横浜市都筑区の大型マンションが施工不良で傾いている問題で、基礎のくい打ち工事で偽装データを使った旭化成建材の現場担当者が社内調査に「工事データを記録する機械のスイッチを入れ忘れ、データを取り忘れた」と話していることが、同社への取材でわかった。その一方で偽装理由については「覚えていない」と説明するなど、話に不自然な点が多く、旭化成建材は第三者を交えて詳しい調査を始める。

◇不自然な説明

 傾いたマンションを支えるくいのうち、6本は強固な地盤(支持層)に達せず、2本も支持層に十分差し込まれていなかった。旭化成建材は、くいが支持層に達していないことを現場担当者が知りながら、それを隠蔽(いんぺい)するためデータを偽装した可能性もあるとの見方を強めている。

 マンションは4棟あり、西棟が約2センチ傾いている。施工会社は三井住友建設で、旭化成建材が2次下請けとして2005年12月~06年2月に基礎工事を実施した。2チーム(各3人)がそれぞれ掘削機を使って4棟のくい計473本を打った。

 しかし、くいが支持層に届いたか確認するデータに他のデータが転用されたり、加筆されていたりしたのが中央棟で18本、南、西両棟で各10本あった。くいを補強するためのセメント量のデータが偽装されていたのは中央棟で36本▽南棟で5本▽西棟で4本--だった。13本は二つの不正が重複しており、データが偽装されていたくいは計70本になる。

 旭化成建材は社内調査を踏まえ、データ偽装をしていたのは1チームで、その現場担当者が主に偽装したとの見方を強めている。不十分だった西棟のくい8本について、現場担当者は「くいは支持層まで達していた」と話す一方、偽装の理由を尋ねても「覚えていない」などと不自然な説明をしているという。こうした点について、同社は「説明がつかない。意図的な、何らかの操作があったのではないか」とみている。

 一方、現場担当者が工期の間に2日間、インフルエンザで休み、この間データを取得していなかった。旭化成建材は「(現場担当者は)最初は整理できていたが、工期終盤に整理がずさんになった可能性がある」と説明。データの管理とチェック体制に不備がなければ今回の問題を防げた可能性が高く、同社は「チェックや管理のあり方に不備があった」と組織上の問題も認めた。

 現場担当者は職場経験が15年程度のベテランという。旭化成建材は今後、過去にくい打ちを担当した全国の約3000棟に不正がなかったか調べる方針で、この現場担当者が携わった物件についても詳しく調査する。【岸達也、山田奈緒、水戸健一】

 ◇検査では発見は困難

 建築基準法施行令は、マンションなどの建築物について、構造上安全なものとするよう定めている。違反の場合、設計者や施工者に対する罰則規定もある。

 問題のマンションは横浜市が2005年11月、着工を認める建築確認済証を交付し、くいを打ち込む工事は翌12月から06年2月にかけて実施された。直後の06年3~4月、東京都内の民間検査機関が建築基準法に基づく中間検査をしている。

 中間検査は、建築確認の申請通りに施工され、安全に基礎が作られたかを、現地で書類や図面を見ながら調べる。しかし、くい打ちなど地中の工事は終わっており、業者の施工結果報告書の記載内容を信じるしかないのが実情だ。問題のマンションはこの報告書の記載内容の一部が虚偽だった。

 横浜市の担当者は「不正を見つけ出す検査ではなく、性善説で運用している制度だ。くいの深さをわざわざ抜き打ちしてまで確認しない」と話す。「市内では1年間に約1万5000件の建築確認が申請されており、今回のような不正を見抜くことは不可能に近い」と苦渋の表情を浮かべる。【水戸健一、国本愛、内橋寿明】