<映画>「007」にシリーズ初の吹き替え版 情報量圧倒、観客も支持(毎日新聞) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121130-00000030-maiall-movi


映画館で、吹き替え上映の回には入らない洋画ファンは多いのではないか。50年の歴史を誇る007なら、なおのこと。12月1日公開「007 スカイフォール」では、劇場用日本語吹き替え版がシリーズ第23作目で初めて作られた。私は字幕で見る派だが、実際にスクリーンで見比べると、吹き替えと字幕の情報量の差は驚くほど大きい。【若狭毅】

 007映画の総指揮権を握るソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)、佐野哲章(のりあき)・映画部門日本代表は、吹き替え版製作を「007のような本流映画には必要ないと思っていた」。方針を変えたのは、興行成績の推移が大きい。

 今夏の「アメイジング・スパイダーマン」は、字幕版6割に吹き替え版4割の比率で公開。スクリーン数の少ない吹き替えが5割近い興行収入をあげた。同じく6対4比率の「バイオハザード5」は吹き替えが字幕を上回る逆転現象が起こった。

 字幕と吹き替えの日本語量には3倍の開きがあると言われる。図は、ボンドがMI6(英国情報局秘密情報部)武器開発担当、Qに初めて会うシーンのQのセリフ。Qは若いながらも天才的技術者。ボンドからすれば、「このガキは何だ」という場面だ。大意は同じだが、言葉を省いているのが分かる。

 「スカイフォール」吹き替え編集に参加した、SPEの小澤純子さんによると、映画字幕は1秒間に日本語4文字までがルール。字幕表示できるのは音が聞こえる瞬間から発声が終わる瞬間までだ。例えば「Come here!」。発音すると1秒もない。字幕は3文字までだ。「ここへ!」なら許容範囲だが、「こちらに」だと1字オーバー。

 吹き替えも、俳優の口が動き始め発声が終わるまでに日本語のせりふを乗せる。だが話し言葉は案外余裕がある。「こっちに来て!」と6文字言える。

 文字を追わなくていい分、視覚に余裕ができる。俳優の演技がこれまで以上に見える。MI6のボス、Mを演じるジュディ・デンチやダニエル・クレイグは名優だと改めて分かる。

 「スカイフォール」のテーマの一つは古いものと新しいものの対立。字幕と吹き替えを比べるにはちょうどいい作品かもしれない。ただ老若対立構図の中で、ボンドを“老兵”扱いするのはちょっと早いぞ。