産 経新聞 より(以下一部抜粋)

 勝新太郎主演で大ヒットした映画「座頭市」シリーズが、29日全国公開の香取慎吾主演「座頭市 THE LAST」で完結する。昭和37年の第1作以 来、三隅研次、田中徳三、北野武ら名だたる監督が手がけた傑作アクション時代劇。トリを務める阪本順治監督は「人を斬ることが自分の傷になる座頭市」を念 頭に撮影に臨んだという。(堀晃和)

  [フォト]勝新太郎が演じる座頭市

 仕込み杖を逆手に、ばったばったと斬り倒す。観客を痛快な気分にさせる驚異の抜刀術と強烈な個性が、盲目の居合の達人「市」の魅力だろう。しかし、阪本 監督は「圧倒的な強さを誇る過去の市とは違う」と、アクション映画の枠を超える人間ドラマへと昇華させた。

 この作品でつづられるのは、市の妻、タネ(石原ひとみ)への愛慕と、渡世人から足を洗う心情だ。一人故郷に帰った市だが、平穏な生活は続かず、非道な天 道(仲代達矢)一家との争いに巻き込まれてゆく。

 阪本監督は脚本を読んだとき、田中徳三監督の3作目と、新藤兼人脚本の14作目が頭に浮かんだという。前者は夫婦になる約束をして仕込み杖を捨てようと する内容で、後者では人を斬ることへの葛藤が込められていた。「すごく印象に残った作品。これをやるんだと思いました」

 演出で気を配ったのは、市と杖との関係性だ。自ら杖を握るのではなく、過酷な運命に握らされてしまう。そんな市の心の動きを表現した。

 時代劇は初めてだが、依頼が来たとき、親交のあった勝新太郎の顔が浮かび、「最後の座頭市は他の監督に渡したくない」と思ったそうだ。「過去に傑作があ るこんな怖いオファー(申し出)を受けたのは、それだけ座頭市に興味があったから」と明かす。体や心に欠損のある人をテーマに撮ってきた阪本監督にとっ て、盲目で心に傷を持つ市の物語は、ずっとさわってきたことの延長線上にあると感じたという。

 繊細な心理描写に加え、香取のすさまじい殺陣が圧巻だ。冒頭、市が「やめちゃくんねえのか!」と叫び、竹林で大勢の追っ手と切り結ぶシーン。阪本監督は 山の斜面という設定にして、スリルを高めた。

 香取は撮影の10カ月前から殺陣のけいこと盲人になりきる訓練を積み、目を閉じたまま演じきった。阪本監督が「ここは薄目を開けないと危ない」と助言し たところ、「薄目でやると体に違和感がある」と拒否するほど市になりきっていたという。

 山形県の庄内映画村に建てたオープンセットなどオールロケでの撮影に加え、仲代達矢をはじめ倍賞千恵子、反町隆史、工藤夕貴、寺島進、中村勘三郎、原田 芳雄ら豪華な共演者も魅力的。日本映画全盛時代を思わせる最後を飾るにふさわしい大作だ。

 ■映画「座頭市」シリーズ

【昭和37年】(1)「座頭市物語」三隅研次(2)「続・座頭市物語」森一生

【38年】(3)「新・座頭市物語」田中徳三(4)「座頭市兇状旅」同(5)「座頭市喧嘩旅」安田公義

【39年】(6)「座頭市千両首」池広一夫(7)「座頭市あばれ凧」同(8)「座頭市血笑旅」三隅研次(9)「座頭市関所破り」安田公義

【40年】(10)「座頭市二段斬り」井上昭(11)「座頭市逆手斬り」森一生(12)「座頭市地獄旅」三隅研次

【41年】(13)「座頭市の歌が聞える」田中徳三(14)「座頭市海を渡る」池広一夫

【42年】(15)「座頭市鉄火旅」安田公義(16)「座頭市牢破り」山本薩夫

(17)「座頭市血煙り街道」三隅研次

【43年】(18)「座頭市果し状」安田公義(19)「座頭市喧嘩太鼓」三隅研次

【45年】(20)「座頭市と用心棒」岡本喜八(21)「座頭市あばれ火祭り」三隅研次

【46年】(22)「新座頭市 破れ!唐人剣」安田公義

【47年】(23)「座頭市御用旅」森一生(24)「新座頭市物語 折れた杖」勝新太郎

【48年】(25)「新座頭市物語 笠間の血祭り」安田公義

【平成元年】(26)「座頭市」勝新太郎

【15年】(27)「座頭市」北野武

【20年】(28)「ICHI」曽利文彦

※映画タイトルの名前は監督