そんなこんなで

夫(英国人)の実家で

牛を追ってきた私です。

 

牛の集団を冬用牧草地から

春用牧草地に移す、いわば

この時期の恒例行事なんですが、

本年は夫の父、すなわち

わが義父(白色シュレック)が

負傷欠場ということで

他所から経験者を連れてきて

私を入れて総勢6名が現場入り。

 

一歩間違えると膝を越えて

太腿まで地面にめり込むほど

足場の悪い場所での

作業になるので足元は長靴、

『いざという時用』に各自

杖あるいは棍棒

もしくは角材を所持。

 

(気分は『丸太は持ったな』)

 

 

 

 

風の強い日だったので

私は帽子を目深にかぶり

マフラーで口元を覆い

・・・東京をこんな格好で

歩いていたら間違いなく

職務質問対象者だよな、と・・・

 

わが義実家の牛追いの方法は

牛が『行って欲しくない方角』に

人員を配置したのち、

牛の集団に背後から近づき、

行き先を強制するのではなく

牛に『選ばせる』、すなわち

人間が立っていない方角に

自分たちの判断で

(あるかのように)進ませる、

というものでございます。

 

 

ちなみに牛は凶暴な動物では

ないのですが、興奮すると

なにせあの巨体、人間など

ひとたまりもないので

まず第一に『気を

荒げさせないこと』が大事、

つまり人間側が突然動いたり

大きな音を出したりは控える。

 

ただ万一牛が何かに驚いて

自分の方向に向かって来たら

その時は棍棒を振り上げ

大声を出し気力で相手を制する。

 

・・・牛飼いの皆様はですね、

『怖い声』を隠し持っていますよ。

 

えっ!普段は物静かな

あの人がこんな声を!みたいな。

 

いわば『喧嘩用』の声。

 

私はそういう声を出すのが

苦手なので、もし牛が

自分のほうにやって来たら

深呼吸してから猿叫とともに

あっちの鼻の穴に

杖の先を捩じりこもう、

目は一応さけよう、とか

ある種物騒なこと

考えていたためか、

どの牛もこの牛も私と目が合うと

「あ、こいつはヤベー」みたいな

表情で顔を背け、ついでに

体の向きも変えてくれたので

何事もなく本当によかったです。

 

なお牛がこちらの望む通りに

移動してくれている間

人間側は牛がそのまま

動き続けてくれることを願って

『優しい声で

話しかける』んですけど、

私はよく考えたら

優しい声を出すのも苦手で、

だって普段そんな声使います?

 

でも牛が私の前を通り過ぎつつ

こちらをちらりと見てくると

ここは何か声をかけるべきだな、と

私の口から飛び出してきたのが

「はい、お客様~、

目的地あちらでございます、

そのまままっすぐ

お進みくださいませ~え

(中堅デパートの

催事場案内係の声音で)」

 

「はい、お待たせして

大変申し訳ございません~、

行列前へ進みます、どうぞ

お続きくださいませ~え」

 

人間追い込まれるまで

自分の中にどんな人格が

隠れ潜んでいるか

わかったもんじゃありませんね。

 

まさか私の中にあんな

牛あしらいの上手な

デパート店員さんが

存在していたとは・・・!

 

この牛の移動を我々は

合計3回執り行いました。

 

 

冬用牧草地が広すぎて

6人じゃ牛を追いきれないので

住宅側のゲートを開けて

牛が寄って来てくれるのを待ち、

台所から普段はおっとりと

柔らかい声しか出さない

わが義母(アダムス家の良心)が

「コラっ!私の花壇を

踏みにじるんじゃないっ!」と

太く迫力のある声で

叫んでいるのが聞こえたら

『牛の団体様が集合』の合図で

 

 

人間側が経路案内に

走り出ていく、という。

 

牧畜って大変ですね。

 

牛も人も

怪我がなくてよかったです。

 

 

なおわが義父は途中で一度

自分抜きで牛追いが

上手く行っているか心配になり

杖で体を支えながら

外に出てきてしまったのですが

その瞬間、わが夫と義妹が

ものすごい声で

義父を怒鳴ってですね

 

・・・ほら、風も強かったし、

距離もあったし、義父の背後に

雄牛が迫っていたし・・・

 

英国の田園風景の中を

散歩中に偶然『牛の移動』に

巻き込まれてしまった場合、

すみやかに牛に道を開け

決して彼らの進路を

ふさいではいけません

 

500キロ超の大牛の

頭突きからの前蹴り・

横蹴り・ボディプレスを

経験したいというなら

止めませんけど

 

牛には可愛いイメージしか

持っていないアナタも

彼らの大力をご存知のあなたも

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