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「タイガーマスク」は丸顔の可愛い子どもや少年が主人公のよくあるタイプの作品ではなく、ハンサムな青年が主人公でしかもそのプロポーションが日本人離れしていて、その上職業がプロレスラーですから毎回必ずその鍛え上げた肉体を惜しげもなくさらすという(アニメだから絵なんですけどね)、まことにもって私の好みにぴったりな作品だったのです。というより、今の自分の好みは「タイガーマスク」で植え付けられたのかもしれないと思ったりして。

でも何よりよかったのは「タイガーマスク」である伊達直人を演じていた声優の、富山敬さんのお声と演技でしたね。キザ兄ちゃんを演じている時のちょっぴり気弱で優しい声と、虎のマスクをかぶってリングに上がる時の声が違ってて、さらにリング上でタイガーマスクとして喋る時と伊達直人としての心の声が聞こえてくる時との声も演じ分けていて、子どもの耳でもはっきり聞き分けられるのでストーリーを追うのに苦労しなかったものです。

富山さんは他にもたくさんのアニメや洋画の吹き替えをやってらして、「燃えよ!ドラゴン」ではかのブルース・リーの声をアテたこともあります。ドラマでも「アメリカン・ヒーロー」のように主役だけじゃなく、脇役でも「特効野郎 Aチーム」のクレイジーモンキーや「刑事スタスキー&ハッチ」の情報屋とか一風変わった役を嬉々として演じてました。「スター・トレック」のミスター・カトウ(映画ではスールー)の声も忘れられません。

アニメでは「ヤマト」の古代進役が有名でしたが、私にとっては富山さんの原点はやはり「タイガーマスク」でした。当時のアニメは完全に子ども向けに作られていて、主人公も少年ばかりで声優さんでも女性(「タイガーマスク」のケン坊の声は野沢雅子さんでした)であったり、男優さんでも高めの声で喋ったり(神谷明さんの少年声は可愛かったです)が多い中、大人の男性の落ち着いたトーンの声はそれだけで魅力的だったのです。

大人の男性の声でアニメに多く出ていたのは、「ヤマト」で進の兄、古代守を演じていた広川太一郎さんですが、彼もすでに鬼籍に入られています。

そして今また野沢那智さんが亡くなられてしまいました。
野沢さんも「ヤマト」の続編のどれかに敵の将軍か何かの役で出演されていましたので、今頃は天国で同窓会でも開いているかもしれません。ルパン3世で有名な山田康夫さんが入ると、洋画の吹き替えで一世を風靡した方達の集まりになるでしょうか。アラン・ドロン&ブルース・ウィリスにジャン・ポール・ベルモンド&クリント・イーストウッドにロジャー・ムーア&ミスター・BOOにジョージ・タケイ(ミスター・カトウ)&エディ・マーフィー。古い洋画のDVDやブルーレイを出すのなら、音源が残っている限り彼らの吹き替えたバージョンで出して欲しいと思います。テレビではまだまだ昔の吹き替えのまま放映されることがあって、思いがけずに今は亡き声優さん達の若い声を耳にすることもありますから、部分的にでも残っているならそれを使って欲しいのです。

部分的にも、というのは洋画はテレビ放送時にカットされることが多く、また一度吹き替え版を作っても別枠で放送する時に尺が合わないと容赦なくさらにカットされたりもしたからです。アニメでも昔の作品は長いので、今テレビで再放送しようとするとカットの憂き目に合うかもしれません。でもGyao!での配信ならその心配はないのでしょうね。おなじみ、SANKYOではパチンコ化もされるとのこと。でも私、涙なしにはそのパチンコできないかも……。

一人、大好きだった声優さんが亡くなるたびに、昔好きだったアニメや吹き替えで見た洋画・洋ドラマのことが思い出されます。あの頃は私も子どもだったけれど、今は……。

この先、自分の人生がどれだけ残っているのか分かりませんが、かつて好きだった人やものがどんどん失われていくのを見ていかねばならないのかと思うと、やるせなくなります。その前に自分の記憶の方があやふやになるのかもしれないけでお、不思議に子どもの頃のことは覚えているものでね。

「タイガーマスク」は、最終回を見るために走って帰ったことまで思い出として残っています。
この記憶は、他の全ての私の愛した声の記憶とともに、もっていきたいです。自分の死に至るまで。