「ウルフマン」公式サイト

この映画、舞台が1891年というから実はつい先日まで上映していた(まだ上映中の所もあるかも)「シャーロック・ホームズ」(公式サイト )とほぼ同時代なのよね。歴史的な言い方をすればビクトリア朝後期。だからおまわりさん警官の制服が同じだし、殿方の基本的スタイルもほぼ同じ。まあ、同じイギリスといってもロンドンと「ウルフマン」の舞台となるブラックムーアでは洒落具合が全然違うのだけど、帽子や服やブーツといった衣装類のデザインは共通しているのです。

違うのは顔。
「シャーロック・ホームズ」に出てくる人達はどの役もひっくるめて皆どこか垢抜けて洒脱でユーモアとエスプリがきいた――ちょっとばかり現代的な顔をしてたんだけど、「ウルフマン」に出てくるのは厳めしい顔した男ばかり。女はヒロイン以外ほとんど出てこないし、こちらは一様に悲しげな面持ちをしてて、心が晴れることがないといった雰囲気です。

「ウルフマン」のメインキャストはベニチオ・デル・トロにアンソニー・ホプキンスにヒューゴー・ウィービングで、彼ら3人だけでもにらめっこ勝負をやったら端で見てる子どもが泣き出すんじゃないかってぐらいスゴそうなのに、わらわらと出てくる名もない脇役の男性キャストまでが皆そろって口をへの字に曲げ、その曲げた口は髭に隠して険しい目をして銃構えてるんだもんね。一体なんの勝負ですか、ひょっとして面構えですか、一等になったら何か貰えるんですか、みたいに風格ある顔が揃っております。

でも一等は彼らのものではないんですよ。
だってこの映画は「ウルフマン」。
タイトル通り、狼男が出てくるのですから普通の人間がどんなに顔つき恐くしたところで変身後の狼男には勝てませんや。

この変身シーン、いや、それだけじゃなくて映画全体の雰囲気が往年のユニバーサル怪奇映画の雰囲気を色濃くたたえておりまして、なかなか風情があってようございます。この下で紹介している「トワイライト・サーガ」あたりですと人間から完全に狼へと変身する「狼族の人間」が出てきたりして、彼らの変身シーンはモーフィングを使っていてそれはそれで大変美しいのですが、このユニバーサルの「ウルフマン」はそういった現代的な解釈とは一線を画しておりまして、人間が変身するのが「狼男」なのですよ。ええ、もう、古典的な。ちょっとびっくりするぐらい古典的なスタイルの「狼男」。ファンから見ると結構嬉しい。

「ヴァン・ヘルシング」(WIKI )のヴェルカンあたりからCGIを使う事でかなり「狼」に近い形に変身するのが昨今の「狼男」の流行だったんですが、「ウルフマン」では「狼男」と「狼」は違うんだという事をはっきりさせたかったようです。もちろんCGIも使ってますが、特殊メイクもすごい。

それよりすごいのが変身シーンの苦悶の様子で、これは確かに名優でなければできない演技です。ヴェルカンも変身する前に苦しむシーンがあったんですが、これは演じたのが本来バレエ・ダンサーであるウィル・ケンプでその表現は卓越してたんですが、見ている方は彼の苦しみから目を背けたいと思うよりもどちらかというとその動きの美に目が釘付けになってしまうんですよね。それに比べると「ウルフマン」で俳優が表現しているのは激しい苦痛で、その生々しさに思わず同情を覚える程です。


狼男や人間の男達のこれでもかってぐらいに「恐い顔」が揃った中、怖そうに見えて実は一番優しい表情を見せてくれたのが主演のベニチオ・デル・トロでした。この方、ああ見えて、意外と母性本能くすぐりキャラなんですわ。可愛いの♪ 面構え勝負では負けだけど。

一番可笑しいのがヒューゴー・ウィービングで、別に顔が笑えるわけじゃないんですが、この方喋ると声がメガトロンなんですもの。「トランスフォーマー」(WIKI )思い出しちゃって笑い堪えるのが大変でした。あ、彼は「ロード」のエルロンドでも「マトリックス」のエージェント・スミスでもあるんだけど、「ウルフマン」の時の声は何故かメガトロン様なんです。スコットランド・ヤードのおえらい警部様ってことでボス風吹かせてるあたりがキャラとしてメガトロンに通じるのかも。

というわけで、誰がこの(どの?)勝負に勝ったのかはもうおわかりですね?

アンソニー・ホプキンス、そうです、誰も勝てないのでした。
だって、御大、ただ笑ってそこにいるだけで、もう怖いんだもんね。
くわばらくわばら。