>ハロルド作石の同名コミックを基に、音楽という絆で結ばれた若者たちの友情と成長を描く青春ストーリー『BECK』。いまをときめく豪華若手俳優た ちが結集する中、水嶋ヒロが演じたのはニューヨーク帰りの天才ギタリスト、竜介だ。佐藤健扮する平凡な男子高校生・コユキに音楽の魅力を示し、バンドの世 界へと導いていく竜介は、水嶋さんにとって「自分自身の体験を引っ張り出してきて演じることもあった役」だという。
「竜介はギタリストとして優れている一方、弱い人間でもある。そんな自分を強く見せていたり、それでも弱い部分が出てきてしまったりという彼 の人間臭さが僕にとっては魅力でしたね。僕も竜介も同じ帰国子女ということで、気持ちの伝え方が分からなくて戸惑っているところにも共感できました。バン ドのメンバーたちに本心を見せなかったり、つらく当たってしまうところなど、帰国子女ならではの感覚に近いものを感じましたね」。
累計発行部数1,500万部を超える大人気コミックが原作であるだけに、ビジュアル面の役作りにも心を砕いた。
「映画に関わる全員の中に、“なるべく原作コミックと一緒にしよう”という共通の意識がありました。それは衣裳や見た目も同じことで、僕自身 も撮影に向けて調整していきましたが、竜介の場合、“どう見ても眉毛が細いな、コイツ”と(笑)。なので、まずは眉毛をブチブチと抜くことから始めました ね。まだ『MR.BRAIN』(TVドラマ)で林田という役を演じている最中のことだったんですが、どうしても眉毛を抜きたくなってしまって。でも、林田 は前髪の長いキャラクターだったので、眉毛が隠れていてよかったです(笑)。あと、竜介の長髪は、撮影中に大変だったことの1つでしたね。暑いし、時間が 経つと気が遠くなってくるんです。喋ると髪の毛が口に入ってきちゃいますし、慣れるのが大変でした」。
天才ギタリストという役柄に真実味を持たせるべく、撮影前からギターを特訓。「竜介という役を通して表現すべきギターパフォーマンスを目指しました」とふり返る。
「竜介の自信満々な雰囲気を出せるよう、短い期間ですが工夫して効率よく練習しました。練習期間は1か月半もなかったくらい。しかも毎日練習できたわけではなく、回数にすると本当に少なかったです。もちろん大変でしたが、がんばるしかなかったですね」。
撮影現場では仲間たちと作品を作り上げる一役者であると同時に、場を牽引する主演俳優でもあった。
「常に凛としていたいなとは思いましたし、オンオフのスイッチはきちんと入れるよう心掛けていました。やることをやって結果を残していかなければ、誰もついて来てくれませんから」と語る一方、仲間との距離を感じさせる竜介としての在り方も意識したという。
「共演のみんなとは1つの目標を共有する仲間でしたから楽しくやっていましたが、その中で意識したのは、少しだけ距離 を取ること。他の現場では周りと密に話し合ったりしますが、あえてそのプロセスを省き、竜介特有の浮いている感じや陰につなげられればいいなと考えていた 自分もいます。もしかしたら、(佐藤)健は別の現場にいるときの僕との違いに気づいていたかもしれません。もう3作目の共演なので」。
名前の挙がった佐藤さん演じるコユキは、竜介たちとバンドを組んだ初めてのライヴで自分の力不足を痛感する。水嶋さんがこれまでの俳優生活の中で力不足を感じたことは? と尋ねると、「常に感じていましたよ」と意外な答えが返ってきた。
「最初の頃は特にそうでしたね。やっぱり何も分からない状態でしたから。気持ち的に乗り越えられたのは『わたしたちの 教科書』(TVドラマ)あたりから。実力派俳優と言われている人たちの中に入って自分のキャラクターを立たせなくてはいけなかったんですが、そのときの監 督がこう言ってくださったんです。“そのために努力したものこそが大事なんだ。だから、お前は正しいことをしている”と。そこからは自分を信じられるよう になりましたね」。
デビュー以来、人気俳優として疾走中の水島さんだが、コユキが竜介に出会えたように、バンドメンバー同士が互いと知り合えたように、“奇跡の出会い”と呼べるものが自身の俳優人生の中にあるとしたら、それはどの作品? と聞くと、「それって、1つに絞ると他の作品に申し訳ないですよね(笑)」という水嶋さんらしいコメントが。
「どんな作品もがんばって取り組んできたし、どんなに馬鹿なことも本気でやってきたつもり。今回の『BECK』で言う なら、映画化実現の裏には製作の方々の奮闘がある。だからこそ、伝える側の一員である僕ら役者ががんばらないといけないなと思いますし、作品に出会って、 台本を読んでメッセージを把握して伝えるのが役者の仕事。慌しい撮影中は心に余裕がなくなることもあるけど、そういった思いは常に持っていたいですね」。
そんな水嶋さん自身も、『BECK』から受け取ったメッセージがあるという。
「観てくれた人が“信じていれば夢は叶う”というメッセージに行き着いてくれたら嬉しいですし、そこが僕にも一番響いた部分ですね。竜 介の場合は、その夢を信じて叶えようとする過程で、人との絆が大事なんだと気づく。最初は仲間の前で弱さを見せることはなかったのに、どんどん見せ始め、 最後は心が丸裸になった状態でステージに立ってライヴをする。そういった竜介の変化も見てほしいですね」。
竜介とメンバーたちが野外ロックフェスティバルに挑むクライマックスまで、熱き青春模様が一気に展開する『BECK』。ちなみに水嶋さんは、「僕自身は野外フェスに行ったことがないんですよ。一度は行ってみたいけど、できれば家から15分くらいのところで開催してほしい(笑)」と語ったが、クライマックスのライヴシーンはまさに感動と圧巻の一言。“水嶋ヒロ=竜介”の変化に胸が熱くなるはずだ。
(photo:Yoshio Kumagai/text:Hikaru Watanabe)
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