映画.com より(以下一部抜粋)


>大江健三郎の芥川賞受賞作を、カンボジアを舞台に映画化した「飼育」が10月28日、第24回東京国際映画祭のアジアの風部門で上映された。2001年に「さすらう者たちの地」で山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞を受賞するなど、アジアを代表するドキュメンタリー作家として注目される、リティー・パニュ監督に話を聞いた。

大江健三郎の芥川賞受賞作をカンボジアで映画化

 太平洋戦争末期に寒村に墜落した米軍機の黒人パイロットを村人たちが“飼う”というグロテスクな寓話を、1972年のカンボジアに置き換える。ベトナム戦争の巻き添えとなり、甚大な被害を受ける小さな村を舞台に、後にポル・ポトが力を持つことになるクメール・ルージュ(カンボジア共産党)の台頭、子どもがイデオロギーに洗脳されていく様を描いた。

 「ヒロシマ・ノート」ほか、数多くの大江の作品に触れ「彼の平和主義、人道的な姿勢は私を近づかせるものを持っていました」と話すパニュ監督。「私の映画はどれもカンボジアの歴史を描いています。今回は、クメール・ルージュがカンボジアに派生していき、革命を起こすという時代を描きたかったのです。『飼育』のみに興味を持ったわけではなく、彼の政治的な立ち位置は自分に近いものがあると思い、脚色しました」と映画化の経緯について明かす。

 厳しい状況下で、子どもがどのようにイデオロギー的に感化されていくかということに興味があったという。「10歳から13歳くらいの子にまず権力を与えて、脅して圧力をかける。そして、暴力への道に追いやって、それが正義なのだと教え込ませるのです。しかし、一度暴力の中に巻き込まれてしまうとそこから逃げることはできません。両親がいないなど、心の苦しみを持った子どもの方が、そういうことに巻き込まれやすいのです」。

 クメール・ルージュの手先となり、黒人兵の飼育係となった少年の力強い演技が印象的だ。「村で見つけた子どもです。木に登るのも自然にやってくれました。街の子どもだと、水牛に近づいたり、はだしで歩くこともできません。映画として演じる部分と、日常の動作が自然に組み合わされることが大事なのです。彼は非常にまなざしで語るものがあって、アメリカにいたらマーロン・ブランドの様になると思います」と絶賛する。

 間もなくカンボジアでも上映される本作。「クメール・ルージュの時代にすべての映画監督が殺害されました。戦争中は映画を作れませんでしたから、これからは歴史を記録し、技術者を育てることが大事だと思っています。これは私がカンボジアのプロの技術者だけを使って作った最初の作品です」と感慨深げに話した。