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「タイタニック3D」の超オタク的見方 言葉遣い、歴史的背景…ディテールに注目(産経新聞) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120407-00000553-san-ent
>1912年に処女航海で沈没した豪華客船、タイタニック号は今年100周年。この客船の悲劇を描いたジェームズ・キャメロン監督の大ヒット作を、監督自ら3D化した映画「タイタニック3D」が7日、公開される。多くの人々が何度も見たであろう名作。兵庫県神戸市内で取材に応じた英国食卓文化研究家、佐藤よし子さんが「作品をより豊かに楽しむ見方」を伝授してくれた。(橋本奈実)
【フォト】「タイタニック3D」船上での名シーンも3Dに!
■あの船上でのポーズだけじゃない!?
映画「タイタニック」は97年公開時、レオナルド・ディカプリオ演じる画家志望のジャックと上流階級の娘、ローズ(ケイト・ウィンスレット)の身分違いの愛が話題となったが…。
神戸に、日本初の英国式フィニッシングスクール(マナーや教養などを教える場)を開校した佐藤さんは言う。「例の船上でのポーズや悲恋が注目されてましたけど。それだけじゃ、もったいない。あそこまできっちり時代考証をしている映画は、本当に少ないんですよ」。3D版では衣装や髪形、調度品、食器、観葉植物、絵画、マナー、言葉など細部のディテールに目を配りながら見ると、より楽しめるという。
「ワゴンに乗せられたお菓子ひとつとっても、19世紀に流行ったものなんですよ。ものすごくリサーチされたんだと思いますね」
■キャメロン監督の凝りぶり
キャメロン監督は、マナーや所作、持ち物によって「階級」を明確に描いていた。シーンの端々にそれが映し出されていたという。
まず冒頭。沈んだ船から、ローズのネックレスが発見されるが…。「あの時代、上流階級で流行したアール・ヌーヴォ(新しい芸術)の宝飾なんです。あの場面だけで、いかにローズがハイクラスであるか表現しているわけです」と語る。
続いて、船に乗り込む場面。上流階級の人々は、それぞれの部屋に、自宅から自慢の絵画を持ち込むところも映し出される。「たった7日間のために、です。客室をそれぞれ貴族の方々の邸宅にしてしまうんです。当時の貴族はケタが外れていました」
■日本で習う英語は「~でござる」
また、階級によって使う言葉や発音が異なることも表現されている。「How do you do?(ごきげんよう)」のような言葉は、ハイクラスの人々しか使わない。「学校で習いましたでしょ? でもいま、一般社会では使わないんですよ。19世紀の英国英語。日本だと、~でござると言っているようなものなんですよ」と笑う。現代で使用すると、上流階級の人だと思われるのだとか。
正式な場では、必ず相手の名を必ずフルネームで呼ぶのも決まり。作中、成り上がりの米国人女性が親しみを込めて「名前で呼んでいい?」と話し、場が静まる場面も描かれている。発音も異なり、「下のクラスの方はHの発音ができないんです。それも表現されています。英語に詳しい方は、注意して聞いてみてくださいね」と話す。
■必見! 食事のシーン
最も明確に、階級差が表されているのは、食事の場面だ。食事中、上流階級の人々の両手は、テーブルの下ではなく、ふちに置かれている。佐藤さんによると、これは「武器を持っていない」という騎士道の精神からきたマナーという。
ワイングラスはステム(脚の部分)を持ち、グラスに手は触れない。乾杯のとき、グラス同士を合わせない。ナイフとフォークは両手で使う。ハイテーブルでカップを持ち上げてはならない。パンは右手でちぎり、左手で食べる。食事中はささやくように話す…。上流階級の人々がこれらのマナーをきちんと守る様子が描かれている。それゆえ、パンを食いちぎるジャックや、成り上がりの米国夫人の立ち居振る舞いとの違いが浮き彫りになる。
この映画のメーキング映像を見た佐藤さんは、キャメロン監督が撮影のために英国からエチケット講師を招いていたのを知った。さらに一等客室のダイニングで客たちが食事をする場面で、1人の女優がグラス部分を持ってしまった瞬間、NGになったのを見た。「大勢の中での、たった1人のミスも見逃さない。完璧に作り上げていると思いました」と話す。
■ほんの数秒のシーンに…
佐藤さんが注目したのは、アフタヌーン・ティーの場面。「背筋を伸ばして座りなさい」と言われた少女が、ティーナプキンをひざ置く。「ほんの5秒くらいの場面なんですけど。たくさんエチケットを盛り込んでいるな、と。探してみてくださいね」と笑った。
英国では基本的にマナー本は存在しないという。「理由は、階級が混ざるからです。礼儀作法は、家庭で伝えていくものという考え。だから、不作法な人に対しても、注意しない。眉をひそめ、その場から離れる」。作中、成り上がりの米国夫人が、英国の上流階級の人々から嫌悪感を持たれ、避けられるさまを覚えている人も多いのでは。
階級を示す上で、米国夫人の存在は大きい。と対照的に、マナーは完璧だが、経済的に苦しくなった英国の老紳士も描かれている。「ちょうど、英国と米国の国力が変化してきた時代なんです。そんな国力の移り変わりと階級差を、ひとつの船で見事に表現されています」と佐藤さん。
■わが身を犠牲にしても誰かを守る姿に感動
また、人の「役割」も表現されていると感じた。楽団員は、乗客の不安を緩和するために、デッキで最後まで演奏をし続ける。船の技師たちも、命をかけて職務をまっとうする。
今年事故を起こした伊の豪華客船を引き合いに「誘導する人が先に逃げちゃったりしないの」と苦笑いしつつ、「当時の人々は自分の仕事や役割に対して、プライドを持っていた。それがしっかり描かれていますから、15年たったいま、もう一度、見るべき映画だと思います」と力を込める。
神戸在住の佐藤さんは、阪神大震災を経験。昨年の東日本大震災時は東京におり、被災した。「この映画は、自分を犠牲にしても誰かを守ることが表現されているので。いま、日本人の心にしみると思う」
そして、悲しみや苦しみを乗り越えて前に進んでいくためには…。「自分が楽しいと感じることや美しいと思う気持ちを持つことが大切」。キャメロン監督は当時のビーズやスパンコール、レースなどを使って豪華な衣装を再現した。「3Dで、その美しさを味わうだけでも、心豊かになりますよ」と笑顔で話した。
■神戸で3D版公開イベント タイタニック号のダイニングを再現
映画「タイタニック3D」の公開を記念し、タイタニック号のダイニングを再現するイベントが、神戸市中央区のホテルラ・スイート神戸ハーバーランドで開催された。参加料2万5000円にも関わらず、定員の50人が集まり、佐藤さんと同ホテルの鎌田総料理長が当時のレシピをもとに作った特別コース料理を堪能した。
会場は、英国食卓文化研究家、佐藤よし子さん監修で、タイタニック号一等船室のダイニングをイメージした様式に。各所に当時の特徴である観葉植物のケンチャヤシが飾られた。テーブルウエア(テーブル上にそろえるカップや皿、ナイフ、フォークなどの食器類)は、同船室の特別レストラン「アラカルト」で実際に使用されていたものの復刻モデルが用意された。
窓側に用意されたテーブルは、タイタニック号の一等客室のダイニングを完全再現。テーブル上の食器はもちろん、ランプやオレンジを基調にした色合いの花、観葉植物、当時の果物の王であるパイナップルが時代を象徴している。
佐藤さんは「花は、時代によって色の組み合わせが違う。花の色やランプが特徴的な、エドワーディアン時代(1900年初頭)のセッティングです。映画の中にも、出てきますから見てくださいね」と話していた。