> 累計1500万部を超えるコミックを実写化した映画「BECK」が、公開される。夢に向かう5人組ロックバンドの若者の成長を描いた物語で、「20世紀 少年」3部作の堤幸彦監督がメガホンを取った。堤監督は「バンドには神様が降りてくる瞬間がある。今回それを映像に収めることができた」と胸を張っ た。(橋本奈実) 

 監督も高校時代からバンドを組み、ギターボーカルを担当。初めて購入したギターは、物語のボーカルが初めて手にしたものと同型という偶然があった。それゆえ、この企画の話が来たとき「ふたつ返事で引き受けた」と振り返る。

 《高校生のコユキこと田中幸雄(佐藤健)は、平凡な毎日を送っていた。そんな彼の前に、ニューヨーク帰りで天才的なギター技術を持つ南竜介(水嶋ヒロ)が現れる。竜介はバンドメンバーを探していた…》

 原作に忠実であることを心がけ、筋立てや容姿、個々が持つ楽器と主要ポイントは崩さなかった。特に楽器演奏にはこだわり、「たとえ音として成立しなくても、弾いているリアリティーを出したいから、練習してほしい」と指示した。

 初心者ばかりのキャストは約2カ月間、手に血豆ができるまで練習し、バンド経験者が見ても遜色(そんしょく)のない映像に。ハイライトで、フジロック フェスティバルの会場を借りられたことも大きかった。「あのステージに立つと、俺がロックだぜという気持ちになれる。その感情を撮れただけでもこの映画は 成功したと思う」

 監督は現役の大学生でもある。撮影場所を探すうちに地理学に興味を持ち、かつて通った法政大で学ぶ。「50代半ばで、今まで勉強しなかったことが響いてきたので、昨年通信教育で入学しました。地理は雑学の集大成のようなところもあり、興味深い」

 勉学は、新たなの取り組みへの糧でもある。「実際にあった事件を映画にしたい」。取材をして再現するだけでなく、自分の視点を持って作り上げ、作品自体が問題提起となるものを考えている。「職業映画を約30本撮ったが、死ぬまでにこれをやるべきだと思う」

 それは、プロ意識からなる。「鑑賞料を払った人に“心の土産”を持ち帰ってほしいと思い、作品を作ってきた。土産は、キャリアを重ねるごとに増やさない と」。今作の“お土産”は-。「自分の力で、ぶつかることでしょう。いい加減には過ごせないんだよってことを伝えたい」。

 9月4日から、梅田ピカデリーほかで公開。