シネマトゥデイ映画ニュースより(以下一部抜粋)
> 山田洋次監督が市川崑監督の同名作にオマージュをささげ、吉永小百合を主演に姉と弟のきずなを描いた映画『おと うと』でポスターや題字など映画のイメージにぴったりのイラストを書き上げたイラストレーター、松本春野に若くして山田監督に抜てきされた理由や、祖母に あたる故いわさきちひろさんについてなど話を聞いた。
Q:『おとうと』でイラスト、題字をすることになった経緯を教えてください
松本:山田監督とは昔から家族ぐるみのお付き合いがあって、新作のたびに山田組の撮影現場を見学させてもらっていました。わたし、『おとうと』の撮 影の時期は失職中だったので、ひまなときは現場に入り浸って、そこで働く人たちをスケッチしたり、観察日記をつけていたんです。後日、その絵を観たプロ デューサーから声をかけてもらって。連絡があったときは本当にびっくりしました。
Q:山田監督は、その時何か言っていましたか?
松本:山田監督は「博打(ばくち)だって(笑)」
Q:若くして山田組に入られたわけですが、どうやって山田監督を“オトされた”のでしょうか?
松本:年齢の差はあるけれど、同じ方向を向いて生きているのかな、と思っています。監督の目指している世の中に共感しているし、わたしも自分の絵で そういうことを訴えていきたいという思いが強くあったので、そこが相思相愛だったのかなと(笑)。望む世界を自分たちができることで、少しずつ作っていけ たらと思っています。
Q:どんなイメージで、『おとうと』のイラストを描き上げたのですか?
松本:まずは姉弟というものの関係性が一番出るもの。そしてポスターは3秒アート(通り過ぎる間にぱっとわかることが必要) と言われているからシ ンプルじゃないといけない。二人の歳の違う男の子と女の子っていうだけではダメで、お姉ちゃんは弟を大切に思っているし、弟は、お姉ちゃんといることで安 心しているというのが一発でわかる絵というのは、説明的な要素は抜きにして、お姉ちゃんと弟が手をつないでいる絵じゃないかなって。姉弟って普段ドラマ チックに抱き合うこととかないじゃないですか、でも体のどこかが触れ合っている、そんな絵がいいのではないかと思っていました。プロデューサーさんも頭に そういう絵があったみたいです。
Q:『おとうと』に続き、山田監督の『京都太秦物語』も参加されていますが、絵本やそのほかのイラストを描くのと、映画のイラストを描くのでは、何か違う点はあったりしますか。
松本:まったく違います。絵本は、何枚もの絵と言葉で成り立っていますが、ポスターなどは1枚ですべてを語らなければいけない。絵本ではその物語の 状況を描いていくことが多いのですが、ポスターの絵は物語性が必ずしも内容と一致していなくても、映画のメッセージやイメージが絵の中に込められていれば いい。そんなに状況を説明的に描く必要がないので、もっと抽象的なイメージから構成していきます。わたしは人間や実在のものを描くので、どうしても具体的 になりすぎる。映画のコンセプトとどう組み合わせていくかというのに頭を悩ませながら描きました。
Q:ご祖母のいわさきちひろさんも絵を描かれていましたが、この仕事に就くにあたって、何か影響を受けたのでしょうか。
松本:もともとは、大学を卒業して、世の中のためになる仕事に就けたらいいなって思っていました。ソーシャルワーカーとか現場で働く人ってすてきだ なと。子どもが好きだったので、自分が働くことで悲しい思いをする子どもが少しでも減らせたら、そんな夢がありました。美大で学んでいたけれど、絵を描く ことで社会に役立つことは非現実的なように思えていたんです。進路にすごく悩んだときに、ふと自分の祖母に思い当たった。絵を描くことでそれを実現してき た人が身近にいたじゃないかと。それまでは、大物すぎる祖母と自分を同じ土俵に乗せたことなんてなかった(笑)。祖母が死んでから何十年も経ってるのに、 彼女の平和への意志がちゃんと絵本を通して受け継がれているのをみて、こういう方法も不可能じゃないんだなと思った。そういう祖母の生き方からこの仕事を 選んだんです。絵を描きはじめてからは祖母と絵が似てしまうのが怖くて、鉛筆と水彩は使わなかったんです。でも大人になるにつれて、自分は祖母と全然違う 人格なので、同じ子どもを描いても違う描き方をするんじゃないかと、同じ画材で同じモチーフを描いても祖母とは違う絵を描けると思ったんです。
Q:今後はどんなお仕事していきたいですか
松本:人を不快にさせるような仕事はしたくないです。逆を言えば、わたしの仕事が、誰かの「今日も悪くない1日だったな」と思える、要素の一つになっていったらうれしいです。
映画『おとうと』DVD(税込み:3,990円)とブルーレイ(税込み:4,935円)は8月4日松竹より発売、レンタルも同時リリース