nikkei TRENDYnetより(以下一部抜粋) 

イギリスの公開オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』で2位となったスーザン・ボイル。地味な生活を送ってきたパッとしない容姿の48歳のおばさんが、美しい声で歌うギャップで注目を集め、昨年11月末に発売したアルバムが日本で出荷20万枚を突破した。米国で123万枚、本国イギリスで70万枚と世界中で大ヒットしている。





 日本でスーザン・ボイルの制作を担当する、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルの小山哲史氏は「当初からターゲットとしていた、日ごろ洋楽CDを買わない35歳以上の女性層の心をつかんだのが勝因」と語る。

 スーザン・ボイルはテレビの音楽番組ではなく、ワイドショーやニュースでの報道が多かった。「音楽性だけでなく、キャラクターや人生そのものに注目が集まるアーティストの訴求にはワイドショーは欠かせないメディア。アルバム発売の2カ月以上前から、レコーディングの進行状況などが定期的にニュースになるように仕掛けた」(小山氏)。

優勝者ではなく2位が本命

 そもそもは欧米での人気が日本に飛び火したものだが、彼女は偶然ヒットを生み出したのではない。綿密に計算されてスターの座に上りつめたのだ。

 その仕掛け人は、ソニーBMGミュージックエンタテインメントの音楽プロデューサー、サイモン・コーウェル。『アメリカン・アイドル』、イギリスの『X ファクター』など多数の公開オーディション番組で審査員を務め、出演者をめったにほめずに「見るに耐えない」「ここへ何しに来たの?」など辛口のコメントで知られる。

 これまで、公開オーディション番組出身のアーティストは、優勝した正統派アイドルがメジャーデビューし、人気を集めるというケースが一般的だった。ケリー・クラークソンやキャリー・アンダーウッド、最近ではレオナ・ルイスがこのパターンに当てはまる。

 流れが変化したのは06年の『アメリカン・アイドル』で優勝確実といわれながらも、4位にとどまったロックバンドのドートリーから。他の候補者とは明らかに違うスキンヘッドでコワモテのビジュアルと、優勝者以上の歌唱力が話題で、メジャーデビューを果たした。結果、優勝アーティストを上回るどころか、 06年に全米で最もアルバムを売った新人となった。

 このヒット以降、歌のうまさだけではなく、キャラクター性の高さや、過去のプロフィールを売りにする入賞者が増加。しかも、優勝確実といわれながらも2 位にとどまったドラマを前面に押し出し、結果的に優勝者を上回るセールスを記録するアーティストが続出している。スーザン・ボイルのヒットはこうしたパターンの集大成というわけだ。

 このヒットの法則通りに、既に次のスター候補も生まれている。映画『2012』のエンディングテーマを歌う、アダム・ランバートは『アメリカン・アイドルシーズン8』で2位となった後、ゲイであることをカミングアウト。あやしい魅力を振りまき、日本では3月にデビュー予定だ。洋楽不振といわれるなか「個性派2位」に対する業界の期待は高い