イルカのように泳ぐことができないあなたへ | イージー・ゴーイング 山川健一

イルカのように泳ぐことができないあなたへ

<はじめに……イルカのように泳ぐことができないあなたへ>
 ぼくらはイルカのように自由に泳ぐことができない。
 鳥のように空を飛ぶこともできない。
 ネコのように気儘な一日を過ごすことさえできない。
 だから海の深さに想いを馳せ、空の青さに憧れる。
 そして時々、伸びをするネコに向かって、こんなふうに呟いてみたりするのだ。
「こんな時間にどこへ行くつもりだよ。君が、うらやましいよ」
 人間ほど不器用な生き物は他に存在しないのではないだろうか。
 他の生き物たちが、環境に合わせて自分を変えることによって生き延びてきたのに対し、人間は太古の昔からそれほど進化したわけではない。むしろ道具というものを使い、環境のほうを変えることによって生きてきた。木を切り倒して家を建て、道路を作り、大地を走る道具や空を飛ぶ道具を発明した。
 驚くべき人殺しの道具も、今では無数に存在する。
 とうとう人間は、地球やその上の生物や、自分たち自身を滅ぼしかねないところまできてしまった。
 唖然とするほどの不器用さだよね?
 でも、自分は不器用なんだ、とあきらめるとほっとするところもある。あなたもぼくも、どうせイルカのように泳ぐことはできないのだ。
 頑張ってるのに、うまくいかないことだってあるだろう。
 それでも、いつかイルカのように、と流行りのポジティブ・シンキングを信じてもっともっと頑張っているあなたはとても真面目で頑張り屋さんなんだね。
 でも、いつもどんなときでもずっと頑張りつづけることは、どんな人だってできないんだよ。
 時には、ちょっとばかり海岸にでて、日なたぼっこしてもいい。
 不器用なぼくらが、ネコのように気儘にというわけにはいかなくても、もう少し気楽に生きていくにはどうしたらいいのだろうか。
 この本は、そういうことを考えるために書こうと思っている。
 いっしょにお茶してるつもりで、あなたがつき合ってくれるのならうれしい。
(Illustration and Photo by Hiromi)
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