バカ映画だとばかり思っていたら、とんでもない! これは稀に見るクレバーな映画でした。ベン・スティラーって才人だわ~。脚本・監督共に携わっていて、しかも出演までしてるんだから!
冒頭、緑したたるジャングルを軍用ヘリが飛んでいるんです。
ただ飛んでいるだけに見えて、これが異様なまでに美しい。まずここに度肝を抜かれました、私。この監督、タダモノじゃないわって感じ。
ヘリって空飛ぶものだから、大抵アオリで撮るでしょ。マイケル・ベイなんかそういうアングル好きですよね。
「トロピック・サンダー」違う、飛んでるヘリを横から上から撮影してる。つまりカメラ乗せたヘリがもう一台か二台撮影用のヘリの側を飛んでいる。どんだけ予算かけとんじゃ、みたいな話ですよ。
けれどもこのヘリコプターのショットが本当に目を瞠る程素晴らしいので、そのままスーッと映画にひきこまれてしまうんですよ。
この映画、冒頭部分は役者達が演じている各スターのCMや映画のトレイラーをそのまま流すという形で人物紹介をしているため最初はイメージがバラバラで絞り込めないでいるのを、この空撮の美しさで彼らが現在置かれている一つの環境に無理なく観客も入り込んでいけるというか。
この映画の中で役者達がやっている事ってバカか或いは役者バカの極地で、言ってみればお寒い笑いなんですよ。それが映画として本当に上等な環境の中にある。このギャップが爆笑を生むんですね。
とにかく、「バカ」或いは「役者バカ」を演じる俳優達が皆真剣に取り組んでいるのがスゴイ。ロバート・ダウニーJrなんて、「アイアンマン」の時よりもずっと繊細というか複雑極まりない役を演じきっていましたよ。これをオーバーになることなく、自然に演じられるのが彼の演技力の神髄なんでしょうね。
ロバートだけじゃなくて、カメオで出演している名優の方々も、いつもは自分の持っているイメージに縛られて演じられない役を、「パロディ」という免罪符を得ている「トロピック・サンダー」の中で喜々として演じているのが凄かった。案外、大スターにならずに地味に脇役からコツコツ地歩を固めるような俳優人生だったら、こういうのがハマリ役だったのかと思わされてしまったりして……。
もうあちらこちらで名前があがっているのでここでも出しちゃいますけど、トム・クルーズ。彼、最高。あの役は彼にぴったりでした。外見を変えるだけでここまで自由になれるのね、トム!
えっと、ほら、「インタビュー・ヴァンパイア」のレスタト、あの性格って実はトムという人によく似合っていて、彼の演技を演技以上に際だたせるものだったでしょ。あれはレスタトが美しくて吸血鬼だったから観客に許されていたんだけど、髪が薄くて胸や腕が毛むくじゃらで脂肪かなり多めの人間でも大金を稼ぐ映画のプロデューサーだったら許されてしまうのね、みたいな感じで。まあ、実際に搾り取るのが血じゃなくて金なだけで、吸血鬼みたいなもんですけどね、映画のプロデューサーも(この映画では)。
人を人とも思わない傲慢な役って、実はトムに一番あっているのでしょうね。そんな役では観客に愛されないから、スターとして演じる事がなかなかできないのがトムの悲劇なのかもしれないわ。
とはいえ彼の綺麗な顔立ちそのものは実はほとんど手つかずでそのままだったりするので、他人に暴言を吐いていても彼の端正な唇からその言葉が出るのなら許してしまおうかと思う部分もかなりあったりして……美しいって罪。
このトム・クルーズやロバートにジャック・ブラック、さらにカメオで出演の大スター達、彼らに好きなようにさせつつ、でも最後の舵取りはびしっと決めて作品を一本にまとめあげる監督としての力量があるわけですから、ベン・スティラーって本当にスゴイ人なんだと思います。
どうしてこれで、最後はきちんと丸く収まって終わるんだ? と本当に感心してしまいますよ。映画を知り尽くしている人でなければできない、最高傑作です。
ロメロはそれをシンプルに作ったけれど、ベン・スティラーはゴージャスにやってのけたんですね。
二作続けて傑作映画を見られて、幸せな気分でした♪