期待に違わぬ名作でしたっ!
アカデミー受賞作を3本続けて見ても晴れなかったモヤモヤと心にわだかまっていたものが一気にスカッとしましたわ。うん、どうせやるなら、このくらいとことんやるべきよね。世界なんて彼らにくれてやれ!
これは生粋のホラーファンが根っからのホラーファンを満足させるために書いた、ホラー中のホラー。まさにホラー界の「アベンジャーズ」。
そう思って帰って来て公式サイト調べたら、なんだ、「アベンジャーズ」のジョス・ウェドンが共同脚本なのね。そりゃこうなるわけだわ♪ 彼は両雄どころか五雄も十雄も並び立てる達人なのね(←五雄とか十雄とかいう日本語はない)。
ちなみにキャストには「アベンジャーズ」でマイティ・ソーを演じていたクリス・ヘムズワースが出ております。髪を短くすると神話の登場人物からただの大学生のお兄ちゃんに見えるのがスゴイ。でも可愛い顔と見事なプロポーションはそのままで、しっかり観客の心をなごませてくれるのです。彼だけじゃなく、彼と行動を共にする若者達は全員が美形揃い! これだけでスタッフがホラー映画のことを知り抜いていることがわかるってもんです。
実は「ホラー映画」にはお約束というか、一種の決まり事が暗黙の了解の元に存在してたんですよ。それを明るみに出しちゃったのが往年の傑作「スクリーム」ですけど、「スクリーム」自体は厳密に言えば「ホラー映画」には当たらないのです。最近の日本じゃ「恐い映画」すなわち「ホラー」ってことになってますけど、本来はそうじゃなかったのよね。
「キャビン」は「スクリーム」で語られたお約束を踏まえ、さらにその「スクリーム」さえも包含して新たな地平を目指した作品と言えますが、でもどこまでも「ホラー映画」の世界を外れないところが素晴らしいんですよ。すみずみまでホラー愛に満ちていて、いっそ清々しいです、画面は血しぶき飛び散って真っ赤っかだけど。でも同じ血みどろ映画で「ジャンゴ」なんかアカデミー脚本賞もらってるんだから、「キャビン」ももっと評価されるべきよね。オスカーは偏ってるわ(←かたよってるのはアンタ)。
ところで「キャビン」にもオスカーノミニーがお二人出演しております。
一人目はリチャード・ジェンキンズ。
この方は映画の冒頭では地味で目立たないそこらの通りすがりの人のような風貌で現れて背景に溶け込んでたりするんですが、でも実際は物語の中軸を担っている重要な役を演じている場合が多いです。同じようなタイプにイライアス・コティーズがいるんですが、狂気をにじませるイライアスと違ってリチャードの場合は飽くまで正気、どこまでも真面目、ひたむきに仕事に打ち込む姿が逆に恐い、という感じですね(「モールス」見ればわかります)。
「キャビン」でもリチャードの努めに忠実な姿が描かれてますが、実はこの方の出演しているのは笑えるシーンが多いです。恐怖に対抗するためには笑うのが一番なんですが(だからスプラッタはゲラゲラ笑いながら見るものなのよ)、観客の反応も作品の中に最初からとりこまれてるんですよね、これ。
若者5人組が人里離れた山奥の別荘のなんでか湖の側で一夜を過ごす、というシチュエーションだけで根っからのホラーファンならもう何が起こるか分かっちゃいますからね。で、その観客の視点で見た反応というのが「キャビン」の中には盛り込まれているんですよ。だから若者達が古めかしいホラー映画そのままのことをやっていても、退屈しないで見ていられるんです。このあともっと恐ろしいことが待ち受けているに違いない、とホラーファンなら薄々気づく仕掛けがきちんと最初から盛り込まれていますからね。緻密な作りで破綻がないのも嬉しいです♪
さて映画がクライマックスを迎えたところで現れるのがもう一人のオスカーノミニー。敢えて名を秘すこの方、最近こういう出方が多いですが、大御所ならではでしょうか。この方、一旦出たからには、観客を失望させることはありません! もう見てる方は拍手喝采おくりたくなっちゃう。なんてサービス精神旺盛なんでしょう!
そうです、「キャビン」が追求したのはこの「サービス精神」そのもの。他人を怖がらせて喜ばせるという奉仕の精神の上になりたってるから、この映画は最高におもしろいんですよね。あ、もちろん恐いシーンもたくさんあるんですが、それがホラーファンにとっては最高に楽しいシーンなわけでして……。
子どもの頃、背中をドンとやって「わっ!」とか、突然飛び出して「ばあ!」とか、友達を怖がらせて遊びませんでした? それが「遊び」になるためには、脅かされた方が「やだ~」とか「もお~」とか言いつつも笑ってくれなければなりません。おどかした方とおどかされた方が一緒になって笑って初めてそれは遊びとして成立する。脅かされた方が怒っちゃったらもうダメなんですよね。一気に場が白けちゃう。
「キャビン」は脅した方も驚いた方も一緒になって笑い転げるタイプの作品です。恐ければ恐いほど、その後の笑いも大きくなる。だから結果的に楽しい。この絶妙なバランス感覚、確かに「アベンジャーズ」を成功させたジョス・ウェドンの力量だと思いましたね!
これは怖さに震え上がるという類の作品ではないので(繰り返しますが恐いシーンはたくさんあるんですよ!)、ホラーが苦手な人でも安心して見られるのではないでしょうか。美男美女も出てくるし、映像も綺麗だし、血糊の量は多いけれど実はそんなにグロくないし(そういう行為が繰り広げらるスピードが速すぎて動体視力が追いつかないという手法がとられております)。
とにかく、おすすめ!
映画ファンなら第二のオスカーノミニーが誰かを確かめるだけでも見に行った甲斐があったと思えますよ♪
あ、一カ所だけ。
映画の中で日本の場面もちょこっと挿入されるのですが、それがいかにも日本的で感心してしまう程上手に作られているだけに惜しい! と思った点があるので一言だけ言わせてください。
「そこで歌う歌なら
かごめかごめ
だろ?!」
どんぐりころころ歌ってどーするよ!