「スティーヴン・キングは殺せない」(公式サイトもないみたい)
ホラーファンの性として、どんなにつまらなさそうだと思っても、予告見ただけで「駄作だろ」と決めつけていたとしても、チラシみて「くっだらねー」と一言吐き捨てたとしても、それでも見に行っちゃう類の作品がこれ。だってタイトルに「スティーヴン・キング」の名前出してるんだもん、ズルイわよ、コレ!(←魂の叫び)。
そして劇場にすわり短い予告編もすんで本編が開始された僅か一分後には自分の予想がことごとく当たっていたことを思い知るのよ。つまり、つまらなくて駄作でくだらないのね。
ワリとありがちなホラーのオープニングとしていきなり闇をつんざく女性の悲鳴で始まったりするのだけど、大体この悲鳴でホラーとしての真価は分かっちゃう。ここでジェイミー・リー・カーチスとかキルスティン・ダンスト並の真に迫った絶叫が聞こえると「おおっ!」と身を乗り出して次のショックシーンに備えるんだけど、この悲鳴が普通レベルだったら完全に身体を座席に預けて寝る態勢。
ホラーにおいて冒頭の悲鳴はいわばつかみ。
この悲鳴だけで観客を恐怖のどん底に突き落とすぐらいの力量をもった女優とその才能を発揮させる監督でなければ、その後の展開を退屈させずに観客をのりきらせることなどまず不可能なんだってば。
冒頭、半裸の若い女性が悲鳴をあげながら森を駆け抜けてゆく、というだけのシーンでも「NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ」の時はドキドキさせられました。北村龍平監督、少なくともホラーを撮るにふさわしい力量を備えていると、その時思ったもんね。
それに比べて「スティーヴン・キングは殺せない」の冒頭は全く緊迫感なし。ふざけてんの? と思っちゃった。そのまま冒頭のシークエンスを最後まで見届けるとそれが完全におふざけであることがわかるので、「これはホラーじゃなくてホラーのパロディだよ♪」とそこで表現したかったことはよくわかったけれど、じゃあどうしてちっともおもしろくないのよ? え? 悪ふざけしている制作者側はウケてるのかもしれないけれど、観客側は完全にしらけてるんですけどぉ~。ホラーファン、なめんじゃないわよ! そういうのは「最終絶叫計画」シリーズでさんざっぱら見てるんだからな!
と言いつつ、ホラーファンだからなめられたんだろうなあと、タイトルにつられた自分を情けなく思う今日この頃。スティーヴン・キングよ、何故こんな映画に名前を貸した。この作品見たキングファンが血の涙を流すだろうとは考えなかったのか?
この、絶対つまらないだろうと思いつつホラーの新作を見に行ってやっぱりつまらなかったと思う行為って、ひっかいたら血が出ると分かっていてカサブタをかきむしる行為によく似ています。Mなのか、ワタシ! でも、やらずにはいられないのよね……。
というのも、ホラーにはホントに千に一つぐらいの割合で石の中に玉が混じっているから。最近では「パラノーマル・アクティビティー」がそうだし、「ソウ」もそう(ダジャレではありませぬ)。もっともこれは日本公開時はすでに前評判が良かったから別枠かもしれないけれど。でも、ジョン・カーペンターの「ハロウィン」を初めて見た観客って、きっと「なんかわかんないけどすっごいものを見た! 死ぬほど恐い!!」って思ったに違いなくて、そういう感覚をワタシも味わってみたいと思うと、万が一の可能性にかけてしょーもなさそーなホラーを見に行くしかないじゃない! たまには「ロンドンゾンビ紀行」とか面白いのにも当たるしさ。
ええ、しかし「ロンドンゾンビ」にしたって「アタック・ザ・ブロック」にしたって、見た人の好感触を伝える文面というのはどこかにあったわけだけど、「スティーブン・キングは殺せない」に関しては確かに皆無でしたわ。海外のホラーファンのみなさんの見識の高さに脱帽です。
こうなってくると、こんな究極の駄作の制作にGOを出したホラー界の底知れぬ奥深さにただただ感心するばかりですな。いや、いっそ恐ろしいと言ってもいいかも?!
しかしこんな駄作でも制作するためにはそれなりの費用がかかっているはず。こんな映画にお金出すなんて、一体そこに何があったんだ……とついいらない想像しちゃいますね。日本の年度末の公共事業みたいに無理矢理消化しなきゃいけない予算がどこかに残ってたんだろかとか、何かの地方プロジェクトが結果を残すために何が何でもホラーっぽい映画をでっちあげなきゃいけなかったんだろかとか、あぶく銭稼いだ若い連中が自分を主役にして映画作りたかったんだろかとか……どれもロクな理由じゃないわ。
これ、主役の男二人が脚本と監督を兼ねてるんですよ……って、なんだ、自主制作映画じゃん?! それじゃ手前味噌になってもしようがないけど、そんなもん商業ベースに乗せるなっつの!
まあ、そーゆーわけなんで、内容はほとんどこの二人の妄想レベルなんですが、ファンフィクションにしてもレベル低すぎ。
この映画、シノプシスを数行で書いたのを読んだら、それはおもしろいと思うかもしれません。斬新とさえ思うかも。
でも、シノプシスがおもしろいのはそれが数行だから。
90分の映画になると、ただただ馬鹿馬鹿しいだけ。それで笑えるなら立派なものだけど、おもしろくもおかしくもないんだからどうしようもない。期待してなかったらから腹も立たないけれど、怒りさえわかないというのはそこに一切の感動がないということ。一体誰がこんな映画作るのにお金出したのか、ホントそれだけが不思議だったわ。
せめてキャラクターが美形揃いならまだマシなのに、主役努めてるのが監督の二人なので男優には最初から見る価値がないのね。これはキビシイ。最近のホラーでは粒ぞろいの美男美女(「メガネをとったら美形」も含む)が妍を競ってるのが普通ですからね。それも男女とも美しいのは顔だけじゃなく体もですから。
それにしても「死霊のはらわた」で主役のアッシュを演じてたブルース・キャンベル、彼にしたって特段ハンサムって程でもなかったけれど、主役としての美しさは備えていましたね。アッシュはごく普通の青年ですが、やるときゃとことんやるだけの真摯さがありました。困難な事態にひるまず立ち向かう、その真剣な表情が美しいのですよ。
ひるがえって「スティーヴン・キングは殺せない」を見ると、メインキャラの男全員真剣さとは無縁。外見のみならず内面の美さえないんです。そんな人間として最低レベルの奴らの行動を延々と見せつけられて、どうしろというの?!
あ、もちろん、美女はおおむね惨殺されます。これはホラー映画ですので、ネタバレにもならない当然の展開です。
ただその殺し方がさ、華がないと申しましょうか、見ててもちっともおもしろくない。パロディとはいえホラー映画なんだからもっと凝った殺し方してみろよ、と思いましたね。もちろん美しくも何ともない。そもそもこの監督二人に美を求めるのが間違いなのか。それにしても恐くもないんじゃ、どうしようもないと思う。これに比べたら「レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー」や「トロール・ハンター」の方がよっぽど恐いしずっと上等。「ムカデ人間」シリーズが傑作に思えるわよ。
言い方は悪いですが、この主役兼監督達は映画の中でさえ「人を殺したい!」とは思っていないんです。人を殺す真似をしたいだけなの。自分達を袖にした数々の女達への仕返しに、殺す真似してちょっと脅かしてみました、みたいな作品なんだよね、コレ。
たぶん彼らはホラー映画のファンで、普段からホラー映画をネタにして内輪で盛り上がっていたんでしょうが、そのノリのまんまで映画を作っても所詮は内輪受けでしかないのよね。一般の観客にとっては恐くもなければおもしろくもない、ただの駄作。「最低」という強い言葉にも値しないレベルの作品ですわ。
ちなみにキング作品のパロディシーンなんて数える程。メイン州を舞台にしたから、在住作家で超有名な彼の名前を借りたってだけですな、こりゃ。現在生存している大作家なら誰でもよかったんじゃない?
それでもタイトルにスティーヴン・キングの名を冠しただけでワタシみたいなアホなファンが進んで金を出すと見込んでたなら、目端が利くのだけは確かなようで。あ~、こんなもんにひっかかった自分、つくづくアホだわ!