「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」公式サイト
紛れもない傑作。やっぱロメロはスゴイわ~。
最近のリメイクホラーや新作のホラーでは味わえなかった「ホラーらしいホラー」、いや久しぶりに堪能致しましたよ。ホラー映画はこうでなきゃ。
現代につながる「ゾンビ」もののオリジナルはロメロの「リビングデッド」シリーズに端を発するのだけど、彼以降に作られた「その他のゾンビ」は彼が作った枠を決して越えることが出来なかったのね。
その枠を軽々と飛び越えてみせたのが御本人が作り上げた「ランド・オブ・ザ・デッド」でした。この時私はロメロの置いて尚意気盛んなクリエイティビティーに深く敬服したものです。
「ランド・オブ・ザ・デッド」がすごかったのは、それまで知性のない存在だった「リビングデッド」に知性を芽生えさせたこと。これはオリジナルの創始者であるロメロにしかできないことですよ。他人がやったら、絶対に「ゾンビってそんなもんじゃない」と非難囂々だったはず。ロメロだからこそ許される、境界越えだったわけですね。
そのあとの「ゾンビ」ものは喜々としてゾンビ或いは動き回る死体に知性を与える方向に進んでおります。ただ、二流の監督がそれをやっても「だから何さ?」程度の作品にしかならないんだけど。
ロメロ御大の方は、さっさとその線には見切りを付けて(同じ事続けたってしようがないから)新しい方向を探していて、そこで見つけたのが今回「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」に取り入れたP.O.V.(ポイント・オブ・ビュー=主観撮影)という手法、要するに「ブレアウィッチ」に始まり「クローバーフィールド」や「REC」に至る、現場で撮影したビデオをそのまま見せてますよ的疑似ドキュメンタリーで観客を恐怖に引き込むアレですね。
この手法で撮られた作品って、カメラがやたらと揺れるんですよね。ええ、カメラマンがカメラ持って現場を走り回っているという設定ですから。それでも曲がりなりにもプロカメラマンという設定ならばブレも少ないし構図もきちっとしているのですが、「クローバーフィールド」の場合はその日ビデオカメラを手にしたばかりのドシロウトという設定だったので、もう映画見ているのが辛くなるような映像が多くて閉口しました。
で、基本、一台のカメラで撮りっぱなしですから未編集。「REC」では何度も撮り直しをしているシーンなんか見せてリアルっぽく見せようとしてました。「クローバーフィールド」では最初と最後に元々入っていた映像が流れるのが悲劇性を増すように工夫されてましたが、要はずっと時間軸に沿ったストーリーが一つの視点(カメラ)上だけで展開していくというのがパターンです。
とっころが、ロメロはこの手法を取りながら、このパターンを軽々と乗り越えちゃった。
まず主人公のグループを大学の映画学科に設定したことで、彼らの中の誰がカメラを構えてもブレないししかもプロ並みに常に構図が決まっていても変じゃないという状況を作り上げました。
これはね、映画を見ている上で非常にラク。やっぱり映像は美しくなければ目に優しくありませんよ。
ここで付け加えるのもなんですが、主人公グループ、全員男女とも可愛い人ばかりなんですよね。最初に登場した時は割と普通っぽい感じなんですが、後からどんどんかっこよく見えてくるんです。他に出てくるのがゾンビばっかりだから、生身の人間ぐらい美しい人達じゃないと殺伐としちゃいますもんね。やっぱり映画はどこを見ても美しくなければ。
さて、ロメロの凄いところはもう一つあって、カメラを途中から一台増やして二台にした事。これが画期的で、撮影中のカメラマンを別のカメラで撮影することもできるし、同じ時間におきている別のできごとを同時に記録することも出来る。視点が複数になると、物の見え方にも厚みがでます。
また脚本がよくできていて、このカメラもホント上手に使われているんですよね。何故カメラがそこにあったのかは、そのカメラに収められていた映像が物語っていたりして。感心の一言です。
さらに凄いのは、何しろメインの登場人物全員が映画学科ですから、映像の編集までプロ並みにできちゃうって事なんですよ。
これは、P.O.V.であっても撮りっぱなしではない、編集にナレーション、効果をあげるための音楽まで付いた立派な一本の映画作品として仕上げられているんです、それも劇中だけで。
そして何しろ現代の若者で、そっちの道の専門家といってもいい学生さん達ですから、ケータイで撮った写真とかPCからダウンロードしたユーチューブの映像とか監視カメラの映像とかばんばん作品に取り込んで編集してるわけです。それらの映像がまたリアルな緊迫感を生むんですね。
特に監視カメラの映像を編集して挿入したシーンなんかスタイリッシュで、ホラー映画の醍醐味そのもの。映画のおもしろさを知り尽くした監督の作品だから円熟してるのは当然なんだけど、その上斬新というのが素晴らしい。
スプラッタなショックシーンは、最近のリメイクホラー等に比べると上品なものですが、要所要所のグロさは半端じゃないです。飛ばす血しぶきは量じゃなくて質が決め手の大人の映画でした。
結局、何が起こってどうなるか、というのは見に来る全員が知っているような作品なんですから、見せ方を工夫することでしか目新しさやおもしろさは出せないわけですよ、ゾンビものっていうのは、もはや。
ジャンルとして行き詰まってるんじゃないかとさえ思った時もありましたが(ミーナ・スヴァーリの出てた「デイ・オブ・ザ・デッド」とか)、なんのなんの、脚本と監督さえよければまだまだ傑作を世に残す余地はあります。
ロメロ監督、次作にも期待しちゃいますからね! もう一生ついていっちゃう♪