溶接の火花 -2ページ目

溶接の火花

金属造形家、高橋洋直の備忘録。

前回に引き続き工蟲とヒトについて。


工蟲は何故かヒトの作業を手伝ったり、ヒトの役に立つような習性を持っています。


それは何故なのか、何のためにその習性を獲得するに至ったか。

多分我々人間には当分わかる日は来ないと思います。


自分たちの事さえ大してわかってない訳ですし。


という感じのお話。


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前項では、工蟲はヒトの認識機能に何らかの干渉をしていると考えられており、個体差はあれどヒトはその影響を受けていると考えられている、ということについて述べる。


次は、もう少し直接的な工蟲とヒトの関係性について話していこう。

まずはエダオトシ 𝑩𝒓𝒆𝒗𝒊𝒔𝒆𝒓𝒓𝒂 𝒓𝒆𝒄𝒊𝒑𝒓𝒐𝒄𝒂𝒓𝒆𝒏𝒔 の例だ。


エダオトシ 𝑩𝒓𝒆𝒗𝒊𝒔𝒆𝒓𝒓𝒂 𝒓𝒆𝒄𝒊𝒑𝒓𝒐𝒄𝒂𝒓𝒆𝒏𝒔


この種は“往復する短鋸”といった意味合いの学名通り、鋸歯状の作業器を往復運動させることで木の枝を切り落とす事を作業習性に持つが、体構造上、本種単体では作業行動を取ることができない。


鋸歯状の作業器。長さは80mm程度。

そこでどうするのかと言うと、腹部をヒトが持つ事で手持ち式の鋸のように扱うことができるのだ。
その腹部は手の握りに合うような曲線になっており、滑り止めと思われる溝が四本刻まれている。

腹部を握る事で頭胸部上部にはね上げられた作業器を前方に下ろし、枝に押し当てる事で作業器を稼働させる。

あまつさえエダオトシは、ヒトを見つけると自分を使うことを促すように腹部をヒトに向ける習性を持っている。


腹部。上部突起も親指を掛けやすい形状をしている。

このように手で握って扱うことが前提であるかのようなエダオトシであるが、腹部の長さや曲線の具合からヒトと似た四本指の手に最適化された形状だとする説もある。


次にホノアカリ 𝑷𝒂𝒓𝒗𝒂𝒍𝒖𝒙 𝒂𝒄𝒖𝒕𝒂𝒄𝒓𝒖𝒓𝒂 を例にあげてみよう。


ホノアカリ 𝑷𝒂𝒓𝒗𝒂𝒍𝒖𝒙 𝒂𝒄𝒖𝒕𝒂𝒄𝒓𝒖𝒓𝒂

ホノアカリは不動目発光亜目の工蟲で、頭胸部先端の給電器官から電力を供給し、一定の条件を満たすことで腹部にある作業器を発光させる習性に持ち、照明としての作業習性を持つと言い換えても良いかもしれない。


作業器を発光させるホノアカリ。

ヒトとの関わりということに着目すると、まず特徴的なのが給電器官の形状だが、これはmicroUSB typeB端子に酷似した構造をしており、互換性を持つ。
ヒトが発明したはずの端子と同じ構造のものを備えているのである。

一部の人間はホノアカリ、もしくは同様の給電器官を持つ工蟲を元にして端子が発明されたと言う者もいるが、いずれにせよ現代人が使用している物と同じ物を工蟲も使用していることになる。

次にその作業習性だ。
ホノアカリは前述の通り照明としての作業習性を持ち、作業器を発光させるにはいくつかの条件が存在する。
その内の一つに「高さ1m以上、横幅25cm以上、縦幅10cm以上の生物が存在すること」がある。

これは4歳のヒトの子供の平均的な体格に近い。
というよりこの体格を持つ生物はヒトくらいのものであり、この条件は「平均的な4歳児以上の体格を持つヒトの接近」とも捉えられる。

このようにヒト(或いはそれに類する生物)の手の構造や体格などが作業行動開始の条件となっていたり、ヒトの作った技術と互換性のある器官を備えた工蟲は多く、先述の二種に限らない。

前項冒頭でも述べた通り、工蟲自体がヒトの生活の助けになるような習性を持っており、そういった意味でも工蟲という擬生物群自体がヒトと密接な関わりがあると言えよう。

とはいえ工蟲達は善意のようなものがあってそうしている訳ではなく、あくまでも習性として作業行動を行っている。
どの生物にも言えることだが、何故そのような習性を持つに至ったかは少なくとも現段階に置いては我々の知り得る所ではないのだろう。




                五十井田是和 著
                「工蟲とヒト」より抜粋

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工蟲研究の第一人者である、鹿沼工業生物大学 工業生物学部 客員教授の五十山田是和氏ですが、いがいだ これかずと読みます。

特に意味はなくギャグ漫画とかにありそうな感じの、文章になっている人名を目指しました。
五十山田、という名字は実在するようです。
もちろん大学から何から完全なフィクションですよ?

最近はこの手の設定を考えることばっかりやってる気がする。
それはそれで作品の中でやりたいことだから良いんだけど、そろそろ展示とかしたい。
クラフトフェアまつもと以来、人に作品を見せる機会がないので禁断症状出そう。

前回に引き続き、工蟲のニセ書籍より抜粋した文章。


魁!!男塾の民明書房みたいなの大好き。


あんまり考えすぎると作品が固定化しちゃいそうなので、多分工蟲の謎は当分の間解き明かされる事はなさそう。


まぁ実際の生物に関しても判ってることは一部で、今までの常識が覆ることなんかよくあることなんだろうけど。



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工蟲とヒトとの関係性には不可思議な部分が多々ある。


そもそも工蟲がヒトの仕事を手伝う、という事自体が不可思議な訳だが、ここではまた違った例を紹介しよう。



ネジマワシ 𝑹𝒐𝒕𝒂𝒕𝒊𝒗𝒊𝒓𝒈𝒂 𝒂𝒓𝒂𝒕𝒂という工蟲がいる。

これは一対の翅を持ち、腹部の作業器でネジを締める事を作業習性に持つ種であるが、翅開長400mmとそれなりの大きさを持つ。



ネジマワシ


このネジマワシに、「全く気づかない」という人が存在するのだ。


ネジマワシは栃木県宇都宮市にある大谷石採石場跡周辺でよく見かけることができ、飛行する姿もよく目撃される種である。


大谷石採石場跡地の岩陰で休むネジマワシ

あるとき、その周辺住民に聞き取り調査を行うこととなり、最初の質問としてネジマワシの写真を提示し、見たことが

あるかを質問したところ、半数以上が「見たことが無い」と答えた。

少し歩けば岩陰で休む姿や飛行する姿を見ることができるというにも関わらずだ。


その後も似たような調査をしてみると、同じような条件の工蟲に対しても「見たことが無い」と答える人間が多くいることがわかった。


それを不審に思ったある研究者がいくつか実験を行った。

何も置かれていない白い部屋に、許可を得て捕獲したネジマワシの生体を放ち、そこに被験者を入れるというものだった。


当然、すべての被験者はネジマワシを認識し、半数程は「こんな生き物がいた事を初めて知った」と回答した。


一週間後、その部屋に家具等を配置した上で同じ被験者たちを部屋に入れた所、当然前回の実験に比べてネジマワシを認識するのに時間が掛かったが、前回「初めて知った」と回答した被験者は他の被験者に比べると、より時間が掛かるという結果になった。


驚くべきことにその被験者たちは、一週間前に見たはずのネジマワシに対して、またしても「初めて知った」と答え、一週間前に見たはずだ、と伝えても記憶にない様子だった。


更に同条件で、ネジマワシの生体ではなく標本に変えた実験を行った所、全ての被験者が難なくネジマワシの標本を認識したが、これまでの実験でネジマワシを「初めて知った」と回答した被験者たちは、この実験においても同様の回答をしたのだ。


この実験の結果から考察するに、人によって工蟲を認識できる者と認識しにくい者が存在し、工蟲を認識しにくい者は一度認識しても記憶への定着がしにくいと考えられる。


他の生物においても、その生物への興味、関心によってはこういった事も起こることは多々あるが、仮に全く工蟲に興味が無かったとしても、通常の生き物とは見た目からして異質な構造を持った工蟲を全く記憶していないとは考えがたい。



そこでたてられた仮説が、工蟲がヒトの認識機能に対して何らかの干渉をしている、というものだ。



工蟲が短距離無線通信によってコミュニケーションを取り、ウロツキ 𝑷𝒓𝒐𝒘𝒍𝒆𝒓 𝒑𝒓𝒐𝒘𝒍𝒂𝒏𝒔 などがその無線通信を中継することは良く知られているが、その他にも一部の種においては発振器という器官を用い、空気の振動を利用したエコーロケーションを行うことも判明している。


フチテラシの発振器(頭胸部前面左側の円筒形の器官)


それらのように、ある種の電磁波を放つ事によってヒトの脳が持つ物体を認識、記憶する機能に干渉しており、工蟲の生態を映像に捉えようとすると強いノイズがかかる、という事象もこれに関係していると考えられる。


前述の標本を用いた実験の後日談として、被験者たちにネジマワシの写真を見せた所、すべての被験者がネジマワシの姿を記憶していた。

おそらく工蟲の、ヒトの認識機能への干渉は生体のみができる芸当なのかもしれない。


私自身工蟲の研究をしている中で、あらゆる分野の方に出会い、自分の研究対象について話すことも多いが、体感としては半数以上が上記の実験のようにぼんやりとしか認識してもらえない、もしくは記憶に定着していない、と感じている。


その中でも、画家や彫刻家、イラストレーター、小説家などのモノを作ることを生業とする者や、それに近い精神性を持つ者は工蟲を認識する能力、もしくは工蟲の干渉に対する耐性が高いように感じられる。


これは完全に私や他の研究者の体感でしかなく、全く信憑性はないがどことなくそういう傾向があるようだ、ということを付け加えておく。



                五十井田是和 著

                「工蟲とヒト」より抜粋



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長いこと放置されていたブログに意外な使い道があったことが嬉しい。


この手の工蟲の設定と展示、イベントの告知に使っていきましょうかね。







新作を作ったり、次の作品を考えたり、イベント出展でお客さんと話したり、友人と話したりしているうちに工蟲の設定はどんどん生えていきます。


新たな発見によって今までの説が覆る感じも何か生き物感あっていいなぁ、と思いつつ。


んで、元々考えていた設定に最近作った新作の設定やら人と話した内容を盛り込みつつ、夜更かししながらつらつら書いてたらやたら長文になったのでなんとなくブログの方に。


インスタとかフェイスブックはあんまり長文だと投稿するのがはばかられる気がする。


ということで暇な人は読んでみて下さいな。



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工蟲とは



2016年に初めて発見された擬生物の総称である。

正確には鉄足動物門 工蟲網の擬生物となる。


擬生物とは工蟲の発見により新設された分類で、生物の定義を一部のみ満たしていることからその名が付けられた。


工蟲は小さいものでも体長50mm程度、大きいものになると体長1mを超えるものも存在する。


工蟲綱の特徴としては

​​​​​​1.外骨格が鉄で構成されている

​​​​​​2.口器、生殖器を持たないため、摂食、交尾をしない

​​​​​​3.特有の器官である作業器を持つ

​​​​​​​4.作業器を用いた作業習性を持つ

​​​​5.いくつかの種で集団を作り、分担して作業行動を取る

​などが挙げられるが、3と4については作業器と呼べる部位を持たないように見える種が存在すること、作業習性を持たないように見える種も存在することから、確かな特徴とは呼べないものとなってしまっている。


〜ように見える、と不確実な述べ方をするのも、ウロツキ 𝑷𝒓𝒐𝒘𝒍𝒆𝒓 𝒑𝒓𝒐𝒘𝒍𝒂𝒏𝒔 のように、研究が進むことで作業習性が判明し、それに伴い作業器が判明した事例も存在し、より一層慎重な物言いが必要なためである。


形態としては頭胸部と腹部に分かれ、頭胸部に2対の付属肢がつくものがほとんどだが、頭部と複数の体節に分かれた体を持ち、体節ごとに付属肢を持つもの、巨大な1つの体節に3対の付属肢を持つものなど様々である。


しかし、現在発見されている多くの種では、その形態が作業習性に適したものとなっている。


目以下の分類の方法は何度か変更されており、現在では作業器の駆動方式によりいくつかの目に分けられているが、上記の通り作業習性に最適化した形態をしていることから、工蟲の作業習性の種類(切断や開孔)によって分類すべき、との声も挙がっている。


工蟲にはその習性や形態の他にも不可解な点が多く見られる。

​例を挙げると

​​​​​​​1.摂食をしない割に多い活動量

​​​​​​2.自重を無視したような歩行や飛行

3.​​​​​​短距離無線通信による工蟲間のコミュニケーション

​​​​​​4.工蟲を撮影した際の画像、映像の乱れ

5.​​​​​​特定の人間には認知できないという現象

​​​​​​6.交尾をせずにどこで発生しているのか

​などである。


これら全てが既知の生物では考えられもしない点であり、研究者の中でも「外星(異世界)生物説」「生体兵器説」「オーパーツ説」などが真面目に議論される要因となっている。



先述の通り、公式には2016年に栃木県鹿沼市で発見されたアナウガチが初めて発見された工蟲ということになっているが、少なくとも戦前の頃に描かれたスケッチや、ある地方での古くからの言い伝えの中に工蟲と思われるものが含まれており、一部では古くから認識されていたと考えられている。


実際にオザクオオカヤリ 𝑺𝒂𝒓𝒕𝒂𝒈𝒊𝒏𝒆 𝒗𝒆𝒓𝒕𝒊𝒄𝒂𝒍𝒆 などは、栃木県鹿沼市の石裂山付近に生息する固有種と考えられているが、周辺住民からは、夏頃になると当たり前に見られる生物だと認識されていた。


その他にも付喪神をはじめとした「物に魂が宿る」という怪異や、その考え方自体も当時の人々が工蟲から着想を得ていたのではないかという説や、日本神話における製鉄、鍛冶の神である「天目一箇神(アメノマヒトツノカミ)」も、一つ目に見える種の多い工蟲のイメージが入っているのではないか、という説を唱える研究者も存在する。


反対に、工蟲或いはその祖先と断定された化石などは今のところ存在せず、近年、もしくはある時代から突如として現れたと考える研究者も少なくない。



結論として工蟲は、擬生物界 鉄足動物門 工蟲網に属し、外骨格が鉄で構成されており、摂食や繁殖をせず、多くが作業器と呼ばれる特有の器官を用いて特定の作業をする習性と複数の種で役割分担する社会性を持ち、多数の不可解な点を持った擬生物、という事になる。



このように、研究が進むごとに実在するものとは思えないような謎が深まり、工蟲の研究者のみならず生物学者全体が頭を抱えたくなるような存在だが、この奇怪ないきものは確かに存在している。


そんな工蟲の研究が進むことで、工蟲の持つ特性が既知の生物にも当てはまることもあるかもしれず、そうとなればこれまでの常識が覆ることもあるだろう。


                       2023.6.5

        

        鹿沼工業生物大学 工業生物学部 客員教授 

                     五十山田 是和

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念のため言っておきますが、大学名や個人名は架空のものです。


実際にこれを書いていて、分類方法見直してみようかなぁ、と考えたり。


作品自体の完成度も考えながら作ってはいますが、それと同じくらいにこの設定、ストーリーの完成度も重要だと思ってます。


作品説明するときに自分が楽しいので。


多分また変わることもあると思いますが、とりあえず現状の設定はコレ、ってことで。

















昨日深夜3時に無事帰宅しました。

二日間の直射日光で顔面がヒリヒリしておりますが、展示のお知らせです。

6/17㈯より、栃木県大田原市にある大田原市芸術文化研究所にて行われる[第九回ゲタ箱展]に出展させて頂きます。

イベント準備で未だ搬入できておらず、会場の雰囲気もわかっていないのですが取り急ぎお知らせです。

会期は2週間ほどあるので、お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい。

[第九回ゲタ箱展]

2023.6.17㈯〜6.30㈮
10:00〜16:00
入場無料

大田原市芸術文化研究所
〒324-0206 栃木県大田原市中野内580








クラフトフェアまつもと2023終了致しました。

二日目の自分のテントは割とゆっくりでしたが、最後のお客さんが虫の類が好きだったようで、作品の話を楽しそうに聞いてくださって救われました。

その方以外にも、工蟲の話を熱心に聞いて下さる方が多かったのが印象的で、自分の考えた物語を楽しんで聞いてもらえるってやっぱり素敵だなと思いました。


これからの帰途も含めてハードな旅でしたが、参加して良かったと思います。

会期中楽しそうなお話をいくつか頂いたので、そちらもお知らせ出来るようになれば、と思います。

起こしくださった皆様、お世話になった隣近所のテントの作家様方、実行委員の皆様、ありがとうございました。