「ROOKIES-卒業-」公式サイト
今現在の言葉で彼らを何というのかよくわかりませんが、いつの時代にも学校にいますよね、「服装が他の生徒と違い、先生の話を聞かず、校則を無視する」人達。時代によって「不良」とか「ワル」とか「ツッパリ」とかいったり、或いは「おちこぼれ」とか「ドロップアウト」とか呼ばれたり、日本の「学校」という社会の中では底辺に位置づけられている人達です。
「ルーキーズ」のドラマの中ではそういった、人から「悪い子」というレッテルを貼られるような行動をとってしまう少年達が「本当は悪い子じゃないんだ」という部分を一人一人見せてくれてました。何かこう、本人の中にやむにやまれぬ事情があって他人から誤解されるような行動をとってしまう、またはよかれと思ってした行為の結果が裏目に出る、みたいなストーリーが彼らの表からは見えない部分に隠されているわけです。その、普通の人には見えない部分に気づいてくれるのが川藤先生で、だからニコガクのチームメンバーは表面上は川藤をバカにしながらも(そういう事するから、誤解を受けるんですけどね~)、本音の部分では彼を慕い、心酔さえしてるわけです。
そういう意味では「ルーキーズ」のドラマや映画は野球を題材にしてはいても、野球そのものがテーマの作品ではないんですね。
何故か今回「ROOKIES-卒業-」を見ながら思い出していたのがスペイン映画の「carmen.カルメン」だったりします(参考ページ: Yahoo!映画 )。
この映画の比較的冒頭では小説の原作者であるメリメがドン・ホセという男と出会うシーンが描かれているのですが、人里離れた所で一夜を過ごそうと火を焚いているメリメの所に、その火に惹かれるように男がふらりと現れるのですね。普通なら夜盗かと怪しむような身なりのその男を、しかしメリメは客人として扱い丁重にもてなすのですよ。火だけではなく食事や酒も供し、楽しい夕餉のひとときを見ず知らずの男と分かち合うのです。
やがて夜も更けた頃、男が言うのです。自分はお尋ね者で、本当は火を見たので強盗を働くつもりでやって来た。でも、先生(メリメのこと)に手厚く遇されたおかげでかつての自分を思い出し、久しぶりに人間らしい幸福を感じた。だから先生の荷物も命も奪わずにこの場を立ち去ることにした、と。
一宿一飯の恩義とか、衣食足りて礼節を知る、とかいろんな国のいろんな言葉で言われている事でもありますが、「カルメン」のこのシーンでは単に食べ物を分けて貰ったから恩に着るといった以上の事が描かれていました。それはドン・ホセが受けて食べ物以上に感動したのは人間らしい扱いだったと言ったことです。見るからに教養のある紳士が自分を対等の紳士として接してくれた……普通なら蔑まれ、追い払われて当然なのに。同じ人間として平等に、互いに尊重し合うことの大切さをここでは語っているのですね。
この「カルメン」でメリメ先生がドン・ホセに対して行ったこと――相手を外見や自分の先入観で判断せず対等な人間として尊重する――を、「ルーキーズ」では川藤先生がニコガクメンバー一人一人に対して行った事になるのです。他人の尊敬をかちとりたければ、まずは自分が相手を尊重することから始めねばならないことを教えてくれるという点で、この二つの作品は共通しているのです。
ただし、これは相手の中に他人に感謝したり相手を尊重したりする心がある場合に限ります。
「カルメン」の場合はドン・ホセが元々は軍人で、軍での身の処し方としての教育を受けていた点が大きいです。一度はきちんとした階級社会に組み込まれていた人ですからね。礼儀などはわきまえている。
メリメはドン・ホセの身なりではなく、彼の言葉づかいや身ごなしからその人となりを鋭く見抜き心配することなく彼を客人として迎えたのでしょう。ドン・ホセって、元々はいい人なんですよ。
「ルーキーズ」ではドラマでも映画でも彼らが「本当は悪い子じゃない」というエピソードは「優しい心を持っている」という視点でとらえられます。もっと踏み込んで言うなら「共感」ということになるでしょうか。他人が何かに対してがんばっている姿を見て、そこに「共感」を覚え、そこから自分の行動を見直していくというパターンがワリと多かったと思うんですよね。
「共感」を覚えても、最初は素直になれなくて背中を向けてしまうですが、でも何度も繰り返す内に情にほだされて――というのもありますよね。
「共感」というのは要するに相手の気持ちや心が分かってるってことですから、かなり高度な精神活動なんですよ。その証拠に単なる悪役として出てくる不良(死語)連中って、人の気持ちの分からない粗暴なヤツとして描かれてます。
ニコガクのみんなって、全員が「他人の気持ち(及び痛み)」の分かる、優しい心の持ち主なんですよね、本来は。普段はワル(死語?)ぶってそれをひた隠しにしてますが。
でも川藤だけがそれを見抜き、本気でぶつかって来て、互いに対等な一人の人間として尊重し合う気持ちを教えてくれた――先生の方から俺らを尊重してくれたから、俺らは先生に感謝する――そんな気持ちがこめられているんですね、「ROOKIES-卒業-」って。
たぶん、今の日本に欠けていて、それで一番必要とされているものが描かれているから、この映画はこんなにもヒットしているのでしょう。
そしてこの快進撃はまだまだ続きそうです。