「ハプニング」 公式サイト


ニューヨークはセントラル・パークから事件が始まるわけですが、ここっていろんな映画で舞台にされてしょっちゅうぶっ壊されたり破滅してたりするんですが、「ハプニング」はちょっと異色かもしれないです。


まるで誰かが

「だ~るまさんが、こ~ろんだ!」

と言って振り向いたかのように、人々がそれまでの動きをぴたっと止めてしまうのが異様な雰囲気を醸し出してます。激しい動きの最中に止まったわけじゃないので、自然と棒立ちになるんですが、棒立ちの人間が林立してる図がこんなに不気味だとは……。見せ方の上手さがシャマラン監督ですよね。


内容については、ネタバレを避けようと思ったら何にも書けないんですが、例えば話の持って行き方とか恐がらせ方というのは、スティーヴン・キングの小説に似てるんじゃないかというのが印象でしたね。


あくまで「小説」、なんですよ、キング作品の映像化されたものじゃなくて、キングの文章の味わいが「ハプニング」の映像に再現されているという……説明するのになかなか難しい状態。


キングって、文体と描写による「恐がらせ方」が上手い作家なんですよね。

彼の小説は本当に恐い。初めて読んだ時なんか恐くて恐くて布団に潜ってガタガタ震えながら、それでも読むのをやめられなくて、どうしようかと思いました(もちろん最後までぶっ通しで読んだ)。


ところが、キング作品をそのまま映像化するとちっとも恐くない事が多いんです。

映画だと監督の手腕による部分が大きくて、作品の内容が原作を離れれば離れるほど恐かったりします。もちろん一番恐いのはスタンリー・キューブリックの「シャイニング」。ここでのワタシのハンドルネームになってる「クリスティーン」はジョン・カーペンター監督ですが、この二作、ホラー映画としては面白いけれど原作者のキングは気に入ってなかったりするんですよね。


キング自身が脚本を手がけたTVシリーズなんてのもあるけど、やっぱりあんまり恐くない。いや、恐いことは恐いんですが、キングの書いた文章から得るような、じっとりと冷や汗のにじむ恐怖というのはあまり感じられないんです。


だって、映像にしちゃうと、チープなんですよ。

キングの真骨頂というのは、読者に自分自身の想像力を喚起させてそこで恐怖を増大させる点にあるのに、それを「実はこんなもんです」と映像で見せられちゃうと、「あ、そんなもんだったんですか」という感想しか覚えなくなっちゃうのね。


それをまあキングも含めて二流の監督だとSFX満載で

「実はこんなに恐いもんなんだあ~! どうだ~恐いだろ~!!!」

とかさにかかって見せつけてきたところで、それは観客には(特にホラー見慣れてると)虚仮脅しにしか見えないものなので、

「あっ、はい、恐いです、恐いです。もう分かりましたから、結構です」

って感じで、失笑もんに終わっちゃうことが多いです。


キューブリックやカーペンターになると一流だから、見せつけたりはしません。自分の実力をぼんと観客の目の前に置くだけで、そしてそれが充分恐い。「恐い映像」の作り方を熟知しているので、例えギミックがチープだとしても映像そのものはチープにならないです。「遊星からの物体X」なんか今見ても恐いわ。


「ハプニング」にはSFX満載の恐がらせ映像は出てこないのですが、恐いんですよ。

その恐がらせ方のテクニックがキングの小説の手法によく似ているんですね。


読者や観客がある場面を読んだり観たりして、ふと思う場合があるじゃないですか。

「あ、次、こうなったら、イヤだな」

って。


そもそもそう思わせるのがテクニックの一つなんですが、その次の段階としてその「こうなったら、イヤだな」の部分を忠実に作品内で現実化してくれちゃうんですよね。で、その描写そのものは淡々としてるんです。扇情的じゃない分、余計恐い。ショックがじんわりと心にしみ入ってくると言いましょうか。


キングが文章でやった読者を恐怖のどん底に叩き込む手法、キング自身は映像化できなかったそれをシャマランが「ハプニング」で見せてくれたという感じでしょうか。ただ、「こうなったらイヤだな」と思っていたものを目の当たりにするのはあまり気持ちのいい物ではないです。文章で読むと恐怖を喚起するものが、映像では嫌悪感を引き起こすものにつながりかねない。そこをさらっと見せて、その後観客をそこからすっと連れ出す事ができるのがシャマランの腕前なんだと思いますね(下手な監督はいつまでもそこに固執する)。


キングの場合は不思議な出来事には謎解きがあって、その犯人に当たるものが超自然の存在だからホラーに分類されるわけですが、「ハプニング」でも一応謎解きはあります。誰が「だ~るまさんが、こ~ろんだ」を声なき声で叫んだかですが、その犯人(?)像に賛否両論はありましょうが、作品としてきちんとまとまってればそれでいいのではないかと。



この映画の見所は……やはり静かな恐怖が盛り上がっていく部分なのでしょうねえ。

夏だからホラー映画は見たいけれどあんまりショッキングなのはいやだわ~と思っているタイプの人には向いているかもしれまん。カタルシスはあんまり感じられませんが。


ケータイを小道具として上手く使っていて、その辺現代的でおもしろかったです。