読 売新聞

「日本のおばあさん」を演じると第一級だった劇団民芸の北林谷栄(きたばやし・たにえ)(本名・安藤令子(あんどう・れいこ))さんが、4月27日午後8 時40分、肺炎のため亡くなった。

 98歳だった。告別式は近親者で済ませた。後日、お別れの会を開く。喪主は長男、朝生(あさお)さん。連絡先は、川崎市麻生区黒川649の1の劇団民 芸。

 東京・銀座生まれ。山脇高等女学校卒業後、肺結核の療養生活を経て1931年、創作座に入り、35年に初舞台。翌年、新協劇団に移って「どん底」のナー スチャで認められ、移動演劇の瑞穂劇団を経て戦後の47年、民衆芸術劇場(第一次民芸)結成に参加。50年には滝沢修、宇野重吉らとともに劇団民芸(第二 次民芸)を設立した。

 20代後半で演じた「とんど祭り」の老女役が認められて以来、老け役を数多く演じた。幼少時、祖母の手で育てられたことが役立ったといい、日ごろから衣 装やメークの研究を怠らない話は有名だった。

 最大の当たり役は、小山祐士作「泰山木(たいさんぼく)の木の下で」の神部ハナ。貧困や家族を戦争で失った不幸にめげない、明るくたくましい人間像を作 りあげ、400回を超すステージを重ねた。最後の舞台になったのも、2003年3月のこの作品だった。

 映画やテレビでもおばあさん役者として早くから活躍。今井正監督「キクとイサム」(59年)では、娘が産み捨てた混血児を育てる祖母を好演し、毎日映画 コンクールとブルーリボン賞の主演女優賞を受けた。翌年には、今村昌平監督「にあんちゃん」でサンフランシスコ国際映画祭助演女優賞を受賞。テレビでも、 日本テレビ「機の音」(80年)で118歳の役を演じて話題になった。

 89年に動脈瘤破裂で倒れて前頭部の手術を受けたが、翌年、映画「大誘拐」で見事に復帰。富豪の老婦人を愛敬と威厳をもって演じ、キネマ旬報賞、日本ア カデミー賞などの主要女優賞を独占した。

 舞台では、75年に「お尋ね者ホッツェンプロッツ」で作・演出に挑戦。96年の「波のまにまに お吉」で演出・出演を兼ねたほか「黄落」(97年)や 「蕨野行」(99年)の脚色・主演を次々にこなした。69歳で半年間ロンドンに留学するなど進取の気質に富み、誇りを持った生涯現役女優だった。

 72、82、98年に紀伊国屋演劇賞、99年に読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。著書に「蓮以子八〇歳」がある。78年、紫綬褒章受章



100歳まであと少しだったのに……。
ご冥福を祈ります。