個性派俳優、ヴィゴ・モーテンセンの真骨頂を見れる映画は?(ぴあ映画生活) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130722-00000006-piaeiga-movi
ヴィゴ・モーテンセンは謎めいた俳優だ。『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルン役で世界中を魅了しながらも、その後はメジャー大作に興味を示さず、カナダのデヴィッド・クローネンバーグ監督との3本のコンビ作のほか、スペイン映画『アラトリステ』や英独合作の『善き人』に出演。『ザ・ロード』ではオーストラリア人監督、『オン・ザ・ロード』(8月下旬公開)ではブラジル人監督と組んだ。ハリウッドでのセレブな生活に背を向け、賞レースにも関心を示さない彼は、ただ気の向くままに出演作を選んでいるように思える。アメリカ人でありながら母親の北欧の血を受け継ぎ、少年時代には南米での生活を経験。そんなユニークな出自も、どこか無国籍風で根無し草的なモーテンセンのミステリアスな魅力をさらに印象づける。
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そのモーテンセンがひとり2役を演じた『偽りの人生』はアルゼンチン映画だ。スペイン語が堪能なモーテンセンは、幼少期に住んだことがあるこの国を第二の故郷と感じているそうだが、無名の新人女性監督が送りつけてきた脚本の中身を自分の目で確かめ、オファーを受諾した誠実さ、身軽さがいかにも彼らしい。
『偽りの人生』は兄殺しの罪を犯した男の運命をたどる人間ドラマだ。エリート医師の主人公は、なぜか美しい妻との結婚生活に嫌気が差し、なぜかヤクザ者の兄に成りすまして故郷で新たな生活を始めようとする。この粗筋の中に頻出する“なぜか”の答えは、劇中に用意されていない。自らの心境を語らない主人公は、“なぜか”地位も財産もなげうって破滅への道を転がり落ちていくのだ。
人間とは永遠に心が満たされない生き物だ。胸にぽっかり空いた穴を埋めようともがき苦しみ、実態のない幸せを夢見てしまう。これは、まさにそんな人生のエアポケットに落ちた男が“もうひとつの人生”を探し求める物語だ。“なぜか”の理由など存在しないし、必要でもない。モーテンセンはそう確信したかのように寡黙な演技を貫き、人間の愚かさやはかなさを生々しく体現する。やがて主人公が行き着く果てに滲み出すピュアな情感に胸を打たれずにいられない。謎めいた魅惑を放ち続ける個性派俳優の真骨頂がそこにある。
『偽りの人生』
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文:高橋諭治