「アルゴ」を見た人なら「アメリカン・ハッスル」を見てこのサスペンスがじわじわ来る感じが似てると思うかもしれません。「アルゴ」で感じた薄氷の上を踏むようなスリルは「アメリカン・ハッスル」の時にも覚えましたからね。


でも「アルゴ」は一人がたてた計画を完璧に遂行するため周囲が必死で協力するじゃないですか。そこに降りかかる出来事は全て不測の事態であって、計画そのものに落ち度はないんですよ。だからまだ一歩踏みとどまっていられるというか、安心感がありました。計画の遂行を妨げられる恐れはあっても、内部崩壊というものは心配しなくてよかったからです。


それに対して「アメリカン・ハッスル」は計画も出たとこ勝負だし、常に内部崩壊の危機に曝されているんです。「ここでやめればなんとか……」という逃げ道が途中にあっても、常にそこをつっきって進んでいく。このまま行ったら先はどうなるのか……待ち受けているものは暗黒しかないわけですよ。それなのに、誰もやめない。絆も何も失いつつ、どんどん進んでいくしかないという恐怖。この恐怖を背中に感じつつ、でも映画はしっかりコメディでおもしろいんです。


なんていうんだろ、「歯止めがきかなくなってしまうこと」の恐ろしさと面白さを同時に表現してるんでしょうかね。猛スピードで走る車と同じ。運転している人はスピードに酔って楽しいかもしれないけれど、同乗者はいつ事故るかと生きた心地もしない、みたいな。それを車じゃなくて「映画」でやってしまうんだからスゴイのです、「アメリカン・ハッスル」。アクションらしいアクションシーンなんかないのに、アドレナリン全開になりました。


それを観客にもたらすのは圧巻の演技のクリスチャン・ベール。「ゼロ・グラビティ」のサンドラ・ブロックと同じですね。彼に感情移入してると心臓バクバクになります。髪が情けなくても腹がブヨでも、やっぱりハンサムだしね。彼を振り回すブラッドリー・クーパーの演技も、ホント針が振り切れるんじゃないかってぐらいキレキレでしたけどね。それでもこの映画をずっと支えているのはクリスチャン・ベールなのですよ。あの、バレたら困る事を包み隠そうと必死でこらえる表情は「リベリオン」でも見ましたが、「アメリカン・ハッスル」はコメディなのでさらにそれで笑いをとらなきゃいけないわけで、彼の演技の厚みを今更ながらに感動しました。


それにしてもこれだけのキャストを束ねてそれぞれの見せ場を作り、ハチャメチャな行動させながら一つの世界にまとめあげる監督のデビッド・O・ラッセル、さすがです。