冒頭からこの設定には思いっきり覚えがあるわ~と思ったもんです。
そもそもこの「デス・レース」は、ロジャー・コーマンの「デス・レース2000」のリメイク作品なんだから覚えがあって当たり前なのかもしれないけれど、でも私が思い出したのはその映画じゃなくて(見たかどうかさえ定かじゃないし)、恐らくその映画にインスパイアされて書かれたとおぼしきスティーブン・キングの「バトル・ランナー」の方ね。シュワちゃんの出た映画じゃなくて、その原作の方。
映画が進むにつれて映画の「バトルランナー」にも少々シークエンスが似て参りますが、私見てて思ったんですけれど、シュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガーと「デス・レース」のジェイソン・ステイサムの決定的な違いって、主演映画がSF(或いはファンタジー)になるかならないかだな、と。
「バトルランナー」って近未来SF超大作アクションでしたから、それらしい楽しい仕掛けがい~っぱい盛り込まれていて、見ててすっごく楽しかったんですわ。この映画で使われていた「未来の」技術って、現代ではCGIとして実現化されているものも多くて、SFにしても荒唐無稽なものではなく現実に立脚していたものでしたが、それでも当時は立派なSF映画だったんですよ。
でも「デス・レース」は……設定は近未来で、なんかカーペンターの「ニューヨーク1997」っぽい部分もあるくせに、どこまで見ててもSFにならないのね。いや、作ってる方はSFだー! と思ってるのかもしれないけど、見ている私にはSFとしてのセンス・オブ・ワンダーが全く感じられなかったんですわ。設定が荒唐無稽なだけで、やってることは実はめちゃめちゃ現実っぽいんだもん。
その差はどこに起因するかと考えたら、結論はキャストですよ。
シュワちゃんってさ、存在感が何か人間離れしてるじゃん。
顔にしても体にしても「普通」をはるか通り越してるのよ。
だからこそSFやファンタジー映画に出ると生き生きして、ターミネーターみたいに映画史に語り継がれるキャラクターになるわけですよ。あれでコナン・ザ・デストロイヤーも名キャラクターだし。
「バトル・ランナー」とか「トータル・リコール」とか、派手なSF映画に出演するのが本当に似合う俳優でした。「プレデター」も捨てがたいな。
ひるがえって、ジェイソン・ステイサム。
「デス・レース」の中で全裸を披露しながらトレーニングしているシーンがありましたから、この方も肉体美が売りの俳優さんなんでしょう。確か元水泳の飛び込み競技のオリンピック選手だから、本気で鍛え抜いた体の持ち主ですよ。
オリンピックに出るのは凄いことでそれを実現しちゃってる彼は本当に凄い人だと思います。
でもさ、こういう言い方をするとナンだけど、「オリンピック」ってどこまでも現実に根ざした目標じゃないですか。
何をどうトレーニングして、どこでどういう成績をおさめれば表彰台にたてる、という数値目標が厳密にある世界ですよ。
私達にとってオリンピックに出場することは夢だけど、現実にオリンピックに出場してる人にとってメダルは夢ではなく現実の目標ですよね。それに手が届くか届かないかが「点数」という形で決められてしまう。
つまり、ジェイソン・ステイサムの顔には夢がない。彼の顔にあるのは目標だけ。なんちゅーか、現実にあるゴール地点だけを見据えて生きてきましたって感じ。
それは「俳優になりたい」とか「映画スターになりたい」という漠然とした夢のイメージを顔にうっすら残した他の俳優さんとはまるで違う点であり、それこそがジェイソンがスターダムにのしあがった魅力の正体なんでしょう。
でも、そういう顔ではSFやファンタジー映画の主役には絶対向かないよね(脇役ではジェット・リーの「ザ・ワン」というパラレルワールドもののSF映画に出てたことがあります)。
というわけで「デス・レース」のジェイソン・ステイサムはひたすらゴールという目標目がけて突っ走り続けます。「バトル・ランナー」のシュワちゃんは途中でなりゆきから世界を救う活動に参加しちゃったりして大忙しだったけど、ジェイソン・ステイサムはそんなよそ見はしないのです。彼の目にあるのはひたすら自分が目指すべきゴール、ゴール、ゴール!
まあこの映画はそうやって、世界を無駄に広げて監督の収拾が付かなくなったりする愚をあえて避け、限定された刑務所という世界の中で好き勝手暴れて、その挙げ句悪の親玉に一矢報いるのが小気味いいという形にコンパクトにまとめたのが正解だったと思います。
うん、面白かったの、ジェイソン・ステイサムの映画にしては。
彼を取り巻くキャラの設定もよくできてて、味のある役者さんが揃ってたし。
捨て鉢な気分になってる時に見てスカッとするのにもってこいの映画というか。
さて、この元オリンピック選手の海坊主の如き男一匹(ただし凶暴性はない)を御するのは、同等の男ではなく華奢でピンヒールの似合う冷徹な目をしたジョアン・アレン。いやーもー、彼女ったら相変わらず冷静で有能で、しかもこの映画では計算高くて、最高でしたね♪ はい、「ボーン」シリーズのパメラ・ランディから熱い正義感を抜き取ったら氷の女刑務所長のできあがりです♪
この一件お高い、お育ちのよろしい、お行儀も申し分なさそうに見える女所長さんが、ジェイソンの活躍(?)のせいで段々化けの皮がはがれて汚い言葉を連発するようになるのがこの映画の白眉でしたね! そういうのが趣味の(どういう趣味よ?)男性にはたまらんでしょうな♪
ジェイソンと組む胸のでかいだけのねーちゃんなんかホンの添え物、この映画のヒロインは間違いなくジョアン・アレン。常に端正な表情を崩さない彼女が、口を極めて罵るシーンは絶品でございます。どうぞ、お見逃しなく(ってもうすぐ公開終わっちゃいそうだよ~)。