「アルゴ」 公式サイト
映画で見る最近の「CIA」は何やらよからぬ事ばっかり企んでる、アメリカどころか世界の陰謀の総元締め的印象までありますが、そのCIAがこんな事もやってたんだ! とちょっと見直してしまいたくなるようなお話。まだ組織が今ほどは硬直化してない時代ならではの雰囲気が当時を生きていた私にはちょっぴり懐かしくもありました。
それにしてもこれ、「実話」だという触れ込みがなかったら、そのまんま往年の「スパイ大作戦」、今なら「ミッション・インポッシブル」の世界です。都合のいい秘密兵器は出てこないけれど、これが現実に起こった事だと知ってる分、別のスリルがあります。いやこれ、物語の結末は事前にわかっているのに、それでも見ている間中心臓のドキドキが止まらない程サスペンスを感じるんだから、よく考えたらスゴイ傑作なんですよ!
イラン革命 真っ最中の1979年。イスラム過激派グループがテヘラン のアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られた。だが占拠される直前、6人のアメリカ人外交官は大使館から脱出し、カナダ大使公邸に匿われる 。(Wikipedia)
物語の最初の方で、アメリカにいる職員が知恵を絞ってひねり出した幾つかの救出計画が提示されます。それらはアメリカにいる人達が考える範囲においては実現可能だし成功確率も高そうに思えるのですが、それらが実は全く使えない事を明確な理由と共に説明し、一つ一つ退けていくのが主人公のトニー・メンデスなのですね。このトニーの、その計画が何故実現可能でないかを語る段階で、観客は彼が如何に有能でしかもその任務のベテランであるかがすっかり分かっちゃうんですよ。恐らくそれと共に彼の人となりも。ごちゃごちゃうるさい説明ゼリフが一切なしで主人公の全体像を観客に理解させ、その上魅了までさせちゃうのです。脚本と、それからトニー役のベン・アフレックの演技力の素晴らしさですね。
ベン、実生活では奥様のジェニファー・ガーナーとの間に3人の子宝に恵まれてますが、きっと自分が父親になった事でかつてない満足と幸福を味わったのでしょうね。映画の随所に離れて暮らしている息子を思う愛情深い父親であるトニーの描写が出てきます。このトニーが備えている優しさこそが彼を動かす原動力となっているのですよ。この人物描写が「アルゴ」に深みを与え、よりおもしろい作品にしたのだと思います。無論サスペンスを盛り上げる手腕も一級品なのですが、でも「アルゴ」って、とても暖かい作品なのですよね♪ 鑑賞中は心臓バクバクでこれ以上の緊張感には耐えられないかも……! と思わせるくせに、ラストシーンを見るとは気持ちがふわっとやすらいで、SF映画ファンならちょっとニヤリとしたりして、優しい気持ちで映画館をあとにできるのですよ。この緩急のつけかたが上手いのですね。
冒頭では緊迫した場面が続き、それからトニーが招集されて当時のCIA内部がどんな騒ぎだったか等の状況説明のシーンが続きます。カナダ大使の家に隠れている6人の日常の様子などもあり、客として滞在しながらも常に緊張を強いられている描写があり見ている側もちょっとピリピリしてきます。ところが作品が中盤になってアメリカでの下工作の場面になると、一転してコミカルなトーンに変わるのですよ。ちょっと映画「プロデューサーズ」を彷彿とさせるようなシーンが続き、観客は思いがけなく楽しい気分に浸れます。ここではアラン・アーキンとジョン・グッドマンがとてもいい味を出していて、この二人のコンビを見ているだけで笑えてきますね♪ ジョン・グッドマンのあの体型って、見ている方はとっても和むんですよ。アラン・アーキンの豪腕プロデューサーぶりも板に付いてて最高だし。そしてこの二人とも、仕事はできるが根はいい人なんですよ♪
そう、ベンの演じるトニー・メンデスもそうですが、「アルゴ」は「有能で仕事はできるが根は優しいいい人」が人を助けるお話なんです。当然ここで大事なのは「が」。最近見た映画では「有能で仕事ができるけど冷たい人」とか「有能で仕事もできる悪い人」とか「有能で仕事ができたから悪に走った人」とか「有能そうに見せかけといて実はボンクラ」とかば~~~っかり見てたので、「アルゴ」は一服の清涼剤でしたね! 何故世間は「有能で仕事ができる」と「優しいいい人」を両立させて見ないのだ?!
ま、主人公に多いタイプは「有能で仕事ができる一見悪い人だが実はいい人」なので底の底では両立させてはいるのですが。でもここでは「一見悪い人だが」がどうしても必要なわけですよ。いきなり最初から「見るからにすげーいい人」としては見せない。よくて「変人」や「記憶喪失」や「ミュータント」その他ですよ。スーパーマンは例外かもしれないけれど、クラーク・ケントという隠れ蓑は確かあまり「有能」とはされていなかったはず。サスペンスやアクション映画でごく普通の「有能で仕事もできて見るからに優しいいい人」がいい人のまんま誰かを救うなんて話、最近見てないわ。ダーティー・ハリーなんかは「有能で仕事もできて悪ぶってるいい人」かもしれないけれど、決して「見るからに優しく」はないわけで。同様にエクスペンダブルズも全員「悪ぶってる」し、しかも見かけがハンパなくコワイです。
いい人、優しい人は他人に暴力をふるえない人だから、それはそれで仕方ないっちゃ仕方ない事ではあるんですけどね。
でもベンはトニー・メンデス役で、そして「アルゴ」という作品で、暴力の代わりに知恵を用いて「有能で仕事もできる優しいいい人」達が他人を助ける物語を見せてくれたんです。これが実話というのが大きくて、誰もそこに文句を差し挟めないんですよね、リアルじゃないとかあり得ないとか。だって、これは実際にあったことなんですから(事実と映画はもちろん違うでしょうが)。
だから作品として「アルゴ」に近いものには「アポロ13」があげられると思います。これは故障した月ロケットから宇宙飛行士を地球に帰還させるべく、「有能で仕事もできるいい人」達がみんなで知恵を絞る映画で、しかも実話ベースですから。
ただ「アポロ13」になくて「アルゴ」でにあるもので、「有能そうに見せかけといて実はボンクラ」の存在が大きいのですよ。「アルゴ」の後半ではこのボンクラがトニー達の足を引っ張ります。つまりトニーは6人を脱出させるためにイラン側の監視の目をかいくぐりつつ、自分が属する組織が仕事の邪魔をするのを回避しなければならないという二重の戦いを強いられるのですね。おかげでサスペンスがダブルで盛り上がり、大変心臓に悪いことになるのです。
ボンクラ側の主張も分からない事はないのですが、そこには囚われている6人に対する「優しさ」が微塵もない。そこがトニーと違う点です。トニーには自分の「分」とか「権限」を超えてまで6人の命を救いたいという強い思いがある。そしてそのトニーの思いが有能で優しい仲間達にちゃんと伝わり、彼らの行動をうながしていく。「アルゴ」の見どころはこの部分にこそあるのだと思います。
ところでベン・アフレックといえば間延びした長い顔がトレードマークのようなものだったのですが、「アルゴ」では黒くもったりした長髪で頭を大きく見せ、髭で顔の下半分を黒く縁取ったおかげですっかり印象が変わっております。見た目のバランス的に丁度よくなった感じで、顔の見える部分少ないワリにはハンサムに見えるのがよかったですね! アル・パチーノの「セルピコ」なんか、あんな髪と髭だったように思いますが、70年代のアメリカってああだったんですねー。
キャスティング、「ボーン・レガシー」で見たばっかりの二人を発見してありゃっと思っちゃいました。ジェリコ・イヴァネクはすぐ分かりましたが、ペイジ・レオンは全然雰囲気違うのでビックリ。いえ、顔は同じですが着てるものがね。名もない女性工作員と大使夫人では全然違うもので。時代も全然違うけど。あと「パラサイト」のクレア・デュヴァルを久しぶりに見て嬉しかったですね。その他、いろんな映画で何回も顔は見てるけれど名前の分からない方がいっぱい。地味だけど実力派を揃えたってことでしょうか。
「アルゴ」は最後まで優しい思いに満ちた暖かい映画だったので、このあといろんな映画賞にからんでくれてキャストやスタッフの皆様の今後が明るくなることを祈ります。来年のアカデミー賞が楽しみです♪
映画で見る最近の「CIA」は何やらよからぬ事ばっかり企んでる、アメリカどころか世
それにしてもこれ、「実話」だという触れ込みがなかったら、そのまんま往年の「スパイ
イラン革命 真っ最中の1979年。イスラム過激派グループがテヘラン のアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られた。だが占拠され
物語の最初の方で、アメリカにいる職員が知恵を絞ってひねり出した幾つかの救出計画が
ベン、実生活では奥様のジェニファー・ガーナーとの間に3人の子宝に恵まれてますが、き
冒頭では緊迫した場面が続き、それからトニーが招集されて当時のCIA内部がどんな騒
そう、ベンの演じるトニー・メンデスもそうですが、「アルゴ」は「有能で仕事はできるが根は優しいいい人」が人を助けるお話なんです。当然ここで大事なのは「が」。最近見た映画では「有能で仕事ができるけど冷たい人」とか「有能で仕事もできる悪
ま、主人公に多いタイプは「有能で仕事ができる一見悪い人だが実はいい人」なので底の底では両立させてはいるのですが。でもここでは「一見悪い人だが」がどうしても必要なわけですよ。いきなり最初から「見るからにすげーいい人」として
いい人、優しい人は他人に暴力をふるえない人だから、それはそれで仕方ないっちゃ仕方
でもベンはトニー・メンデス役で、そして「アルゴ」という作品で、暴力の代わりに知恵
だから作品として「アルゴ」に近いものには「アポロ13」があげられると思います。こ
ただ「アポロ13」になくて「アルゴ」でにあるもので、「有能そうに見せかけといて実
ボンクラ側の主張も分からない事はないのですが、そこには囚われている6人に対する「優
ところでベン・アフレックといえば間延びした長い顔がトレードマークのようなものだっ
キャスティング、「ボーン・レガシー」で見たばっかりの二人を発見してありゃっと思っ
「アルゴ」は最後まで優しい思いに満ちた暖かい映画だったので、このあといろんな映画