芥川龍之介の短編「藪の中」を新しい解釈で映像化した「TAJOMARU」(中野裕之監督)が12日、全国で公開された。室町時代、名家に生まれな がら、家臣や愛する者の裏切りによって人生を一変させられ、のちに大盗賊「多襄丸」を名乗ることになる畠山直光が、自らの人生を切り開こうとする姿を描い たエンターテインメント時代劇。主人公の直光こと多襄丸を演じている小栗旬さん。「これで役者人生が終わっても悔いはない」というほど役にのめり込んだと いう小栗さんに作品への思いを聞いた。【りんたいこ/フリーライター】
--黒澤明監督の「羅(今回は)松方(弘樹)さんがやっていらっしゃる役なので、僕自身はそこを意識することはあまりなかったですね。もし、三船さんのリメークをやれといわれたら、絶対やらなかったと思います。
--その松方さんから学んだことは。
松方さんとの殺陣はとても刺激的でした。刀を扱っている時間も経験も、あまりにも差があるので、付いていくのがやっとという感じでした。きれいに 動いて見える刀の持ち方など、いろいろなアドバイスをいただいて、普段の練習の倍くらいのスピードで身になるものがあったと思います。
--カメラが常時2台回っていたそうですが、やりづらさは感じなかったのですか。
僕は基本的に、いつも、どこを切り取られてもいいよ生門」で、三船敏郎さんが演じた多襄丸役ですが、プレッシャーはなかったのですか?
三船さんが演じた多襄丸は、
うに現場に行っているつもりなので、やりづらいと感じたことはなかったですね。
--松方さんとの殺陣のシーンでは、小栗さんのカツラが飛んだそうですが。
僕の方(を撮っているカメラの映像)は、何があっても使えるわけないじゃないですか、カツラが飛んでますから。でも、目の前で(阿古姫役の柴本) 幸ちゃんと、松方さんが一生懸命やってるから迷惑をかけちゃいけないと思って、いつになったら“カット”がかかるんだろうと思いながら、ずっとこうやって (つっぷす動作をしながら)笑ってました。その時は助監督が「カット。OK」と言ったのが、一番ビックリしました。あ、OKなんだと(笑い)。
--「これで役者人生が終わっても悔いはない」と思うくらい役に没頭されたそうですね。
僕は、頭で考えてしまうタイプなので、役に没頭したくても、どうしても自分でブレーキをかけてしまいがちなんです。だから、爆発的な集中力やエネ ルギーを持った俳優さん、例えば同世代でいうと山田孝之がそういうタイプなんですけど、自分もそういうふうになりたいと思っていたんです。それに、今回初 めて少し近づけたんじゃないかな、という瞬間がありました。撮影中に、「よーい、スタート」という声がかかってから、自分が体を動かしたことは覚えている んですけど、気が付いたら次の瞬間、あれ、なんで風呂入っているの、みたいになった(集中した)ことがあって…。ただ、そのシーンは全部カットされちゃっ たんですけど。それも衝撃的でしたね(笑い)。
--柴本幸さんとの共演はいかがでした。
幸ちゃんのことは、久しぶりにエネルギーのある女優さんに会ったなと思いましたね。「なりふりかまわない」という言葉がこんな似合う女優さんは初 めてという感じで、とても面白かったです。芝居へのアプローチがとても男性っぽいというか、いつも100%で体当たりいう感じで、すごく刺激的な女性でし た。女性なら誰しも、奇麗に見られたいとかっていう思いが大なり小なりあると思うんですが、そういう個人的な欲が全くないんですよね。この阿古という人の 人生を生きていればいいんだ、という思いがすごく伝わってきた。本当に役者さんです。でも一瞬、せっかくの奇麗な顔を、もっとお客さんに見せたらいいの に……なんて思ったときもありました(笑い)。でもすごく面白かったです。
--将軍・足利義政を演じる萩原健一さんとの共演はいかがでしたか。
いや、もう、「ショーケン」っていったら、僕にとっても、とてもあこがれの存在ですから、すごく楽しみでした。現場に来てほとんど会話もしていないんですけど、本当にお芝居をするのが好きな方なんだなあと感じましたし、いいもの見せてもらいました。
--今回、時代劇を演じたことで得たもの、感じたことは?
今の僕たちが誰も見たことがない(過去の時代の)世界を演じるということは、とてもファンタジックだと思うし、だからこそ、今の“リアル”を切り 取るより、やれることが多いと思うんですよね。それに対して突っ込むお客さんは、多分たくさんいると思うんですけど、そういう人たちにはこちらからも「お 前だって見たことねえじゃん」って返せるな、と(笑い)。でも、そういうファンタジーの部分が時代劇の面白いところだと思うんですよ。いまの“リアル”を 切り取ったらうそがバレることって、いっぱいあると思うんですけど、誰も見たことのない世界を作るということはとっても夢があるし、ありえないということ をやっても全然OKなんだなと思うし……。
--ファンへのメッセージを。
同世代に言えることは、僕ら生きづらい時代を生きていると言われているじゃないですか。でも、チャレンジしてみないと何も始まらないというテーマがこの作品には流れているので、これを見て、よし、明日、何かにチャレンジしてみようと思ってもらえたらいいなと思います。