ぴあ映画生活より(以下一部抜粋)

>『アモーレス・ペロス』『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が、オスカー俳優ハビエル・バルデムを主演に迎えた最新作 『BIUTIFUL ビューティフル』のイベント試写会がこのほど東京のセルバンテス文化センターで行われ、映画評論家の佐藤忠男氏が上映後にトークショーを行った。

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『BIUTIFUL ビューティフル』は、バルセロナで非合法な商売のシノギで暮らしている男ウスバル(バルデム)が余命2か月を宣告されるも、決して楽とは言えない日々の暮らしの中で、愛する子どもたち、そして底辺で暮らさざるをえない人々を前に必死に生きる姿を描く。

本作は、イニャリトゥ監督が黒澤明監督の映画『生きる』に強い影響を受けて製作されたものだが佐藤氏は「黒澤明の『生きる』は非常にセンチメンタルな映画 で“感動するツボ”がちゃんと決まっていて『ここで泣けます』という風に場面ができていたのだけれど、『BIUTIFUL…』は簡単に泣かしてくれないで すよ。とはいっても『重い映画だ』と人に言わないでもらいたけれどね」と笑顔を見せ、「黒澤明は『生きる』で“世のため人のために尽くせば安心して死ね る”という非常に正しい教訓を掲げて、この映画の監督もそこに感動したはずなんだけれど、しかし待てよと。“世のため人のため”なんて言っても今の世の中 大変だぞと、そう簡単に世のため人のために尽くせるものじゃないぞ、ということを描いています」と分析。家族関係が複雑になり、多民族が流入し、それぞれ が一筋縄ではいかない人間関係を築きあげている本作の舞台設定を受け「この男は無知蒙昧な、ドラッグの密売をやっていたり犯罪者ですが、自分より貧しい中 国人やセネガル人との絆ができてくる。これが黒澤明の時代は社会主義が解決するみたいな感じで、そこから先はあんまり考えないで済んだのだけれど、今や、 世界の連帯ということを考え、勘定に入れないわけにはいかないから。だから、黒澤明の映画からは半世紀たっているから、やはり半世紀経つと世の中は変わり ますよね」と述べた。

日本で1952年に製作された『生きる』の意思を継いで、50年後にスペインで生まれた映画『BIUTIFUL ビューティフル』。佐藤氏は「彼(イニャリトゥ監督)が19歳のときに『生きる』を観て非常に感動したという、そういえば最後にもIkiruプロダクショ ンなんて文字が現れたり、だから『生きる』に感動したことが出発点であることは間違いないですよ。そして、こういう作品に影響を与えたことで黒澤さんは立 派だったということもいえると思います」といい、「『生きる』の方は安心して泣けます(笑)けど、『BIUTIFUL…』は安心して泣けないです。でも やっぱりすごいね」と改めて賛辞をおくった。

『BIUTIFUL ビューティフル』
6月25日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー