公式サイトのトップページに一番に原作者である鳥山明氏の言葉として語られているとおり、これはもう「別次元の新ドラゴンボール」です。決して私達がコミックで読み、アニメで慣れ親しんだあの「ドラゴンボール」と同じ物だと思ってはいけません。
まあ、いっそ「ドラゴンボール」から人物とドラゴンボールの設定だけ借りて新しく作った物語と思った方がいいかも。別に珍しい事じゃないです。かつて東映アニメフェアなどで当時人気のテレビアニメを映画化する時はほとんどがこの手法でしたから。「ドラゴンボール」のアニメ映画なんて最後の方は充分別世界でしたわ。
その手の映画には、間に合わせでストーリーをでっちあげたようなものとか、使い古されたネタを設定だけ流行のアニメにあてはめてかろうじて形にしたものとかも多く、年齢の高いファンにとっては「ちょっとこれは……」から「許せない!」まで様々なレベルで反感を買っていたものです。作る側はどうせ映画館に見に来る子どもなんて毎年新しいんだから古いネタだってわかりゃしないとタカをくくってたりするんでしょうけれどね。アニメフェアなんて2~30分から長くて50分程度の作品だし、春夏冬の長期休暇ごとに制作されてたから内容を吟味する余裕なんてなかったわけで。
そういう粗製濫造気味のアニメ映画でもファンに受け入れられてたのはキャラクターがテレビと同じだったから。作品によってはテレビとアニメで原画を描く人が違ったりして、同じキャラのはずが随分違う顔になったりとかもあったけれど、それでもその「違う」のが「美しい」側にシフトしていれば多めに見て貰えたものです。ま、少なくとも女性ファンには。主人公の顔があんまりひどく違ってると、さすがに「なんだこりゃ」という批判も生まれましたが。
そういう時代を知っている者には、「ドラゴンボール エボリューション」、充分許せる範疇です。
東映アニメ同様、最初からある程度低い年齢層を対象に作られ、90分弱という時間の制約の中で起承転結つけて「ドラゴンボール」のストーリーを詰め込むという作業は充分成功していたのではないかと。
あの長い長い「ドラゴンボール」コミックス全42巻を90分で一本の話にまとめ上げるのは土台無理な話です。
だったら最初の劇場用アニメあたりを下敷きにして、悪役をおなじみのピッコロ大魔王に変えて設定もそれに合わせる所から話を組み立てればいい。日本で作られたテレビ作品のハリウッドバージョン焼き直し一部流用なら主役達をを高校生にするのも「パワーレンジャー」以来の決まり事だし。
そんな感じでできあがったのがこれなんだな~と、「ドラゴンボールE」を見た後でしみじみ思いました。
見ている間は結構楽しかったですよ♪
88分間飛ばしっぱなしでストーリーが進行するので、少なくとも途中で眠くなることはありません。大人が見る分にはさすがに展開が単調で先がミエミエなので退屈でないこともないんですが、しかしまあ頑張ってるなと暖かい目で見守ってあげることはできます。
悟空を演じているジャスティン・チャットウィン君がトム・クルーズとカート・ラッセルを足して二で割ったような美形と野生を兼ね備えつつかつ双方打ち消し合っているような微妙な美形なので、私としては彼を見ているだけで楽しめました。
ブルマを演じたエイミー・ロッサムちゃん、「オペラ座の怪人」のクリスティーヌとは正反対の気性の持ち主を演じつつ、でも顔そのものは端正で控えめな美少女のままなのがクールでかっこよかったです。
田村英里子さんも本来のクラシカルな美女ぶりを一番未来的なコスチュームで包んで活躍していたし、チチを演じたジェイミー・チャン嬢は笑顔がとってもチャーミングでついつい見惚れてしまいました。
これだけ美女が出ているのに、悟空以外の男キャラはさっぱりで、亀仙人こと無天老師のチョウ・ユンファのヴィジュアルはイマイチだし、ヤムチャはどこに魅力を感じたらいいのかまるで理解できない人物造型、ピッコロに至ってはそもそも人間じゃないので緑色なのを確認できたらもういいやというレベルで、この映画が完全に男の子向けの作品であることを物語っていました。悟空の高校の同級生の男の子達もホント、「13日の金曜日」に出てきてジェイソンに殺されたら似合いそうな奴らばっかりで……。女の子達はカワイイのに、この違いは一体何?! って感じです。まあ、男性監督の好みが前面に出てることだけは分かりましたね。
残念なのは、「ドラゴンボールを映画化する」いうことだけに神経がいっていて、「新しい試みに挑戦する」といった姿勢が見当たらなかったことですね。
同じ日本アニメの「スピードレーサー」はどのシーンをとっても斬新で、新しい映像を作り上げるんだという監督のウォシャウスキー兄弟の意気込みに満ちあふれていただけに、目新しさの全然ない「ドラゴンボールE」は冒険心のない、おもしろみに欠けた作品と私の目には映ってしまいました。子ども向けだからといって、どこかから持って来たような映像ばかりの組み合わせで映画を作ったのでは、監督にオリジナリティーのないことがバレバレになってしまいます。
何となく全体的なイメージは「ロード・オブ・ザ・リング」っぽかったりするんですよね、これ。
でSF的なイメージはそれこそルーカスとかスピルバーグとかその辺から借りてきているような気がする。
アクションシーンの表現は「マトリックス」というよりも韓国映画の「火山高」に似てました。
もちろん悟空がおじいちゃんに修行を付けて貰うシーンはジャッキー・チェン映画や「ベスト・キッド」を参考にしたものでしょう。
ブルマの二丁拳銃はひょっとしてジョン・ウー?(だったらチョウ・ユンファにやらせて欲しかった)。
ギミックの多いバイクは「トランスフォーマー」ぽいんだけど、何故か「ロボコップ」とか「トータル・リコール」などのバーホーベン監督も思い出されたりなんかして。
作品の中で語られているテーマ自体も、実は「カンフーパンダ」とかぶっちゃってる部分、多いんですよね。もひとつ踏み込んで言えば、CLAMPのコミック「聖伝-RG VEDA-」にも通じるかな?
まあそれらの「おもしろい映画やマンガ」の要素をギュッと一絞りにして上手にミックスジュースに仕上げたような作品です。ミックスジュースの常として、自分が何を飲んでいるのかさっぱり分からないという部分も含めて。
映画として悪くはないんだけど、特にずば抜けて良いわけでもない。
「ドラゴンボール」の世界にどっぷりつかって育ち、今やコミックやアニメの実写映画化といえば、生身の俳優がコミックやアニメそっくりに表情をつくり動きを似せるものだと思っている日本の若い世代に与える印象は、その程度だとかえってマイナスにしか働かないでしょう。彼らがどれだけ「ドラゴンボール」と「ドラゴンボールE」を切り離して考えられるか、そこが問題ですね。
とはいえ私が見たのは字幕版だったので、アメリカ人の俳優が「気」を思いっきり「KEY」と発音しているのを聞いてつい失笑してしまったりと変な部分に気を取られる事も多かったので、意外と日本語吹き替え版で達者な声優さん達の演技で聞かせて貰うと違った印象を受ける物なのかもしれません。
なんだかんだ書きましたが、私は別に嫌いじゃないです、「ドラゴンボール エボリューション」。ジャスティンの可愛い悟空とエイミーの美貌のブルマとジェイミーのチャーミングなチチと田村英里子のクールビューティーなマイが充分目を楽しませてくれたからそれでいいや。
次回は日本語吹き替え版で見てみようっと♪