シネコンで一度見た後、あんまりおもしろかったので見るつもりだった他の作品(「ダイ・ハード5 吹き替え」or「PARKER」のどちらか)をやめて、チケット買い直してもう一回、つまり二度目を見ちゃいましたよ。こんなの、このシネコンに来るようになって初めてかも。
予めお断りしておきますが、私はこの作品の主役を演じたキリアン・マーフィーのファンです。そう、これ、公式サイトでいきなりニラミきかせてるロバート・デ・ニーロじゃなくて、キリアンが主役なの。ちゃんと名前もトップに出てるし。
そのキリアンが、冒頭、ごくごく普通の姿で登場するんですよね。キリアンといえばエキセントリックな役柄が多くてしかもそれが似合っているので有名なのですが、その彼が本当に平凡な普通の男性の外見で現れて、ちゃんとそれが板についてるんですよね。そしてありふれた様子をしていても、やっぱり彼は美男。彼はそのひときわ目をひく美貌ゆえに、今までエキセントリックに思われていただけなんだろうか、と何故か思ってしまいました。というのも、そこにいるキリアン演じるトムがごく穏やかで、満ち足りた雰囲気にさえ見えたからです。
もちろんそれには理由があって、キリアンの隣にいるのはシガニー・ウィーバーなのですよ。あの「エイリアン」のリプリーの。そりゃあ「28日後」でゾンビ化したロンドン市民から逃げおおせたキリアンが普通に見えるわってもんです。
その、ハリウッド史上最強の女性とも言われるリプリーのシガニーが、エキセントリックで知られるキリアンが慎重に運転する車の助手席で、すやすや眠ってるの!
この冒頭のワンシーン見ただけで、この二人の強い絆と信頼関係が観客の目に焼き付くのですわ。
やがてキリアンがシガニーに声をかけます。
「マーガレット」
って。それで観客はこの二人は親子じゃなくて何かの仕事仲間、だけど互いをファーストネームで呼ぶぐらい親しいんだなと思います。
キリアンが何度かマーガレットの名を呼ぶ内にうたた寝していた彼女が目をさますのですが、そこで彼が改めて彼女にかける言葉がまたいいんですね♪ その言葉は是非劇場で見て頂きたいと思うのでここでは書きませんが、そのセリフとその後の彼女のリアクションで、この二人の関係がどんなもので、どのくらい深いかがよくわかるのです。
このシガニーとキリアンの取り合わせが何ともいいんですよね♪
かたやエイリアン、かたやゾンビと戦って生き抜いた経験をもつツワモノ同士、孤軍奮闘の似合うシガニーと孤高の雰囲気を漂わせるキリアンが、この「レッド・ライト」の中ではお互いを尊重し合ういいチームを組んでいるのですよ。母と息子でもなく、教師と弟子でもなく、むろんセクシュアルな関係も一切なく、親友でさえない限りなくドライな関係なのに、お互いを思い合っている。仕事上のパートナーだから大切にしているというだけでなく、心の底に何か通じるものがあって一緒にいる同士という感じ。年の差もあるので疑似親子のような仲なのかとも思えるけれど、マーガレット(シガニー)はトム(キリアン)を支配しようとしないし、トムはマーガレットに甘えない。こういう希有な関係って、この二人だからこそ表現でき、観客の目にそれがリアルと映るように見せることができたんでしょうね。
キリアンって、割といつも人を寄せ付けずにいるような役が多くて、場合によってはそれが強がりのように見えることもあって、それが彼の魅力でもあったのですが、シガニーの側にいる時には仲間を得た安心感のようなものを醸し出していて、それがちょっと珍しいというのが最初の印象でしたね。こんなに充足しているキリアンって、初めて見たかも。むろん、役での話ですが。それはそれで嬉しいことではあるのですが、ファンとしては少々物足りなさを感じるのも事実でして。例えば暴れん坊でキレまくってないジョナサン・リース・マイヤーズを見るのと同じで、「あんた、そんなんじゃないでしょ、ホントは」と言ってやりたくなるというか。
ええ、そんなんじゃないのでした、キリアンは。
物語の中盤から後半にかけて、だから彼がキャスティングされたのねと心底納得できる展開になります。さすが期待を裏切らないキリアンです。最後に彼を見ている方が切なくなって胸の苦しさを覚えるところまでちゃんとやってくれます。まさしく「レッド・ライト」はキリアン主役の映画なのです。
シガニーの方も、こんなシガニーが見たかった! という役を全力投球で演じていましたね。役柄としては「コピーキャット」に近いですが、強さ気丈さ、それに賢さはリプリーそのもの! 彼女のやることなすことスマートで、まるで鋭利な刃物のように混沌を切り裂きそこに一条の理性の光を強烈に照射してるという感じでしたね!
「レッド・ライト」ではいわゆる「超常現象」や「超能力」と言われているものの正体を暴いていくのがひとつの見どころになっているのですが、実はそれらのほとんどはすでに本に書かれていることでね、知っている人ならどういう仕掛けが見ただけですぐに分かるのですよ。だから見せ場は「種明かし」そのものではなく、それをいかに見せるかなのですが、これが見ていて実に小気味いいのですよ。何しろマーガレット、いちいち謎解きなんかしやしません。彼女は現場を見ただけで何が起こっているのかすぐ見抜けるので、あとはそれを相手に伝えるだけなのです。伝え方は相手次第で優しくも手厳しくもなりますが、でも彼女は事実を伝えるだけでそれで他人を傷つけようとは思ってないんですよね。それだからこそマーガレット役がシガニーなのだなと、見ていて嬉しくなります。
この脚本、マーガレットを起こしたトムが彼女に言うセリフだけで相当皮肉が効いていることがわかるんですが、その皮肉をシガニーは持ち前の懐の深さでイヤミにならないよう、感情を排した純粋に知的な表現に聞こえるようにセリフで表現しているんですね。そんなマーガレットだからこそ、トムが心酔しているというのがよく分かるというものです。
そんなマーガレットですが、決して感情に乏しい冷たい女性ではありません。本当はとても心優しいのです。でもどこまでも論理的。その論理性はスポックやシャーロックに匹敵するのではないかと思うほど。その上「感情がない」と言わないぐらい、真っ正直。
映画の中ではひたすら「超常現象」のトリックを暴き続ける彼女ですが、その理由は、本当は彼女自身だって信じられるものならそれを信じたいと願っているからなのです。ただ、あまりにも論理的な思考の持ち主故に、一分の隙もなく論理的に解明できるものでない限り、絶対に信じられないのですね。「超能力」に「質量不変の法則」レベルの信憑性がない限りは、決して信用しない。それが彼女の信念=論理性。だから疑わしきは徹底的に排除していく。すると世に喧伝されている「超能力」や「超常現象」にはどこかに必ず穴がある。そして彼女のスーパー理性的な目は決してそれを見逃さない。どこかに作為が、見落としが、トリックがひそんでいる限り、それはイカサマで本物ではない。けれどどれだけエセ超能力者を見抜いても彼女が調査の手を止めて「この世に超能力なんか存在しない」と言い切ったりしないのは、もしかすると、どこかに、自分にははかりしれない超常現象というものが存在しているかもしれない、いや、していて欲しいと彼女が願っているからなのですね。
このマーガレット、本当にシガニー・ウィーバー以外には考えられませんわ。彼女といいキリアンといい、実に見事なキャスティングだと思います。
そして大御所、ロバート・デ・ニーロ。
シガニーとキリアン二人を相手に回して堂々と渡り合うというのは、一人でエイリアンとゾンビとその他異教の神やら異星の何やら総動員しただけのパワーと迫力がなければいけません。
そしたらロバート・デ・ニーロ以外にいないよね。
もう彼はスゴイです。その存在感たるや、古今東西の名のある「超能力者」を全部合わせて一人の人物にした感じ。古くはラスプーチンからユリ・ゲラーを経て日本の某氏まで入ってる雰囲気ですね。
「レッド・ライト」の中で使われているエピソード、日本人なら貞子の「リング」でも見かけたようなものも使われていて、脚本描く上で欧米だけじゃなく日本までよくリサーチしたんだなと思わされます。
いや、実際、これ脚本がよくできているんですよ!
この脚本だからこそ、キリアン、シガニー、ロバート・デ・ニーロという演技派俳優が集結したんだなと、見終わってしみじみ納得。ジョエリー・リチャードソンやエリザベス・オルセンといったきれいどころも花を添えるだけでなく要所要所を締めてくれますしね。これだけ知的刺激満載で、しかもエンターテインメントというのがまたエライです。「ダイ・ハード5」を見た後のお口直し、或いはリハビリ(←なんのだ?)に是非どうぞ。あ、爆発シーンもちゃんとありますよ。
そうそう、エンドロールの後にもワンカットありますので、映画が終わったとおもっても慌てて席を立たないでね♪