シネマトゥデイ より(以下一部抜粋)
4度のアカデミー賞に輝く巨匠ニック・パーク監督が、このほど都内でインタビューに応じ、最新短編映画『ウォレスとグルミット/ベーカリー街の悪夢』の制作秘話を語った。
世界中に熱狂的なファンを持つ、イギリスの名アニメ工房アードマン・スタジオによる人気クレイアニメーション『ウォレスとグルミット』シリーズの最新作で、昨年末にイギリスでテレビ放送された際には、58パーセントという驚異的な視聴率を記録した。
おトボケ発明家のウォレスとしっかり者の犬グルミットの迷コンビの周りで発生するパン屋連続殺人事件を主軸にサスペンスフルに描きつつ、ウォレスと元CM女優の恋、さらにシリーズ史上初となるグルミットの恋も盛り込んだサービス満点の仕上がりだ。
「確かに今回の作品は盛りだくさんだね。30分という時間の中に収めるのは大変だったよ」と語るパーク監督にとって、本作は、技術面よりもストーリー作りの方がチャレンジングだった。出来栄えには満足しているが、「今後はもっとシンプルな作品を作りたい。だから『ウォレスとグルミット』に関してはもう長編を作るべきじゃないと思っているんだ」とファンには衝撃のドッキリ発言。
だが、これは『ウォレスとグルミット』の持ち味を大切にしたいとこだわるシリーズの生みの親、パーク監督らしい“親心”。「ファンの期待を裏切らず、さらにビックリさせたい」と今後もシリーズ続行に意欲満々だ。
CGアニメーション全盛の時代にあって、クレイアニメーションが持つ独特な質感と温かみはファンを引きつける大きな魅力。「自分が作りたいと思うものと、クレイの質感がフィットしているんだ。各コマを少しずつ動かすことでキャラクターに個性が生まれ、さりげない表情や絶妙な情感が表現できる」と手作りならではの持ち味を大切にしている。
一方で、撮影にデジタルスチールカメラが導入されたり、一部映像にはCG処理を施して滑らかな動きを実現させるなど、伝統の職人技と最先端技術を見事にコラボレーションさせたのも、大きな見どころになっている。
今や世界的人気キャラクターに成長した『ウォレスとグルミット』。パーク監督自身、「ときどき彼らが何を考えているのか分からなくなるし、逆に二人が僕に語りかけてくることもある」と感じているという。それもウォレスとグルミットのキャラクターが際立って確立されて作者の手を離れ、独り歩きを始めた証拠かもしれない。「二人は長年連れ添った老夫婦。お互い良い点も欠点も知り尽くしているんだ」と名コンビに愛情タップリの眼差しを注いでいた。