先月26日に出版されたジム・ロジャーズ氏との共著『大暴落』(プレジデント社)がおかげさまで増刷となった。多くの人が先行き不安を感じている証拠だ。株も円もまもなく大暴落すると私とジム氏は警告している。

こうした中、円安が深刻さを増している。先月29日に一時1ドル=160円台に突入した。政府日銀は同日に5兆円規模、5月1日も3兆5000億円規模の為替介入に踏み切ったとされている。

ただ、為替介入は「問題提起」程度の効果しかない。円安は構造的な要因だ。それよりも、為替介入の原資がなくなったときは、いよいよ打つ手なしのXデーだと心配する。ドル売りの為替介入には原資がいる。原資の外貨準備高は、約200兆円とされるが、ほぼ米国債だ。米国債を売ることは、米国が反対し実質できないだろう。外貨預金は20兆円程度だけで、あとは短期の債券があるだけだ。

2日の日経新聞は、為替介入は「あと8回」程度だと推測するが、外貨預金だけで考えれば残りは十数兆円しかなく、私は「あと3~4回」ではないかとみている。

かつて世界三大投資家の1人、ジョージ・ソロス氏が1992年に英国の通貨ポンドを大量に売り、イングランド銀行(中央銀行)を負かしたことがあった。日本も為替介入の原資が尽きると見透かされ、ヘッジファンドから大量の売りを浴びられると、円は大暴落しかねない。

黒田東彦前日銀総裁が「円安は一時的」とコメントしていたが、あまりに無責任に感じる。一時的で済まない理由をつくったのは、黒田バズーカともてはやされた異次元の金融緩和だ。

最近、江戸時代の歴史書を読んだ。藩は財政が厳しくなると、水路を作り、新田や塩田を開拓するなど実業に力を注いできた。藩札を増刷することはしなかった。貨幣を大量に刷れば価値が下落するという常識は、その時代からの原理原則だ。

『大暴落』でも、「50年ぶりの円安が意味するもの」を詳しく解説しているが、ジムさんは、「70~80年より人口動態が悪く、借金が多いので、50年前よりさらに円安に動く可能性がある」と語っている。

ワタミは今週5月16日に創業40周年を迎えるが、創業当時の84年は1ドル=237円だった。当時の経営を思い出すと、円安が苦しいとは思わなかったし、物価も高いと思わなかった。金利も高かったが、銀行に提出する事業計画は毎年、右肩上りのものが描けた。人口が増えていたことが大きい。

しかし、これから迎える、円安や金利上昇は、日本経済に大打撃だ。そうした中でも、ワタミを成長させていく責任がある。円安に強い、農業、インバウンド、そして海外事業。このへんが有望事業となってくる。ジム氏は、「まもなく人生最大のクラッシュが来る」と断言する。経営者人生最大の覚悟で乗り越えていきたい。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より