まんたんウェブ より(以下一部抜粋)
>月面基地で働く宇宙飛行士の運命を描いた前作の「月に囚われた男」が長編映画デビュー作ながら数々の賞に輝いた英国人監督ダンカン・ジョーンズさんの最新作「ミッション:8ミニッツ」が全国で公開中だ。列車が爆破される直前の乗客の意識に潜入し、爆弾テロ犯を突きとめるという特殊任務を与えられた男コルター・スティーブンス。与えられた8分間を何度も繰り返し体験し、犯人捜しを進める中で驚くべき事実にたどり着くというサスペンスアクションだ。作品のPRのため来日したジョーンズ監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
【写真特集】ダンカン・ジョーンズ監督のインタビュー中の表情
ジョーンズ監督が今回の仕事をすることになったのは、主人公スティーブンス役のジェイク・ギレンホールさんが、今作のプロデューサー、マーク・ゴードンさんに推薦したことに端を発する。ギレンホールさんは前作「月に囚われた男」に感銘を受けた一人。一方、ギレンホールさんの大ファンで、常々一緒に仕事ができる企画はないものかと探していたジョーンズ監督は、受け取った台本を読んで「内容的に自分のスタイルに合うと、ビビっと来た」とオファーを受けることにした。
もともと「周囲の大きな力が作用するところや大義名分の下で、個人の価値はどう扱われるのかといったことに興味がある」と話すジョーンズ監督。前作「月に囚われた男」でもそうしたテーマを扱っていた。そんな監督にとって「自分が置かれた状況が分からない主人公が、徐々に大きな力に操られていることに気付いていく」という今作は、願ってもないテーマだった。
今作は完全なSFだ。しかしジョーンズ監督は「あくまでも1人の人間がSF的な環境の中でどう立ち回るのかが作品の醍醐味」と考えている。だから前作同様、今作も「ヒューマンドラマとして描いたつもり」と言い切る。その上で今作を「誰が信じられる相手なのか、この世の中で自分が果たす責任はどういうものなのかを考えながら、主人公が突き進んでいくという構造にしていった」と明かす。
物語は、列車とスティーブンスが乗客の意識に入るために使われる装置、そして彼に指示を与える人物がいる司令室の三つのセットを往来しながら展開する。「8分間の同じ出来事を何度も繰り返すという特殊なストーリーの構造上、毎回なんらかの視覚的な新しさを提供するよう気を遣った」と苦労を明かす。
台本では、当初8分間ではなく14分間などいろんなアイデアがあったという。ある観客からは「8分間にしたのは無限大のマーク(∞)を表しているからか?と問われ、そういえばカッコよかったと後悔した」と笑うが、実際のところは「緊張感を保ち続けることができ、一つのミッションを終わらせたり、何かの出来事が完結できる長さ」ということで、「試行錯誤の末、8分間に落ち着いた」のだと語る。
父は英国を代表するミュージシャンであり、俳優としても活躍するデヴィッド・ボウイさん。9歳のときに両親が離婚してから父の元で育った。それだけに父と息子の結び付きは強い。それを感じさせるエピソードが、前作にも今作にもあった。
「『月に囚われた男』は、自分としてはよりプライベートな映画。あの作品には、父親が家族と離れ離れになるというテーマが備わっていました。今回は、過去のある出来事による後悔があり、父親との関係を修復したいと思っている主人公がいる。その点で自分も共感できる」と話す。その一方で主演のギレンホールさんが、映画監督である父スティーヴン・ギレンホールさんとの間に葛藤を抱えており、それを演技に生かしたことを打ち明け、主人公とその父にまつわる場面が「いちばん思いがこもったシーンだ」と振り返った。
そんな息子の映画を、ニューヨークに住む父・ボウイさんは、自腹を切ってチケットを買い、劇場で一般客に混じって見てくれたという。「とても気に入ったと言ってくれました。1本目もとても気に入ってくれたようで、まだ2本しか撮っていませんが、今のところ“打率”はいい」と笑顔を見せる。
「いろんな解釈ができる結末で、観客の間で議論を呼ぶ」ことは自分でも承知している。それでも、「あえてここでは口にしませんが、僕の中では一つの解釈しかありえない。そこに向かって突き進むヒントが全編にちらばめられている。オープニングのクレジットにさえ、実はヒントが隠されているんです」。そう話すジョーンズ監督からは、スーパースターを父に持つ気負いはまったく感じられない。人を驚かせたり、楽しませることが好きな気鋭の映像作家の表情がうかがえた。
<プロフィル>
1971年英国ケント州生まれ。米オハイオ州のウースター大学で哲学を学び、テネシー州のヴァンダービルト大学大学院を経て、ロンドン・フィルム・スクールで映画製作を学ぶ。その後、広告業界でコマーシャル映像の監督などをへて、09年「月に囚われた男」で映画監督デビューを果たす。この作品は、英国のアカデミー賞をはじめ、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞など数々の新人監督賞を受賞した。