「あの野郎、未だに仕返しなんて子供じみたことを繰り返しているのか」
ヴィルが肩をすくめて
テーブルに両肘を付いて手を組んだ
逃亡(14)
「どんな仕返しをするんだ」
「メルヒタールでゲオルグに
挨拶をしなかった少年がいたんだけど……」
「メルヒタールというとオプヴァルテンの村だな」
シュテファンは頷いて、
「その子がゲオルグに追われて家まで
逃げ帰ったって事件があったんだ……」と言葉を詰まらせた
「それで、どうしたんだ……」
ヴィルは眉をしかめた
「奴はその子の父親を家から引きずり出して……」
そこでシュテファンは、重いため息をついた
ふたりの話によると、ゲオルグは誰も逮捕せずに、子供の目の前で真っ赤に焼いた鉄の棒を父親の両の眼に突き刺して潰したという
運悪く父親は傷から悪い菌が入り込み
七日の後に絶命した
何の罪もない
善良な父親が残忍な拷問を受け死んだ
この話はほんの一例であり
他にも若い女が拉致同然に連れ去られる事件が
何度も起きており
オプヴァルテンの若い女たちは
ゲオルグに会うことを恐れて
ほとんど外出しなくなったという
ゲオルグの暴走をゲスラーは止めようとしない
ゲスラーには、かえって好都合であったのだ
アイトゲノッセンの不満が
ウーリ出身のゲオルグに集まれば
ウーリ、ウンターヴァルテンの確執が深まり
ゲスラーの計画も容易に
進めることができるというものだ
つづく