説では相棒の死体がエレベーターから

脚が飛びだした形になっていたのを

シューターが目撃するだけなので

事件後の現場検証で

死体が運ばれる前なら同じ状況になる。

本当は死体をベスに発見させたかったはず。

ニックが駆けつけてくるのは予定外だったと思う。

 

しかしそれが好転し

ニックがベスの口を封じてくれて

ベスが犯人として事件が片付いた。

キャサリンがニックと寝るのは

感謝の気持ちもあるのだろうか。

しかしいずれは

登場人物は退場しなければならない。

あのアイスピックが不穏な未来を暗示している。

 

伏線解説(★は巧妙なもの)

【ニックの嗜好】

ニックはコカインもタバコもやめたと言う。

しかしキャサリンはしきりに

ニックにタバコを勧めてくる。

  • なぜかニックの嗜好を知っているキャサリン。この時点で彼女の方が一枚上手だということがわかる。

 

【専攻は心理学】

キャサリンの情報を調べるニック。

バークレー大学を卒業していて

専攻は文学と心理学だとわかった。

  • 臨床心理学者ベスとの繋がりを暗示する伏線。後にキャサリンとベスは大学の同窓で同じ心理学を学び、1度愛し合った過去が明らかになる。

 

【尋問中にタバコを吸う】

キャサリンが尋問中にタバコを吸う。

ここは禁煙だと注意されても

「吸ったら逮捕されるの?」と

平然と答えるキャサリン。

  • 後に尋問されたニックも同じことを言ってタバコを吸う。小説の筋書をトレースするのと同じようにキャサリンに影響されて行動を操られ始めている

 

★④【早撃ち(シューター)】

ニックは昔、

観光客2人を射殺してしまったことがあり

「早撃ち」と不名誉なあだ名をつけられている。

  • 物語のクライマックスで、ポケットに手を入れたベスを殺人者と勘違いして「早撃ち」して殺してしまう。

 

【思い出のキーホルダー】

ベスはニックの部屋の合鍵に

ザ・シンプソンズのキーホルダーをつけている。

ニックの逆鱗に触れて鍵を引きちぎられて

キーホルダーだけ返される。

  • ベスは撃たれる直前にポケットの中のキーホルダーを触っていた。それは2人の思い出の詰まった部屋の鍵がついていたもの。ベスは無意識に思い出にすがろうとしていたのだろうか。

 

【貸金庫の5万ドル】

ニールセンが3ヶ月前に借りた貸金庫に

5万ドルが入っていた。

  • ニールセンが誰かを強請っているという伏線。殺された原因はそれにある。後に彼がジョゼフ・ガーナーの死を調べていることがわかり、その犯人から強請っているのだろうとわかる。本編では明かさないが、上の「38口径リボルバー」のロジックでキャサリンが犯人と推理できる。

 

【死亡フラグ】

ガスがニックの車に乗って事故に遭いたくない、

俺は定年まで働いて金時計をもらうんだと言う。

  • こういう先のことを語って後に死亡する人間は、その時の発言が「死亡フラグ」と呼ばれる。「回収されないことが確定して回収される」伏線の1種。

 

【心理学】

心理学に長けたキャサリンは

人を操る女だと指摘するベスに

それは臨床心理学者の君も同じだと返すニック。

  • ベスが犯人である可能性の示唆。結局それはミスリードなのですが。

 

【ベスの部屋の鍵】

ベスの部屋の錠前が壊れているため

簡単にベスの部屋に入れたニック。

そのことを指摘するとベスは

「掛けたけど錠前が変になっている」と答えた。

帰り際にニックが

「鍵を直したほうがいい」と言ったが

自分を疑われて興奮しているベスは

ニックの話を聞いていないようだった。

  • 鍵が壊れていたためにキャサリンに部屋へ侵入をされて、偽の証拠(38口径リボルバーや写真など)を部屋に置かれて殺人犯にされてしまった。

 

【タイプライターの原稿】

キャサリンのビーチハウスに寄ったニックは

ちょうどキャサリンの新作本

「シューター」のクライマックスの原稿を

タイプライターで自動出力しているのを目撃する。

そこには「エレベーターには相棒の死体があり

脚が飛びだしていた」と書かれていた。

  • キャサリンが真犯人だということを示す重要な伏線。殺人前にこれだけ克明に死体の状況を予知したり偶然が重なるとは考えにくい。小説に合わせてこれから殺人を犯そうとしていることは明らかだ

 

欠点や疑問など

  • 本の筋書通りに本の作者が殺すわけがないということを「アリバイ」と言っているが、アリバイは「不在証明」のことで、その犯行現場にいなかった証拠のことです。ジョニー・ボズ殺害時のキャサリンはホテルに行かずに屋敷に帰ったと言うが、それを証言してくれるのは(共犯かもしれない)ロキシーの証言だけなので、まったくアリバイではない。
  • ベスとキャサリンの大学時代のルームメイト(おそらくブラフ)のビルの405号室にガスとベスを誘い出したが、そこにニックも居合わせたり、ガスを先行させて後から来させるとかキャサリンが予定していたシナリオではないはず。ニックを拾って行ったのだって偶然ぽかった。しかし小説はシューターが相棒の死体を発見しているからニックもシナリオの中に入っていないとおかしい。キャサリンはそこまで細かく人を操れる神なのか?展開がどうも都合良すぎる。
  • ビルに入ったガスを見送ったニックが、急にビルを見上げて血相を変えて車を飛びだしたがなにを見たのかわからない。おそらくあれはキャサリンの原稿に「相棒の死体」と「エレベーター」が書いてあったことを思い出してガスの身に危険が迫っていると察したのだと思う。……がうまく伝わっていない。
  • 心理学者のベスが、「ポケットから手を出せ」と銃を構えて殺気立っている相手に対して、すぐ両手を挙げて無抵抗を示さないで右手をポケットでもぞもぞさせるのは解せない。相手の心理すら分析できていない。そもそもキーホルダーを触る必要性がない。
  • ロキシーの事故は難しいが、ベス射殺に関してはニックが犯人なのに、犯人を撃ったのは正当防衛だから逮捕されないというのは納得できない。
  • 殺すかと思わせてフェイントを3回も入れたのはやりすぎ。結局どっちなのかよくわからないという人が続出したのも仕方ない。それで何度も同じことを聞かれて監督がイライラしたそうだが、あんたのくどい見せ方が悪かったんだよ。最後は愛し合った後にアイスピックに手を伸ばす場面で終わればよかったと思う。あるいはニックの部屋にはアイスピックが無い設定にしておけば、わざわざアイスピックを持ってきて忍ばせているコイツが絶対犯人だとわかってもらえたはずです。(実際のアレはニックの部屋のアイスピックでしょう)
  • 最後にニックは殺されなかったが、結局は殺されてしまうのか?俺の推測は「秘密を知る人物なので消される可能性は大いにあるが、キャサリンは楽しめるうちは楽しむ」と思う。ベスが犯人ではないと知っている唯一の人物がニックで、それでもキャサリンを犯人だと結論づける証拠がないためにキャサリンに従順に従うしかない状態。最後の会話シーンもキャサリンは子供は嫌いなので、ニックが「子供が欲しい」と言っていたらそのまま殺された可能性が高い。恋人ベスを撃ち殺した自責の念からアイスピックで自殺した――と見せかける偽装を行ってキャサリンは跡形もなく消えたと思われます。ニックが「子供は作らず」と言い直したのでアイスピックを離したのではないだろうか。

 

 

ベスの留守電の謎

謎なのが「ベスの留守電」。

ベスは「留守番電話に入っていた

ガスからの伝言」で

現場のビルに来たと言うが、

これはキャサリンの仕業だったのか

本当にガスからの電話だったのか不明。

 

ルームメイトに話を聞きにいくのに

ベスも呼ぶ必要はないから

ガスが直接電話したとは考えにくい。

後で警察がベスの留守電を調べたら

そんなメッセージはなくテープは未使用で

消去された形跡もないというから、

ガスからの留守電は

ベスのでっちあげの可能性が高い。

だとすればベスは何の目的で

あの時間にあの場所へどうやって呼び出されたのか?

 

……え~と、

キャサリンが犯人とするならば、

①「ガスがこのビルの405号室で

待っているから何時にここへ行け」と

キャサリンが電話したか

直接会って伝えれば同じ状況になる。

ただしこれだと2人は今も繋がっていて

連絡を取り合う仲ということになって、

それはどうも違和感がある。

 

そこで別の推理をしてみよう。

②キャサリンはベスの部屋に声色を変えて

ルームメイトのふりをして

「今夜〇時にガスという刑事と

会う約束があるの。

あなたのことを知りたがっていたわ」と

留守電に残す。

自分のことをなぜそこまで調べるのか、

ガスに会って聞きたいベスは

その時間にやってきて狙い通りにことは進む。

そして後でベスの部屋に

リボルバーや写真を置いた際に、

留守電のテープを新品に交換するのだ。

さすがにベスの口から

留守電という言葉が出ているのに

「テープが未使用だった」というのは不自然。

1回も留守電使ってない人の口から

留守電という言葉が出てきますか?

――という俺の推理で後者②を推します。

 

NBCのBlu-rayの日本語字幕がひどい

 

俺は最初に買ったのは

NBCユニバーサルが発売している

Blu-rayだったがこれがひどすぎて

後から発売した

角川版のBlu-rayを買い直したくらいだ。

 

NBC版はシャロンが

足を組んでいるジャケットの方です。

収録されている音声は英語のみ、

字幕は日本語のみというシンプルなもの。

 

「早撃ち(シューター)」を

「ぶっ放し屋」とか、

「キチガイか!」とか、

「ゴメンなさい」とか、

ニールセンがネルソンになったり

ニルセンになったりする(統一しろ)。

 

警部補がニックに命令する場面で

「お前は彼女を監視しろ」と言うのだが

この字幕は、

「お前は彼女の行き先が分かる」と言うだけ。

ん?だからどうしろと?

 

アイスピックでアイスブロックを砕いて

「刺すのが好きなの」と言う場面、

「でこぼこな端が好き」だと

好きなのがアイスの形のことになってしまう。

「夫はコカインに夢中」という場面の

「ニッキーは炎へ近づいた」も意味不明。

 

キャサリンが「コークある?」と聞いて

ニックが「ペプシなら」と答えるが

「コカインのことよ」と挑発する場面が

この字幕だと、

「同じものじゃないでしょ」

「ああ、違う」とわかりにくい。

 

ラストも「めでたしめでたし」で締めて

なんか軽い感じがする。

 

しかし1番の欠点は

キャサリンが犯人であることを示す

タイプライターの文章の字幕。

これが適当すぎる。

実際の文章は

Shooter raced into the ~r pounded the button for the ~ly up the staircase, his brea~ ~s. His partner's dead body la~ elevator, legs sticking out.

これを訳すと

「シューターは階段を駆け上がった。

エレベーターのボタンを押した。

エレベーターには相棒の死体があり

脚が飛びだしていた」となる。

 

ここで重要なのは「相棒の死体」

「エレベーターから足が出ている」の2点。

これだけでもあれば

キャサリンが犯人だとわかるのだが

問題のNBCの訳はこちら。

「彼の両親の死体が……

脚が突き出し……」

――??

両親がどうしたって?

なぜpartnerが両親になるの?

parentsってこと?

さすがにこれはひどいと思うよ。

 

幸い他の翻訳、

アマプラの字幕や角川Blu-rayは

相棒の死体がエレベーターで死んだことを

簡潔に伝えていた。

おそらくこの場面は一瞬目に入る程度で

結末まで気づかせたくない伏線だと思うから

できるだけ省略したいのだとは思うが

もう少しマシな翻訳をしてほしい。

 

実は角川版Blu-rayもおかしいところがあって

ロキシーに犯罪歴があったと

キャサリンに教える場面で

「殺人はタバコと違って

やめられるのよ(can quit)」が

なぜか「やめられない」になって

意味が逆転していた。

しっかりしてくれよ……。

 

名場面・名台詞

心理学者のラモット教授が

犯人の心理分析をする。

自分の小説を作者自身が真似て

実際に犯行に及ぶのは

異常な精神の持ち主だと言う。

ラモット「それに極めて危険な人物です。極めて邪悪で……」

 

キャサリンを警察署まで同行する。

その車内で次の新作の話題に。

ニック「新作はどういう話です?」

キャサリン「ある刑事が悪い女に惚れてしまうの」

ニック「……それで、どうなるんです?」

キャサリン「殺されるのよ」

 

キャサリンがニックの家に来て挑発。

帰りにすれ違ったガスがニックを心配する。

ガス「なんでお前は肥だめに頭つっこむようなマネをしたがるんだ?」

ニック「彼女はゲームを仕掛けた。お相手するさ」

ガス「彼女のお相手はみんなくたばる」

ニック「よくわかってる」

 

キャサリンと一夜を共にして

次第にキャサリンに惚れていくニック。

キャサリン「ベッドでイカせてもらったからといって打ち明け話をする気はないわよ。知られたくないことはしっかりしまっておくわ」

ニック「引きずり出すさ。尻尾をつかんでやる」

キャサリン「いいえ。あたしに夢中になるだけよ」

ニック「もう夢中になってるさ。(そう言ってキャサリンにキスをする)……だが必ず捕まえる。本に書いといてもいい」

 

ロキシーの死を悲しむ

キャサリンが涙をこぼす。

キャサリン「みんな……あたしの好きな人は死んじゃう」

 

 キャサリンを抱き寄せるニック。

 

ニック「泣かないで」

キャサリン「……抱いてちょうだい」

 

ロキシーが過去に弟を殺した犯罪歴があったと

ニックはキャサリンに教えると

すでにキャサリンは知っていて付き合っていた。

キャサリン「ええ、知ってるわ。殺人者の話を書いてるんですもの。取材中に親しくなることもあるわ。あなたもその1人。(ニックが吸っているタバコを取ってキャサリンが吸う)殺人はタバコと違って……やめられるのよ」

 

またキャサリンを抱いたニックは

今ニックを主人公に書いている

小説の説末を変えさせると言う。

しかし……。

ニック「刑事は悪い女に惚れてしまう。だが死なないんだ」

キャサリン「それで2人はどうなるの?」

ニック「ヤリまくってガキを作って、幸せに暮らす」

キャサリン「……売れないわね」

ニック「ははっ……どうして?」

キャサリン「誰かが死ななきゃ」

ニック「……なぜ?」

キャサリン「そういうことになってるの」

 

ベスが犯人となって事件が終わり

セックスをするニックとキャサリン。

キャサリン「あたしたち、どうなるの?」

ニック「ヤリまくってガキを作って幸せに暮らすのさ」

 

 ベッドの下に手を伸ばすキャサリン。

 

キャサリン「子供は嫌いよ」

ニック「じゃあヤリまくってガキは作らず、2人で幸せにくらそう」

 

 振り向いたニックの首にキャサリンが右手を回し、再び抱きついて熱いキス。しかし、そのベッドの下には先程手を伸ばしかけたアイスピックがあった。

 

好事家のためのトリックノートトリック分類表

9-A、その他「特殊トリック」

●筋書・教科書殺人

【自分の小説】

犯罪小説家が自分の本の中の殺人と同じ方法で殺人を犯す。

 

 

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まとめた記事です。
 
 
評価(10点満点)
『タイトル』(公開年)主要キャスト
※タイトルを選ぶと感想のリンク先につながります。
 
10点
『時をかける少女』(2006年)仲里依紗、石田卓也
『オーロラの彼方へ』(2000年)デニス・クエイド、ジム・カヴィーゼル
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)コン・ユ、キム・スアン
 
 
9.5点
『シックス・センス』(1999年)ブルース・ウィリス、ハーレイ・ジョエル・オスメント
『アイデンティティー』(2003年)ジョン・キューザック、レイ・リオッタ
『情婦』(1957年)タイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒ
 
 
9点
『ベイマックス』(2014年)ライアン・ポッター、スコット・アツィット
『ゲーム』(1997年)マイケル・ダグラス、ショーン・ペン
『アフタースクール』(2008年)大泉洋、堺雅人
『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年)濱田岳、瑛太
『殺人の告白』(2012年)チョン・ジェヨン、パク・シフ
『いま、会いにゆきます』(2004年)竹内結子、中村獅童
『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)パトリック・スウェイジ、デミ・ムーア
 
 
8.5点
『イニシエーション・ラブ』(2015年)松田翔太、前田敦子
『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)瑛太、上野樹里
『サスペリアPART2』(1975年)デヴィッド・ヘミングス、ダリア・ニコロディ
『search/サーチ』(2018年)ジョン・チョー、ミシュエル・ラー
『7番房の奇跡』(2013年)リュ・スンリョン、カル・ソウォン
『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020年)カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン
 
 
8点
『テキサスの五人の仲間』(1965年)ヘンリー・フォンダ、ジョアン・ウッドワード
『ピエロがお前を嘲笑う』(2014年)トム・シリング、エリアス・ムバレク
『シャッターアイランド』(2010年)レオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ
『キサラギ』(2007年)小栗旬、ユースケ・サンタマリア
『十二人の怒れる男』(1957年)ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ
『閉ざされた森』(2003年)ジョン・トラボルタ、コニー・ニールセン
『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』(2003年)ケビン・スペイシー、ケイト・ウィンスレット
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)福士蒼汰、小松菜奈
『ロスト・ボディ』(2012年)ホセ・コロナド、ウーゴ・シルバ
『インビジブル・ゲスト -悪魔の証明-』(2016年)マリオ・カサス、アナ・ワヘネル
『ボディ・ハント』(2012年)ジェニファー・ローレンス、マックス・シエリオット
『デジャヴ』(2006年)デンゼル・ワシントン、ポーラ・パットン
 
 
7.5点
『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)ケヴィン・スペイシー、ガブリエル・バーン
『ファイト・クラブ』(1999年)エドワード・ノートン、ブラッド・ピット
『サイコ』(1960年)アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー
『下妻物語』(2004年)深田恭子、土屋アンナ
『真実の行方』(1996年)リチャード・ギア、エドワード・ノートン
『母なる証明』(2009年)キム・ヘジャ、ウォンビン
『女神は二度微笑む』(2012年)ヴィディヤー・バーラン、パランブラト・チャテルジー
『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017年)藤原竜也、伊藤英明
『ジェーン・ドウの解剖』(2016年)エミール・ハーシュ、ブライアン・コックス
『がっこうぐらし!』(2019年)阿部菜々実、長月翠
『#生きている』(2020年)ユ・アイン、パク・シネ
『ジェイコブス・ラダー』(1990年)ティム・ロビンス、エリザベス・ペーニャ
 
 
7点
『ショーシャンクの空に』(1994年)ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン
『忘れないと誓ったぼくがいた』(2015年)村上虹郎、早見あかり
『プレステージ』(2006年)ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベール
『インセプション』(2010年)レオナルド・ディカプリオ、ジョセフ・ゴードン=レヴィット
『マッチスティック・メン』(2003年)ニコラス・ケイジ、サム・ロックウェル
『スイミング・プール』(2003年)シャーロット・ランプリング、リュディヴィーヌ・サニエ
『あさひなぐ』(2017年)西野七瀬、白石麻衣
『手紙は憶えている』(2015年)クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー
『嵐の中で』(2018年)アドリアーノ・ウガルテ、チノ・ダリン
『ロフト -完全なる嘘-』(2010年)バリー・アトスマ、フェジャ・ファン・フェット
『ドント・ブリーズ2』(2021年)スティーヴン・ラング、マデリン・グレイス
『ザ・ハント』(2020年)ベティ・ギルピン、ヒラリー・スワンク
『氷の微笑』(1992年)シャロン・ストーン、マイケル・ダグラス
 
 
6.5点
『エスター』(2009年)ヴェラ・ファーミガ、イザベル・ファーマン
『オールド・ボーイ』(2003年)チェ・ミンシク、カン・ヘジョン
『ドント・ブリーズ』(2016年)ジェーン・レヴィ、スティーヴン・ラング
『殺人の追憶』(2003年)ソン・ガンホ、キム・サンギョン
 
 

伏線回収まとめ(★はとくに巧妙なもの)

●言葉の伏線
★『ゴースト/ニューヨークの幻』 Ditto.(同じく)
★『新感染ファイナル・エクスプレス』 アロハオエ
★『プレステージ』 (結び方が)「わからない」
★『ベイマックス』 「ベイマックスもう大丈夫だよ」
『アフタースクール』 「お父さん、まだいないです」
『サマータイムマシン・ブルース』 「ツーペア」
『情婦』 「溺れる者はカミソリの刃でもつかむ」
『殺人の告白』 第14代大統領選の速報
『キサラギ』 「命より大切な宝物です」
『閉ざされた森』 「話のつじつまさえ合っていればいい」
『マッチスティック・メン』 「騙す相手には絶対騙されるな」
『ジェーン・ドウの解剖』 ラジオの天気予報
『十二人の怒れる男』 殺意のない「殺してやる」
 
●映像の伏線
★『ソウ』 最前列
★『サスペリアPART2』 消えた絵の手掛り
★『いま、会いにゆきます』 澪の服装
★『アイデンティティー』 窓の外の人影
『ユージュアル・サスペクツ』 KOBAYASHI
『ピエロがお前を嘲笑う』 角砂糖のマジック
『アヒルと鴨のコインロッカー』 動物園の写真
『インセプション』 結婚指輪
『search/サーチ』 メモ「親が警官、マーゴットを好き」
『デジャヴ』 「U CaN sAVe heR(お前は彼女を救える)」
『イニシエーション・ラブ』 劇団のチラシ

『新感染半島ファイナル・ステージ』 ガラスの向こうの感染者

『7番房の奇跡』 有刺鉄線に引っかかった黄色い風船

『女神は二度微笑む』 テロ現場にいた男

 
●状況・人物・設定の伏線
★『ゲーム』 48歳の誕生日
★『シックス・センス』 すれ違う会話
★『テキサスの五人の仲間』 邦題
『オーロラの彼方へ』 タバコ
『シャッターアイランド』 シーアン医師
『ファイト・クラブ』 「僕」の名前
『真実の行方』 首の怪我
『時をかける少女』 白梅二椿菊図
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』 愛美の涙
『ドント・ブリーズ』 捨てたバール
『ドント・ブリーズ2』 ヘルナンデスの車の鈴
『ショーシャンクの空に』 ロックハンマー
『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』 ビニール袋の指紋
『ロスト・ボディ』 8時間後
『ボディ・ハント』 転送電話
『母なる証明』 嫌なことを忘れるツボ
『手紙は憶えている』 正確な射撃
『エスター』 歯医者嫌い
『オールド・ボーイ』 見覚えのある顔
『ジェイコブス・ラダー』 手相占い
『氷の微笑』 早撃ち
『嵐の中で』 アラベスコのブックマッチ
『インビジブル・ゲスト ー悪魔の証明ー』 劇団仲間
 
 

 

人は、一日に一歩ずつ『ジェイコブの階段』を登っている。

 

『ジェイコブス・ラダー』

[Jacob's Ladder]

(1990年)アメリカ映画

 

 

 

<あらすじ>

突然地下鉄の車内でかつてのベトナム戦争での体験が蘇り、何者かに刺される夢を見た時からジェイコブ・シンガー(ティム・ロビンス)の日常には奇妙な幻覚が交錯するようになった。かかりつけの医師に相談に向かうが、医師は既に死亡していてジェイコブのカルテも失われていた。地下鉄が閉鎖されたり、化物に車で轢き殺されそうになったと訴えるジェイコブに、同棲相手のジェジー(エリザベス・ペーニャ)は「ニューヨークだから得体の知れない連中ばかり。アル中患者か暴走族よ」とそっけない。

自分の精神状態に危惧を抱いたジェイコブは悪夢のようなパーティーを目の当たりにして、ついに高熱を出して意識を失ってしまう。目覚めるとそこには別れたはずの妻や子供たちの姿があった……。しかし再び気がついてみると彼はジェジーの部屋にいた。今のは夢?それとも現実なのか?

そんなある日、ジェイコブはかつての戦友ポール(プルイット・テイラー・ヴィンス)に会い、彼もまた同じ幻覚に悩まされていることを知って驚く――。

 

<スタッフ>

監督: エイドリアン・ライン
製作: アラン・マーシャル
製作総指揮: マリオ・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ
脚本: ブルース・ジョエル・ルービン
撮影: ジェフリー・L・キンボール
音楽: モーリス・ジャール

編集:トム・ロルフ

 

 

<キャスト>

ティム・ロビンス(ジェイコブ・シンガー)郵便局員

エリザベス・ペーニャ(ジェジー/ジェゼベル)郵便局員

ダニー・アイエロ(ルイ)矯正師

マット・クレイヴン(マイケル・ニューマン)科学者

プルイット・テイラー・ヴィンス(ポール・グラニカー)戦友

エリック・ラ・サル(フランク)戦友

ヴィング・レイムス(ジョージ)戦友

ブライアン・タランティーノ(ダグ)戦友

アンソニー・アレッサンドロ(ロッド)戦友

スザンヌ・シェパード(看護師)受付の看護師

ジェイソン・アレクサンダー(ギアリー)弁護士

パトリシア・カレンバー(サラ)ジェイコブの妻

ブライアン・ラーキン(ジェド)ジェイコブの息子・長男

B・J・ドナルドソン(イーライ)ジェイコブの息子・次男

マコーレー・カルキン(ゲイブ)ジェイコブの息子・三男

 

感想

1971年10月6日メコン川デルタ地帯で

突然の敵襲に味方が死亡し、

森の中に逃げたジェイコブも

何者かに腹を刺されて意識を失う。

気がついたら5年後の地下鉄――。

今のはベトナム戦争の時の回想で

負傷により名誉除隊となった彼は

妻と別れて不倫相手のジェジーと同棲し

普通の郵便局員として働いていたが、

やがて彼の周りに奇妙な出来事が起き始める。

夢と現実との区別がつかなくなって

悪夢の中を彷徨う男の

恐怖の体験を描くサイコ・スリラー。

 

『フラッシュ・ダンス』や『危険な情事』の

エイドリアン・ラインが監督。

脚本のブルース・ジョエル・ルービンは

同年の『ゴースト/ニューヨークの幻』で

アカデミー脚本賞を受賞している。

 

主演はティム・ロビンス。

『ショーシャンクの空に』

『ミスティック・リバー』などが代表作。

『隣人は静かに笑う』では謎の隣人を演じた。

『ホーム・アローン』でブレイクする前の

マコーレー・カルキンが重要な役を演じ、

ジェジー役のエリザベス・ペーニャが

セクシーなおっぱいを披露。

 

顔をのっぺらぼうにしたり袋を被せて

顔をシェイクさせて恐怖を与えてくる

「異形の怪物」の造形は

ゲーム『サイレントヒル』のクリーチャーに

影響を与えたと言われている。

 

ヒントがあからさまだったり

同様のオチの作品が他にも存在するため

早々にオチは読めたけど

ラストシーンの美しさと切なさにやられた。

さすが名作と言われるだけあるなぁ。

 

 

☆☆☆☆☆ 犯人の意外性

☆☆☆☆☆ 犯行トリック

★★★★☆ 物語の面白さ

★★★☆☆ 伏線の巧妙さ

★★★☆☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 ◎

エッチ度 〇

泣ける度 〇

 

評価(10点満点)

 7.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

 

<結末>

サイゴンの化学戦争班のマイケルから

ベトナムで生体実験が行われたこと、

前線の兵士達の食事に

闘争本能を高めるというという

覚醒剤「ラダー」が混ぜられていたと聞く。

しかし猿や子供の実験で失敗した通り

うまくいかず兵士達は次々と理性を失い

そのせいで味方同士で殺し合ってしまった。

 

かつて住んでいた

ブルックリンの家に戻ったジェイコブは

階段の下でたたずむゲイブを見つける。

死んだはずの息子に手を引かれ

光の差す階段を2人はゆっくり登っていく。

 

現実のジェイコブは味方に刺された後、

運ばれた野戦病院で息を引き取っていた。

戦い疲れた安らかな死に顔で……。

すべてはラダーがもたらした

死の直前の幻覚だったのだ――。

 

壮大な夢オチ

この物語は戦争で負傷し

意識不明のジェイコブが

死の間際に見た走馬灯でした。

 

退役軍人が後遺症や心の傷(PTSD)で

苦しんでいるように見せたミスリードで

実際には戦争から生きて戻ることができず、

ニューヨークでのジェジーとの同棲も

その後の仲間とのやりとりや

前妻サラと息子たちの場面も

マイケルのラダーの説明も実際にはなかった。

つまり「夢オチ」です。

 

夢オチは他にも類似作品が多いため

途中でもしやと思った方も多いはず。

(監督はロベール・アンリコの短編映画『ふくろうの河』を想像したらしい。原作はアンブローズ・ビアスの『アウルクリーク橋の出来事』)

 

その類似作品の感想で

『ジェイコブス・ラダー』の名前が挙がって

最初から知っていた人もいるでしょう。

自分もそうでした。

しかし途中であからさまな伏線があったり

ネタ自体は隠そうとしていないようにも思えた。

ラストも綺麗にまとまっていると思う。

 

ベトナムに行く前のサラと過ごすジェイコブ、

ベトナムで刺されるジェイコブ、

帰還してジェジーと同棲中のジェイコブと

3つの時系列があってわかりにくいが、

ベトナム戦争のジェイコブが現実で

その他は妄想(夢)にすぎない。

 

それでは実際にあったことと

妄想の出来事を分別してみます。

【現実】

①サラと結婚し3人の子供を作る。ブルックリンに自宅があり、離婚はしていない。

②ベトナム出発前に三男ゲイブを自動車事故で亡くした。

③ベトナムで味方の兵士の銃剣で腹を刺されて重体。

④ヘリで運ばれ手当をしたが野戦病院で死亡する。

【妄想】

①ニューヨークの郵便局で働き、ジェジーと同棲している。

②地下鉄に閉じ込められたり、化物が乗った車に轢かれそうになる。

③矯正師ルイに治療してもらう。

④パーティーでジェジーが悪魔にレイプされる。

⑤ブルックリンの自宅でサラや息子たち(ゲイブもいる)とのひととき。

⑥ポールから電話、ポールの自動車が爆発する。

⑦弁護士との対話、政府に拉致され、サンタクロースにサイフを奪われる。

⑧病院をストレッチャーで運ばれ、目がない医師に注射される。

⑨サラが見舞いに来る。

⑩ルイに病院から連れ出される。

⑪マイケルから覚醒剤ラダーの話を聞く。

⑫ブルックリンの自宅でゲイブと出会う。

 

――ほとんどが妄想の中の物語。

サラと息子達との場面も

ジェジーとの妄想生活を夢で見ているため

あれも妄想の中の妄想ということになります。

 

現実と夢がリンクしている場面もある。

現実で泥まみれで雨に濡れていた時は

夢では泥まみれでシャワーを浴びていた。

現実で腸がはみ出している時は

悪夢のようなパーティーで、

現実でヘリに銃弾を受ける場面は

夢でポールの車が爆発した――など。

 

 

ヤコブの梯子

『ジェイコブス・ラダー』とは

「ヤコブの梯子」
ジェイコブは英語読みで、

旧約聖書ヘブライ語では「ヤコブ」

「ヤコブの梯子」は、

旧約聖書に登場する

ヤコブが夢で見た天から地へと伸びる梯子のこと。

 

この物語は

「突然訪れた死に対し

それに気づいて認めるまでの過程を

天使と悪魔の構図で描いた作品」だ。

 

矯正師のルイがエックハルトの言葉で

ジェイコブに語ったことが本作のテーマ。

「死を恐れて踏みとどまると

悪魔がやってくる。

穏やかな心でいれば

天使が地上から魂を解放してくれる」

 

悪魔側にいるのが

ジェジーことジェゼベル。

ヘブライ語表記のイゼベルは

新約聖書『ヨハネの黙示録』では淫婦。

ジェイコブを堕落させて虜にする役割。

肉体で誘惑したり

行かないでと踏みとどまらせようとしてくる。

思い出の写真を焼いて忘れさせて

何があっても気のせいよと言い、

そして地獄へ連れていくつもりだろう。

 

地下鉄の車内で寝ていた男には尻尾があり、

看護師のナース帽の下には悪魔みたいな角、

パーティーの冷蔵庫の中にヤギの頭や

カラスが飛び交ったりして

悪魔を連想させるものが多い。

ジェイコブを乗せたストレッチャーの行き先が

だんだん異常な風景に変わっていくのは

地獄に近づいていることを表現しており、

そこで「君はもう死んでいる」と言われても

ジェイコブは死を認めず

あと一歩のところで踏みとどまった。

 

天使側にいるのがルイやゲイブで

ジェイコブはルイのことを

智天使ケルビムと表現している。

ジェイコブを整体を通して治療したり

地獄の一歩手前から救い出してくれた。

 

ゲイブは天使ガブリエルのこと。

最後に生への執着を離れ

自分の死を受け入れたジェイコブを

天国へ導いてくれたのだ。

 

我々はこれから誰もが死を経験する。

突然の死に直面した時、

愛したものすべてに執着するだろう。

やり残したことを悔いるし

死にたくないと抵抗もするだろう。

しかし穏やかな心で

死を受け入れることができれば

人は誰もが天国へ行けるのかもしれない――。

 

伏線解説

【カミュ『異邦人』】

地下鉄で目を覚ましたジェイコブが

持っている本がカミュの『異邦人』

  • カミュの『異邦人』は主人公ムルソーが太陽の眩しさを理由にアラビア人を殺し、死刑判決を受けたのちも幸福であると確信するという不条理をテーマにした小説。これから起こる不条理な世界への示唆と受け取れる。後にジェジーと同棲中のアパートのジェイコブの部屋でも『異邦人』が映る。

 

【麻薬の広告】

地下鉄の車内広告に

「麻薬は地獄 今ならまだ立ち直れる」

と麻薬を警告する広告がある。

  • 覚醒剤ラダーの存在を示唆。

 

【尾行する科学者】

暴走車が襲って来た時に

「危ない!」と叫ぶ男。

ポールと会ったバーにも姿を見せ

車の爆発から守ろうとしてくれた。

  • 彼が軍の科学者マイケルで、ずっとジェイコブを尾行していた。

 

【手相占い】

黒人の占い師が

ジェイコブの手相を見て

「あなたもう死んでるわ」と言う。

  • ジェイコブが死んでいる(もうすぐ死ぬ)というわかりやすい伏線その1。

 

【氷水に浸けられる】

寒気がするというジェイコブを

水風呂に浸けて

氷を大量に入れられる。

  • 氷水に浸かることはキリスト教徒の洗礼。罪を洗い清める儀式で、洗礼とは死を意味する。死への伏線。

 

【寒い=死者】

気づいたらサラと寝ている場面。

「寒い」と言うジェイコブと

「寒くないわ」と言うサラ。

そこにやって来たゲイブも「寒い」と言う。

  • 死んだ人間(これから死ぬ人間)が寒いと言っているのは暗示的。

 

【ジェジーの歯】

悪魔の本を読みふけっているジェイコブに

ジェジーが怒って

「聞こえてるんでしょ!誰もいないの!?」

と言う場面で

口の中に小さな歯がある。

  • ほんの一瞬のシーンだが、ジェジーの異様な悪魔の姿が示される。

 

【死の宣告】

ストレッチャーで運ばれた先で医師から

「君はもう死んだんだよ」と言われる。

  • わかりやすい伏線その2。

 

その他の小ネタ。

ジェイコブが1セント硬貨(ペニー)を拾おうとすると

ペニーが手から逃れるように飛び、

エンジンをかけたポールの車が爆発する。
「道に落ちているペニーを拾うと1日幸運」

という意味を逆にしたもの。
 

ジェジーやサラがやけに

ジェイコブの背中を触るシーンがある。

矯正師ルイも背中を治療し

政府の車から逃げたときも

背中を痛めて動けなくなった。

痛みから逃れるならこちらにおいでと

手招きしているのだろうか?

 

アメリカ陸軍の

名誉除隊証明書はミスリード。

そうであってほしいという

ジェイコブの願望が形になっている。

その後の⑨ゲイブの

早く帰って来てという手紙

これが夢であるという伏線。

ゲイブはジェイコブが

ベトナムに行く前に死亡しているため。

 

 

欠点や疑問など

  • 夢オチネタなので結末が読まれやすい。とくに占い師の「もう死んでる」発言は、伏線としてわかりやすすぎる。

  • 点滅の激しい場面があるのでポケモンフラッシュに注意。

  • 聖書にちなんだネタが多く、日本人には理解が難しい。

  • ジェジー自体は存在するのか?ということに関して。メイキングによれば脚本家が「ジェジーはジェイコブが郵便局で夢想した誰かなのかもしれない」と言っており、死の間際に性衝動が強くなって現れた幻影という話をしていた。ジェジー役のエリザベス・ペーニャも、ジェジーはジェイコブが今まで会った女性の理想像という解釈をしている。つまり実在しない架空の存在。

  • 未公開シーンについて解説。13分ほどある。マイケルから解毒剤を飲ませてもらったジェイコブは体が動かなくなり、天井を突き破って化物が迫ってくるという幻覚に襲われる。これで悪魔は消えたかと思われたが、駅のトイレで隣の個室から「Dreamer(夢だ)」と聞こえて驚いて隣のドアを開けたが誰もいなかった。ブルックリンの自宅で待っているとジェジーが登場。「終わりよ」と言って悪魔の姿を現す。頭をシェイクしている布を取るとジェイコブの顔が!ジェジーも悪魔の幻覚もその正体は自分が作り出したものだった。――というものです。本編でサラが見舞いに来た時にどこからか聞こえた「Dreamer」の正体ははっきりしない。ちなみにさらにカットしたシーンがあり、トイレの後で再びマイケルに会いに行くと地下の実験室のキャビネットで殺されたマイケルの頭部を見つけるらしい……。

  • 欠点というか実は俺、最初『ジェイコブ・ラダー』と読んでいた。正しくは『ジェイコブ・ラダー』ですね。SNSでも間違っている人をよく見かけますから注意。

 

名場面・名台詞

背中を打って病院に運ばれたジェイコブ。

矯正師のルイがジェイコブを連れ出して

治療したあとにこう言葉をかける。

ルイ「エックハルトを読んだことがあるか?」

ジェイコブ「いや……」

ルイ「それでよく博士号が取れたもんだ」

 

<中略>

 

ルイ「エックハルトも地獄を見た。そしてこう言っている。地獄で焼かれるものは、人間の生と繋がっている部分だ。思い出とか愛着とか、すべて焼き尽くされる。でも罰するためではなく魂を自由にするためだ。――エックハルトによると、人が死ぬのを恐れて踏みとどまってると、悪魔が命を奪いにやってくる。だが、穏やかな心でいれば悪魔は天使となって地上から人を解き放つ。心の持ち方ひとつなんだ。だから心配いらん。いいね」

 

<中略>

 

ルイ「じゃ、ひとつ試してみよう。ちゃんと立てるかどうか」

ジェイコブ「自分一人で?」

ルイ「うん、できるさ。おもいきって試してごらん。足を出して」

 

 そっと歩き出すジェイコブ。

 

ルイ「出来るじゃないか。いいぞ、もう一歩。ほら歩ける。……おめでとう!(ハレルヤ!)」

 

ブルックリンの自宅。

眠ってしまったジェイコブがふと階段を見ると

死んだはずのゲイブがいる。

ゲイブ「パパ……大丈夫だよ、パパ、上に行こう。……おいでよ」

 

ジェイコブの手を握り、ゲイブに導かれるように階段を昇ると光に包まれる。

場面は変わって野戦病院。軍医が患者の死亡を確認。

 

軍医A「……死んだ」

軍医B「平和な死に顔だな。苦しい戦闘だったろう」

軍医C「すみません、名前は?」

軍医A「シンガーだ。ジェイコブ・シンガー」

 

 

 

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