「ブーリン家の姉妹」(公式サイト


ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソン、二人の若手実力派美人女優の競演というのが恐らくメインの話題なのでしょうが、この映画、自分で勝手に予想してたよりもずっとおもしろかったです。


エリック・バナもよかったですね♪ 大層ハンサムなヘンリー8世でしたが、衣装で異様な程横幅を広々と見せているので、肖像画などでおなじみの彼のイメージも保っているのが凄かった。


イングランドの史実を元にした小説に基づくこの映画、時代は前後するもののケイト・ブランシェット主演の「エリザベス」正続を見ていたおかげもあって大変興味深い内容に仕上がっていました。


が、歴史に残るドラマチックなストーリー展開と美女二人の演技合戦をとっぱらってしまったらこの映画には何が残るのでしょう? 原作は読んでいませんが、これだけの立派な映画になるぐらいですから数々のテーマを含んでいるに違いありません。まあ分かりいやすいところでは美人姉妹の確執とか、女の幸せは政治的な野心を満足させることか優しい夫と円満な家庭を築くことか、等でしょうか。


登場人物の誰にポイントをおくかによって、浮かび上がってくるテーマが違うのがこの映画の一番の醍醐味かもしれません。


実は私にとってこの作品で最も印象に残った女性は主役のアン(ナタリー)でもメアリー(スカーレット)でもなく、姉妹の母親であるレディ・エリザベス(クリスティン・スコット・トーマス)でした。美人姉妹の母にふさわしい静かで落ち着いた母君ですが、この方のセリフ、数は少ないけれどズバッと本質をついてきます。非常に洞察力にすぐれた女性で、物事がどのように進行していくか正確に予測がついているのに女性故に事態に介入する力を持たず、悲劇がおこるのを見守るしかないという存在でした。


原作者であるフィリッパ・グレゴリーの視点は彼女に投影されていたのではないでしょうか?


レディ・エリザベスは物語の冒頭から常に物事の真実をついた一番大切な事を言っています。残念なことには彼女の愛する夫も肉親である実の兄も彼女の言葉に耳を貸そうとしないのですが。まるでトロイの陥落を予言しながら神にかけられた呪いのせいで誰にもその言葉を信じて貰えなかったカッサンドラのようです。


静謐で美しい面持ちをしながら、レディ・エリザベスが体現しているのは女性の抱く男性への怒りそのものです。物語に基づいて言うならば、我が子を出世の道具として扱った夫と兄に対する許し難い思いですね。その感情がこの物語の中では一番強く明確に打ち出されているのですよ。


もちろんアンが妹メアリーに対して抱く嫉妬とか、メアリーが姉の怒りを解きたいと願う優しさとかもちゃんと表現されていますよ。しかしそれは……どこか作り事っぽく生々しさに欠けるんですね。二人がどんなに迫真の演技を見せても、そのセリフにはそもそもレディ・エリザベスのセリフのような深い憤りから湧き上がってきて思わず口をついて出るような心情の吐露が含まれてないんです。


姉妹二人をダイナミックに活躍させながら、本当の主役は彼女達を静かに見守ることしかできなかったレディ・エリザベスだったのではないかと思いました。


もっともそれは私の個人的な解釈ですから、見る人によっては全然違う視点で物語を捉えていることと思います。


例えば、私がこの映画を見たのはたまたま小室プロデューサーが逮捕された直後だったのですが、将来自分がどうなるのか分からないという不安に怯えるアン・ブーリンの姿を見ながら、「ああ、いつか逮捕されるかもしれないと思いながら日々を送っていた小室さんって、きっとこんな感じだったに違いない」と思いましたもの。


そういう見方をすればこの映画は

「自分のしでかしたよからぬ事は必ず災いとなって自分にかえってくる」

という教訓に満ちた作品という解釈も成り立つわけだし。


「ブーリン家の姉妹」は見る人の振り方によって様相が全く変わる、万華鏡のような映画と言えるのかもしれません。