>「文豪を演る」というコンセプトの下、世界的にも評価の高い日本が生んだ近代文学の作家たちの短編小説を、旬の俳優陣で映像化した「BUNGO-日本文学 シネマ-」がTBSおよびBS-TBSで放送される。記念すべき第1回で放送されるのは、昨年生誕100周年を迎え、著作が次々と映画化されている太宰治 の短編作品「黄金風景」。主人公≒太宰を演じるのは、もの静かで落ち着いた佇まいながら、どこか心に引っかかる独特の存在感を放ち、映画にドラマにと話題 作への出演が続く向井理。向井理が太宰と聞いて意外と見る向きもあるかもしれないが、短い時間の中で味のある太宰像が打ち出されており一見の価値あり! “文豪”を演じて、向井さんの胸に去来した思いは? 放映開始を前に話を聞いた。
何度も心中して、常に女性に依存して…など太宰に関しては一般的にもある種のイメージが付きまとうが、向井さんがこれまでに持っていた太宰のイメージは?
「一
度その人になりきった後で、その前に抱いていたイメージを思い出すのは…難しいですね(苦笑)。『走れメロス』や『人間失格』は以前に読んでいたんです
が、当時で言う“イマドキな”文章で型破りなものを作る作家ですよね。いま読んでも決して古臭い感じがせず、“文豪”というイメージではなかったです。実
際、この時代の人間でもう死んでいる作家ということを知らずに最初に読んだときは、つい最近の人のように思っていた記憶があります。人物については…語弊
があるかもしれないけど、当時は太宰の中で自殺ブームですよね。彼自身、芥川龍之介を崇拝していたし、“世間”に憧れ、流されるようなところがあった。旧
家の坊ちゃんに生まれたのに勘当されて、結婚して、愛人持って、それとはまた別の人と心中して…ってまあムチャクチャな人ですよね(笑)」。
先ほどの太宰作品についての向井さんの見方ではないが、かなり現代的に感じられる描写や太宰の子供っぽい一面が強く押し出されている部分も見られるが…。
「子供っぽいというのは、見方によっては人間らしく着飾らずに感情を出した部分と言えると思います。そこに惹かれる人は少なからずいたでしょうね。かっこ悪いのがかっこいい…全部さらけ出す人だから魅力的なのかとも思います」。
女
中の消息を人づてに聞いた太宰の口をついて出たのは「幸福か?」というひと言。そして、彼女と家族の姿を遠くから見つめながら清々しいまでの敗北感を抱
く。こうした太宰の感情に対し、向井さんなりに理解は? と尋ねると
「それほどまでに初恋を引きずっていた、という部分は分かる気がします」
との答えが。
やはり彼が抱いていたのは恋心なのだろうか?
「はっきりと文字でそう書かれてはいませんが、そうだと思います。逆に、書いてしまえば薄っぺらいも
のになってしまう。僕も最初に読んだときはそう感じなかったんですが、実際にセリフを口にして、演じていく中でそう(=初恋)だったんだと分かってきまし
たね。太宰自身、書きながら自己分析をする中で理解したのかもしれませんね」。
「そ れは秘密です(笑)。僕の中では俳優の個性ってどうでもいい部分なんです。というのは作品において、アーティストは監督であって、僕自身はアーティストで はなく、作品の中でどう立ち回れるかが重要なんですね。監督がいて、カメラさんがいてメイクさんがいて…という中で僕はそのうちの一人。だからこそ、僕自 身は“個性”を持ち込みたくないという気持ちが強いです」。
そう言われるとなおさら“素”の向井さんが気になるが…。一度社会に出てから役者の道を志すなど、そうした異色の経歴も含め周囲は想像をかき立てるが…。
「先 ほどの太宰の話と同じですよ。みんなが知っているその人が本当のその人とは限らない(笑)。“どう思われるか?”に合わせるつもりはありません。いまの時 点で言えるのは、お芝居を中心に生きていきたいということ。周囲は変わっていくものかもしれませんが、僕自身は変わらず、自然体でやっていけたらと思いま す」。
静かに笑みを浮かべながらも凛とした口調が印象的だった。
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