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これは実際にはセリフではなくて小説、それも作品集のタイトルですが、このタイトルを初めて書店で見た時は痺れましたね!

それまで海外SF一辺倒でアーサー・C・クラークとかヴァン・ボークトとかE・E・スミスとかアイザック・アシモフとかロバート・A・ハインラインとか、未来で新生物で宇宙でロボットでコンピューターで、星の一生とか人類の進化とかテクノロジーが発展した理想の世界とかその暴走とか破滅とか終末とかで絢爛豪華な長編の作品群を読んでいたわけですよ。そういう翻訳ものは、訳者が編集者か知りませんがタイトルにも本当に気を使っていて洒落ていたりヒネリが効いていて、いかにも人の気を惹くようちょっとばかり気取ったものが多かったんです。

海外SFの棚を見つめていると、タイトル読んでるだけで心が冒険の旅に出かけていたものですわ。

その棚は充分見終わって、宙を舞ってた心も一応戻って来たところで、じゃあ今度は日本のSFでも見てみようかな、と思ってそちらの棚の前に移動して吟味を始めたら目に飛び込んできたのがこれですよ。

「狼男だよ」

作者、ふざけてんのかと思いました。

今とは時代が大分違いますので、本というのは立派なもので作家というのは偉大な人だと思われていた頃です(ってゆーか、小学生の私はそう思っていた)。

SFのタイトルというものは「2001年宇宙の旅」(当時は未来だったのね)とか「宇宙船ビーグル号の冒険」とか「レンズマン」とか「私はロボット」とか「月は無慈悲な夜の女王」とか格調高いのが普通なのに、くだけきったこの物言いはなんでしょう、

「狼男だよ」

だなんて、人を馬鹿にしているとしか思えません。

大体SFなのに「狼男」って何よ、それ。
「狼男」ってのは昔、というか過去の、それも言い伝えというか伝説じゃありませんか。

SFの棚に並んでいるのに
全然未来じゃないじゃん

しかも本のタイトルなのに「宇宙の狼男」でも「狼男の冒険」でも「狼男」でも「私は狼男」でも「無慈悲な夜の狼男」でもないんですよ。この中で一番近いとしたら「私は狼男」になりますが、それでもきちんと名詞で終止しているんだから何となくタイトルとしての体裁にはなっているのよ。

実はこの元になった「私はロボット」というタイトルも見た当初は実に新鮮というか斬新なものでした。それはタイトルなのに会話文の体裁だったからです。しかしそれでもこれはタイトルとして機能させるために「です」とか「だ」とかいう語尾をつけずに「私はロボット」と体言止めで言い切っちゃって体裁を整えているのよね。

それがあなた「狼男だよ」では、タイトルなのにまるまる会話文で、しかも口語、それも非常に親しい仲でしか使わないようななれなれしい口調じゃありませんか! 

「狼男だ」と書かれるのとは全然受け止め方が違うのですね。

「狼男だよ」、というのは、たとえば子どもに対して「オバケだよ」というのと同様、脅かし半分遊び半分の楽しさがそこに秘められているのですわ。子どもの方はその「オバケ」は信頼する大人が見せるものだから本当は恐いものではないことを知っていて、でも自分が驚くのを相手の大人が期待していることも分かっているので大袈裟に驚いてみせる。大人の方は子どもがわざと驚いてみせてくれたことが分かるので、双方笑っておしまいになる。そういう相互理解に基づいて初めて「だよ」という語尾は生きてくるんですよね。

それが、見ず知らずの人に見せる本のタイトルに堂々とつけられている!

一瞬驚いたあと、魅了されました。

こんなすごいタイトルの本、見たことない、と思って。

でも子どもなので、やっぱり本にこんなふざけたタイトルつけるのはよくないよな、なんて思ったりして。本=教科書みたいな年頃なので、タイトルがふざけている本は内容もふざけているだろうから読むべきじゃないな、等と思いました。

でも、そのワルの魅力には抗しがたいものがあって、本を手にとってみたら表紙の絵が……小学生にはまだ早いと語っているようなものでしたので(私その時4年生か5年生)、すぐ棚に戻しました。ですがそのイラストの美しさにも磁力のように惹き付けられてしまい、棚にしまうギリギリまで見つめていましたよ。小学生って、親がうるさいと自分の行動を抑制しなくてはならず、なかなか面倒なのよね。


その日心を奪われたタイトルの本、「狼男だよ」は以来しっかりと記憶に焼き付き片時も忘れることはありませんでした。本屋に行くたび、日本SFの書棚の前に行ってしばしそのタイトルを見つめて時がたつのを忘れてましたっけ。


「狼男だよ」をようやく読んだのは中学生になって人並に反抗期を迎えた頃。
14歳になったばかりだったかな?

まあそのおもしろさに我を忘れてよみふけり、図書館で借りられるだけのその著者の本を借りまくり、古本やで買えるだけの本を買いまくりすぐに大ファンになってしまいました。

もちろん一番好きなのはタイトルの時から一目惚れしてしまっていた「狼男だよ」のウルフガイシリーズ。

私の狼男好きの根っこは実にそのタイトルを見た時から始まっていたのかも。