「お前が殴ったぐらいで

そんなに簡単には人は死なねぇよ

今、ゲオルグは頭にきて

お前たちを捕まえようとやっきになってるだろうけど

詳しく調べられて困るのは奴のほうさ

だから、この事件は有耶無耶になるはずだ」

 

シュテファンはマヌエラの手を強く握って微笑んだ

 

 

逃亡(11)

 

程なくして舟がブルンネンの船着場に着くと

フェンリルが真っ先に艀に飛び移り

お座りをしてヴィルが舟を繋ぐのを見守る

 

「シュテファンはフードを被れ

まだ誰も事件のことは知っちゃいない

だけど、しばらくは人に見られない方がいい

フェンリルの後ろを歩け

マヌエラは俺についてくるんだ」

 

ヴィルは乗客を降ろすと

大きなチーズを布でくるんで軽々と肩に担いだ

 

「よし、行け、フェンリル」

 

白い狼は、立ち上がってさっそうと歩き出した

 

ブルンネンに来るときは

大抵シュタウファッハー家に用事がある時だ

 

フェンリルは何も言われずとも

真っ直ぐにシュタウファッハー宅へと向かう

 

幸いにも、黄昏に包まれた村はひっそりとしていて

ほとんど人に出会わなかった

 

「やあ、珍しい客人だ

どうだな、シュテファン、新しい村の暮らしぶりははてなマーク

 

シュタウファッハー家の若当主は

腕を握って握手しながらシュテファンの肩を叩いた

 

こんな日に限って

ハンス自らが玄関まで出迎える

 

大きな声で名前を呼ぶんじゃない

 

ヴィルは誰かに聞かれやしないかと

気が気ではなかった

 

 

つづく