今年はいわゆるスパイ映画の当たり年で、「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」、「キングスマン」、「コードネームU.N.C.L.E.」と順調に公開を続け、大作では後はメインイベントともいうべき「007 スペクター」を残すのみとなりました。興行収入を見るとこちらも充分期待できそうで、楽しみです♪
で、今更ながらトム・クルーズがイーサン・ハントを演じるシリーズ最新作、「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」について語ろうというのがこの記事なんですが……実は私、この作品そんなにお気に入りってわけじゃなかったのよね。
あ、もちろん面白かったんですよ。面白いしよくできていることについても異論はないんだけど……ただ、シリーズとしては前作の「ゴーストプロトコル」の方が笑えたし女優さんも美人だったし、同じ監督で同じトムが出てるなら「アウトロー」の方が話としてよくできていたし、バイクやカーチェイスだったら直前に見た「マッドマックス 怒りのデスロード」の方がどれをとっても完全に上だったし……とほんのちょっとずつとはいえ不満を感じる点がいろいろあったということなんです。オープニングを除いてはどれもどこかで見たようなアクションシーンばかりだったのも残念だったし。
でも、それよりも大きい理由が他にあったのかもしれないということに、前の記事(こちら )を書いたあとで思い至ったんです。
「ローグネーション」の悪役であるソロモン・レーン、あの人物造型がきっと私には合わなかったんだなって。
だってソロモン・レーンって見てると心が冷たくなるばっかりで、ちっとも昂揚してこないんだもん。「ゴーストプロトコル」や「ジョン・ウィック」でミカエル・ニクヴィストが演じたような、悪役が悪いことやってるのに見ているこちらの心が躍るような、そんな萌えキャラじゃないと映画ってつまんないんだなーと思ったのですよ。これは私の場合なので、そう思わない方もたくさんいらっしゃるでしょうが。
でも007の前作である「スカイフォール」、これに出てきたラウル・シルヴァ、凶悪で手のつけられないことといったらソロモン・レーン以上のイカレポンチ(死語?)だったけど、でも何故か彼を見てると心が熱くなったのよね。己の不幸を語る彼の姿に同情心まで覚えたというか……そんな価値のない最低の悪党なのにね。これすなわち感情移入ができるかどうかで、ハビエル・バルデムの演技とその人物造型の説得力の賜だと思うのですよ。こんな奴でも人間的な心を持ってるんだ……と思わせる部分をきちんと表現できていたから。
それは「ゴーストプロトコル」のミカエルや「キングスマン」のサミュエル・L・ジャクソンが演じた悪役にも言えることで、彼らが人類を滅ぼそうとしているのには彼らなりに筋の通った理由があって、それを実行するために私財や命を投げ出す程真剣に打ち込んでいるわけです。それ=人類の滅亡ってのがちょっと困ったことではあるんですが、でも何かに命がけで一生懸命取り組んでいるという部分においては感情移入ができるんですよ。それ=エベレスト登頂であるのと同様に。その真剣さ、懸命さに琴線が触れるというか、人間味を感じるんでしょうね。
ところがソロモン・レーンにはそれが一切ないんです。俳優の演技の問題ではなく、作劇上そうなっている。人間的な暖かさを全く感じさせないように演出してるんだと思うんですよ。レーンはこの世で最も唾棄すべき人物ですから、下手に観客が感情移入できる弱みなんて見せてはいけないのです。
レーンという人物は、他人を操ってその結果を横取りすることで自分の利益を得てるんです。使い終わった人間は捨てるだけ。そもそも部下もよそからヘッドハンティングしてスカウトした者ばかりなので、育成に自分が費用をかけたわけでもない。巧妙に立ち回っては他人の上前をはね、搾取するのが自分の仕事だと心得ているんです。それもできる限り自分の手は汚さずに。
これって、現代の捕まえられない悪そのものですね。他人を食い物にするという。そうやって自分が働いたのでは決して得られない莫大な利益を日々吸い上げてる人達。例えば日本だったらオレオレ詐欺の決して表に出てこない親玉。
そういう人物像に目鼻を与えたらソロモン・レーンになるんでしょう。だから庶民で小市民の私には全く感情移入できず、見てるだけで心が冷えてくるので結果的に「ローグネーション」を楽しみきることができなかったのかもしれません。
ソロモン・レーンという悪役像はまさに現代的で、これこそこの作品の中で最も目新しい存在だったのかもしれないですけどね。ちょっとこう、自分の感情がついていけなかったという……。まあ、宿敵クラスの悪役じゃなければ「高級官僚」という立場で意外とお目にかかっているのかも。あ、映画の中での話ですよ。
ちなみにこのレーンを演じたショーン・ハリス、私は「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族 」でミケロットを演じてた時から「ミケちゃん♪」と呼んで好きだったんですが、髪型でしか彼=ミケを認識してなかったとみえて「ローグネーション」で見た時はすぐには誰か分かりませんでした。映画見ながらずーっと見覚えあるけど誰だっけ? と考えていて、特徴的な目元からミケちゃんと思い出した時には感動すら覚えましたね。
髪型と雰囲気だけとると、レーンの造型は「HEROES(ヒーローズ)」のクレアパパことノア・ベネットに似ています。このクレアパパ、そこらの超能力者なんか屁とも思わない程強いのです。ひょっとして普通の人類最強かも。仕事のためならどんなことでもやってのけるのに、一人娘のクレアを溺愛してて、これまたクレアのためなら例え火の中水の中、何をするのも厭わないという凄いパパなんですよ。「96時間」に始まるリュック・ベッソンの一連の「一人娘溺愛最強パパ」映画/ドラマって、実はクレアパパが原型になってるんじゃないかと密かに思ってるくらいですよ、私。
そのノア・ベネットから人間味を全部剥奪するとソロモン・レーンになる感じでしょうかね。実際、ソロモン・レーンって普段何してるのか全く想像つきません。
イーサン・ハント達の前に出てくる時以外は存在すらしていないかのようです。どっかでひたすら悪事の画策に励んでいるのでしょうか?
――その「励む」という言葉があまりにもレーンには似合わなすぎて、ますます普段の姿が想像できなくなりました。
公開迫る「スペクター」の悪役はクリストフ・ヴァルツなので、きっと外連味も人間味もたっぷりなキャラを演じてくれることでしょう。今回のボンドガールはレア・セドゥーですが、彼女って「ゴーストプロトコル」にも出演してたんですよね。だったら同じ作品に出ていたミカエルが次回作の「007」に悪役として登場するということもありえますよね。なにしろ「ジョン・ウィック」で彼が演じた悪党が最高だったもので、これは是非「007」にでも演じて欲しいと思った私なのでした。
繰り返しになりますが叫ばせて下さい。
「ミレニアム」シリーズではあんなにいい人だったのに、あのミッケはどこにいってしまったの?!
あ、「ミレニアム」のリメイク「ドラゴン・タトゥーの女」でミッケ役だったのって、そういえば007役のダニエル・クレイグだった。なんかワケわかんなくなりそ……。