リチャード・バックマン名義ですが、書いてるのはホラーの帝王、スティーヴン・キングその人なのです。

痩せゆく男 (文春文庫)/リチャード・バックマン

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内容はタイトルそのまんま。

呪いのせいで摂取した食物の栄養が身体に吸収されなくなった男の、食べても食べてもやせ衰えていく恐怖の様を克明に描写したお話でございます。最後の方にアメリカの評論家受けする”いや~な感じ”もきっちり付け加えられております。


食べても太らないって羨ましい、とダイエット中の女性なら誰でも思うでしょうが、これ、キングの書いたものですからね、実情はそんな生やさしいものではないと徹底的に教えて貰えます。


結局ね、何を食べようが重要なのはそこで得た栄養素を身体が「吸収」することなんですよ。「吸収」しない限り、どれだけ食べても何一つ食べてないのと同じ事。新たな栄養が取り込めない身体は蓄積していた脂肪を取り崩してエネルギーに変えて活動を続けるわけですが、それが底をつくと次に使うのは今ある身体を構成している物質しかありません。


かくして主人公は毎日物に憑かれたように大量の食品を摂取してるにも関わらず、日を追うごとにまるで風船がしぼむように大きくて豊かだった身体が痩せて骨と皮だけになり、やがては迫り来る餓死の恐怖に怯えるようになるのです。


や、切実ですわ、食べるって、やっぱり本能ですもん、生物の。


キングがこの作品を通じて過度なダイエットは危険であることを訴えたかったのかどうかは定かではありませんが(たぶん違う)、まあ普通は――拒食症でなければ――食べることは本能ですからそこまで、命に関わるまで食べないなんて、できないんです。少なくとも私にはできません(←それ以前にダイエットからできてないんだから)。


そんな私ですが、このたびばかりはその「痩せゆく男」の恐怖に一歩近づくような体験を致しました。


金曜にリンパが腫れて寝込んだことは書きましたが、実は土曜も一日、日曜も半日寝込んでました。


で、寝込んでいる内に気づいたのですが、なんだかね、両耳がヘンなのです。アレルギー持ちの私は何かにつけて目が痒くなったりくしゃみが止まらなくなったり、よくわからないままヘンな症状が出ることがあるのですが、今回もそれかと思ったのですが、耳のね、付け根とへり(耳の外周に当たる部分)が何だかぐじぐじ、じくじくしているのです。肌が何かにかぶれたのか、浸出液が常に出ている状態。それが乾いたのがむけると、また新しく傷になって、さらにじくじく浸出液がにじみ出てくるというか……。


ひょっとしたらこのせいでリンパが腫れたのかとも思いました。何しろ腫れてるのは耳下腺のあたりだから、まさに耳の真下だもんね。でも寝込む前には耳、微妙に痒みはあったけれどここまでひどくはなかったんですよね。


寝込んでいる時はやっぱり微熱でもあるのか、寒くて身体を丸めて横になっていることが多かったのですが、目が覚めると気になるのが耳の状態。じくじくは治らないまま、液が髪にからんで固まったりしていて、大変不愉快な状況。耳の付け根も、耳のてっぺんもず~っと状態が悪いままで、かさぶたができてもすぐにはがれ落ちて、結局ひたすら浸出液でべとべとし続けていて良くなる兆候なし。


その時思ったんですよ。

このまま、かさぶたができて治るよりも早いペースで耳の構造が体内の液体を滲み出させながら崩壊していったら、いずれ私の身体は無くなるなって。


いやだって、減る方が増えるよりも多かったら、絶対いつかは0になるじゃないですか。どんだけ時間がかかるのかは別問題として、理論上の話ではね。


こうやって、耳の先から溶けていって、自分の身体が無くなるのかもしれない……と、マジで恐怖を感じましたよ。その時、ああ、これはキングが「痩せゆく男」で描いている恐怖と同じだな、と思ったんです。


人間って、当たり前のように自分の身体は修復されるもんだって思ってるじゃないですか。


食べたら実になる、休めば回復する、怪我したら治る。例え時間はかかっても。


それが生きてるってことですよ。生命が活動してるという証(あかし)。細胞が摂取したエネルギーにより活動し、自己を複製し続ける。


それが滞ると……死ぬんだな……という普段はどっかの棚に上げて忘れている厳然たる事実にふと直面するのが、実は恐怖だったりするのですね。


そう、私は目が覚めても目が覚めても一向に治る気配のない耳の状態に、かすかながら、でも底知れない恐怖を覚えたのでした。普通は一晩眠れば傷はなんでも快方に向かっているものじゃんかよ~~~!!!(←一晩に何回も目が覚めているのだからそんな短時間に治っているわけないのよ)


で、その、人体においても収支がマイナス続きだったならいずれはゼロ=死になるという恐怖を描いているのがキングの「痩せゆく男」だったわね、と思い出し、改めて巨匠の凄さに感じ入ったわけです。


ちなみにSFで有名なリチャード・マシスンに「縮みゆく男」という作品もありまして、こちらは原因不明のまま、毎日きっかりり1/8インチずつ身体が収縮していく男が主人公なんですが、この恐怖ではないと、寝ながら思ってましたです。耳から溶けて身体が縮む恐怖と何が違うのかと言われればですね、マシスンがこの作品で描いているのは「縮む」というそのことではなく、それによって引き起こされる理不尽な状況の方がメインだったからですね。マシスンのヒーローは大体、理不尽な状況に陥ってもそこを逞しくのりきっていくのがウリですので、生命力そのものは横溢してるのです。


縮みゆく男 (扶桑社ミステリー)/リチャード・マシスン

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今こうして書いてると自分でもバカみたいだとは思いますが、実際に耳のただれがちっともよくならなかった数日間はマジで自分の人体消滅を心配してましたね! 右耳の方が悪かったので、右から溶けていって、耳が完全になくなったら次どこへ行くんだろう、そのまま横に行って脳に行ったら最期は近いだろうけど、下に行って右手、右脚、左足、左手と溶けてそれから左耳までぐるっと回って行くなら少しは残された時間あるな、とか……。なんか、脊髄侵された段階でダメそうな気もするんですけどね。これ、キングが書いたら立派なホラーになるんでしょうけど、私が書いてもアホなだけですね。


ホントに、寝込んでいる間はちっともよくならず爛れも浸出液も全くよくならずたった三日で私をノイローゼに追い込むかに思われた耳の状態なんですが、起き上がれるようになった今は快方に向かっております。


うん、寝てる間ね、耳を下にすることによって枕と擦れるのがよくなかったみたいなんだよね。枕には痕がべったり残っておりまする……。


起きている今は、眼鏡のツルが耳の付け根に少々悪影響を及ぼしているものの、耳の外周は概して乾燥して治りつつあるようです。とはいえ、今寝るの恐いんだけど、せっかくできたカサブタこわしそうで。


そうそう、耳の下の腫れの方も大体治まって、なんとか通常の姿に戻れたみたいです。首が顔より細いわ。


今回私の身体に侵入しようとした病原菌が何だったのかはわかりませんが、水際ならぬ耳際作戦でくいとめられたみたいですね♪ 優秀なリンパと免疫機構に感謝状を授けたいぐらい♪ ま、そのせいでワケわからんアレルギーもあるわけですが……。


しかし人間、「のど元を過ぎれば熱さを忘れる」とはよく言ったもので、もう、あの寝込んでいた時の「このまま耳がよくならなくて、耳の端から溶けていったらどうしよう……」というおぼつかない恐怖、心許なさはすでに薄れております。健康というのは有り難いものです。不治の病というのはこの恐怖と常に直面していなければいけないわけですから、その精神にかかる負担はいかばかりかと、ようやくその片鱗ぐらいは感じられるようになったわけですが……かかりたくないです、できるものなら、絶対に! 私の貧弱な精神には負荷が大きすぎるわ、それ。


人間いつかは死ぬわけですけれども、その恐怖から目をそらし、直面することを避けているからこそ、楽しく生きていくことができるんだと分かった次第です。


今が楽しきゃいい、というのはある意味正論ですね。

その「今」のとらえ方が、「今日一日」か「とりあえず数年」か「今から死ぬまで」かによって人生は違ってくるのでしょうが。


私は「今から死ぬその日まで」楽しく生きたいものです。



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