はい、これは傑作。
いや、傑作というよりは快作。
でも決して怪作ではござりませぬ。
一言で言うなら、「ショーン・オブ・ザ・デッド」と「ホット・ファズ」と「アタック・ザ・ブロック」を足して3で割って、そこに「ゾンビランド」と「ビッグ・バグズ・パニック」と「処刑人」の風味を加え、さらに「パーフェクト・ゲッタウェイ」を百分の一くらいに薄めて足した感じ。どうです、傑作でしょ♪(←どんだけB級好きなんだよ!)
まあ、上に挙げた作品を全部ご覧になってる方なら「ロンドンゾンビ紀行」は間違いなく気に入って頂けると思うのですけど、そうじゃない方にも好きになってもらうために僭越ながら私がちょこっとだけ解説いたします。まずは「ショーン~」と「アタック~」。これは両方ともロンドンが舞台ということで「ロンドンゾンビ」との共通項が多いのですね。映画における英国好きにはニヤッとしてしまうネタがいろいろとあります。
「ショーン~」と「ゾンビランド」はどちらも襲ってくるゾンビから逃げるというシチュエーションが「ロンドンゾンビ」と同じ。まあ、ゾンビ映画は大抵そうですが、逃げて、たてこもって、また逃げる。その間次々に仲間を失い、その仲間がゾンビ化して襲ってくるという基本を「ロンドンゾンビ」もきちんと踏襲しております。ここに出てくるゾンビは昔ながらのノロい奴。あまりに動きがトロいのに最初の方で襲われる被害者がつったって叫んでるばかりで逃げないもんだから心の中で「何やってんじゃー、アホー!」等とののしりたくなりますが、ここで被害者が走り出して逃げ切り噛まれずに終わったらそもそも映画が始まりませんのでね、「ゾンビ映画」というコンセプトを噛みしめつつしばらくじっと我慢するのが肝心。
実は「ロンドンゾンビ紀行」で一番ダメなのが冒頭のこの部分。
「お約束」ということでさらっと流したのか、あえてばかばかしさを強調してこれがホラーではなくコメディであることを観客に印象づけたかったのか分かりませんが、さすがにムリな展開とありきたりな演技に見ているのがシンドクなる場面ではありました。
このシーンの悪印象が結構緒を引いて、せっかくの主人公登場シーンもダメダメな感じ満載で始まってしまうのですが、このダメダメ二人組、案外良いのですよ。最初に「ダメだこりゃー」と座席にしずみこんでいた腰が、「あら、なかなか面白いじゃん♪」とすぐに浮いてくるぐらい、スパッと切り替わります。この辺のカットの切り替わりの速さや上手さが「ホット・ファズ」を彷彿とさせるのですね♪ パブ好きの英国気質も出てくるし♪
この主人公のダメダメ二人組が可愛く思えてきたら、もう術中にはまったも同然。二人組とその従姉妹&友達二人のやることなす事全てに笑えてきてしまいます。彼らのなんとも凸凹で珍妙なグループ構成と絶妙にトンチンカンなやりとりのおかしさが「ゾンビランド」を思い出させてくれるのですよ♪ とはいえ、エキセントリックで美形揃いだった「ゾンビランド」の4人と違い、「ロンドンゾンビ」の男組は見かけは普通で中身は普通以下にしか見えなくて、オタクじゃなくてお間抜けで笑いをとってるんですがね。
しかしこのお間抜けでダメダメな二人組がとろうとしている行動の動機が全て「大事なジイちゃんを救うため」なんですよね。これが「ロンドンゾンビ紀行」のいいところで、彼らは街中にゾンビが蠢いているという窮地の中、ジイちゃんを救いにいくため果敢に行動を起こすのです! この辺からダメダメで冴えなかった二人組がかっこよくさえ見えてくるから、映画って不思議なもので。
誰かのために自ら危地に飛び込むことで変貌を遂げ、成長していく主人公というのは映画に限らずドラマの基本ではあるわけですが、主人公(達)の最初に見せるダメさやダサさっぷりがあまりにひどいので記憶から「ビッグ・バグズ・パニック」が呼び起こされてしまいました。主人公達は意外と自然体のまま危機(ゾンビやでっかい虫)に立ち向かい、いつの間にか一人前の男に成長しているという……もしもこの非常事態が起こらなかったら、あんたらいつまでもダメなままだったんだよね、的な。いや、人間、いつどこで自分の本来の能力を発揮できるか分からないというのが人生ですよね(なんのこっちゃ)。
さて、ジイちゃん救出に向かうためには道々ゾンビを倒すための武器が必要です。この武器の出方が「ホット・ファズ」というか「処刑人」というか……。「処刑人」っぽさは、ジイちゃんや仲間を大事にする彼らの性格にも脈打っております。外見は全然違うけどね!
ところでこれはゾンビ映画なので、前述の通り「仲間が噛まれてゾンビになるシーンは当然盛り込まれております。その仲間が「パーフェクト・ゲッタウェイ」の登場人物と同じ特徴そ備えておりまして……これ、絶対参考にしたに違いないわ。とにかく「パーフェクト」見た人なら爆笑間違いなし! このシーン、一番笑ったかも。
すったもんだの末、主人公達は武器を携えジイちゃんとお仲間のご老体や老婦人の元へ辿り着くわけですが、そこからがスゴイ。若い頃は軍人でナチをやっつけたという触れ込みのジイちゃんはともかく、お仲間達の銃の構えっぷりの男女を問わず堂に入ってること! みなさん第二次大戦中は軍かレジスタンスに入ってたんですか?! まだまだ若いもんには負けん、ゾンビにだって負けんと的確に射撃する腕前には「ホット・ファズ」の近隣監視同盟もビックリです。
ジイちゃんがゾンビを退けながら(つまり撃ちまくっている)啖呵を切るんですが、その言葉が地域愛にあふれてましてね、それが「アタック・ザ・ブロック」の根底にある思いと一緒なんですよ。「俺らの団地(ブロック)は俺らが守る」って。「ロンドンゾンビ紀行」の場合は「イーストエンド」なんですが、自分達が生まれ育った土地を愛する気持ちって同じなんだなあと。「ロンドン」の場合は「アタック」と違って、もっと激しい言い方でしたけどね。これは映画ではゾンビ相手に行ってる言葉ですが、本当は別の相手に向けてつきつけてやりたい言葉なのだろうとちょっと思ったりして。うん、それは「イースタン・プロミス」や「ロックンローラ」なんか見ると、そんな気がするのね、ロンドンって。ゾンビはいないけど金の亡者がウヨウヨしてるってゆーか。
とまあ、ちょこっとどころか結局全部語ってしまいましたが、もう一度申し上げますが「ロンドンゾンビ紀行」はホラーではなくコメディですので、ストーリーはさほど重要ではないのです(とはいえ、これでも「ダイ・ハード/ラスト・デイ」よりはちゃんと話がありましたな)。おもしろさは本編を見ることによってのみ堪能できますので、劇場で見る機会がある方はぜひ足をお運び下さい。ダメな方はDVDorテレビ放映まで耐えて待って下さいね!
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