専門誌が選ぶ“日本映画ベスト&ワースト”ランク 園監督作品が低評価のワケ(夕刊フジ) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130201-00000007-ykf-movi


マニアックなファンに熱い支持を集める専門誌「映画芸術」の最新号(442号)が、恒例の「日本映画ベストテン&ワーストテン」を紹介している。異端児扱いされながらも国内外での評価が高い園子温監督(51)の作品がワースト1、2位に選ばれるなど、興味深いランキングだ。

 「映画芸術」は脚本家の荒井晴彦氏を発行人に、独自の批評スタイルを貫いてきた季刊誌。ベスト部門は34の、ワースト部門には20の批評家・グループが投票した。

 今年のベスト部門1位は、北朝鮮の帰国事業で別々に住んでいた兄妹が日本で一緒に暮らす様子を描いた『かぞくのくに』(ヤン・ヨンヒ監督)。原作の作家、西村賢太氏が映画にダメ出しするなど話題を集めた『苦役列車』も同率1位。ベスト部門に投票した映画宣伝・配給プロデューサーの細谷隆宏氏は「マイナーもメジャーも関係なく好きな映画を選んだ。期待したい監督の作品、陽の当たらないピンク映画や若手の自主映画を応援した」と話す。

 毎回波乱を呼ぶのはワースト部門。過去には米アカデミー賞で外国語映画賞を獲った『おくりびと』(滝田洋二郎監督)をワースト1位に選び物議を醸したこともある。

 今回は陰惨な描写で社会の病巣をえぐり出す独自の映像世界で知られる園監督の『希望の国』『ヒミズ』がワースト1、2位に選ばれた。両作品に票を投じた元文部官僚の映画評論家、寺脇研氏がそのワケを語る。

 「園子温はいい映画も作るけど、今回の2作は震災にこだわり過ぎた。あんなにショックが大きい出来事をすぐ映画にしても浅いだけ。もっと時間をかけて、こういうことだったんだと描ききらないと映画ではない」

 近未来の日本を舞台に原発事故を真正面から取り上げた『希望の国』はトロント国際映画祭最優秀アジア賞を受賞。その少し前に撮影された『ヒミズ』は、児童虐待や育児放棄といったネグレクトを題材にしたマンガが原作だが製作中に起きた東日本大震災を「避けては通れない」と急きょストーリーに取り込んだ。

 「震災で“うろたえてしまう”監督なら、たいした監督ではない。震災にこだわり過ぎたところが、園子温の器の小ささ、浅さを表していると思う」と寺脇氏は手厳しいが、震災と映画の距離のとらえ方を改めて考えさせる作品ではある。

 同誌編集部の福本明日香氏は『ヒミズ』について、「あの震災以後、私たちは捉えどころのない現実を生きることになった。現実への性急な答えを出そうとするのが国家および資本の『制度』。映画がそれに追随することの危うさがある。何で急いで答えを出さなきゃいけないのだろう」と指摘している。

 ■「映画芸術」のベスト部門のランキングは、ベスト部門の点からワースト部門の点を引き算する独自の算出法で、ワースト部門でランキングが高い作品はベスト部門では順位が伸びない仕組み。『ヒミズ』はベスト部門だけの得点では8位と、まずまずの評価だったという。