スカパー!映画部の企画で招待されて「クリント・イーストウッドの上映会」に参加しました。
何故今クリント・イーストウッドか。それは上のポスターで分かるようにイマジカBS(スカパー!で視聴可能)がこれから丸1年をかけていぶし銀の如き
「史上最大のイーストウッド特集 」を執り行うからなのです!
詳細:http://www.imagica-bs.com/20thClintEastwood/
先日の木曜、6月2日にすでにその第一回作品が放送されたわけですが、それこそが「許されざる者」なのですね。つまり部活参加者は皆様より一足お先にワーナーの試写室で鑑賞しちゃったというわけ。スミマセン。
とはいえ「許されざる者」はクリント・イーストウッドが監督・主演して、しかもアカデミーの監督賞と作品賞と助演男優賞と編集賞に輝いたという稀代の傑作、すでに鑑賞済みの方の方が多いくらいだと思うんです。
ところが私は名前は知っていても見るのは今回が初めて。
何故か鑑賞の機会を逃したまま20年以上の歳月がたっていたのです。
でもね、実は日本でリメイクした方の「許されざる者」は見てるんですよ。
これがまー私にとっては実につまらない映画で、なんでこんなもんがいいんだ? と首をひねるばかりだったんですよね。本家のイーストウッド版ならおもしろいのか? ホントか? と疑心暗鬼で、敢えてオリジナルをレンタルなどして見たいとさえ思わなかったんです。
だからこそ今回の部活に飛びついたというわけ。
どうせ見比べるなら大きさの差があれどやっぱりちゃんとしたスクリーンの方がいいですもんね。音響だって家のテレビよりずっといいし。
そんなつもりで見た「許されざる者」だったんですが、はい、紛れもない傑作でした。一点の曇りもない名作と言えましょうか。ただただイーストウッドの演技と監督としての力量に脱帽するばかり。何であたしゃこっちの方をさっさと見ておかなかったんだよ、馬鹿! と自分に毒づく始末。
そこで不思議になってくるのがリメイク版のつまらなさ。
なんで天下の名優渡辺謙を擁しながら、あんなヘンテコ怪作になったんだ? ストーリーはほぼ同じなのに、なんで?
ジーン・ハックマンがいなかったから。
まず、それだと私は思いましたね。
なにしろ「許されざる者」のハックマン、すごいもの。もう主役はこっちじゃないのかというぐらい、自信に満ちてグイグイ来る。何故誰もこの人に逆らえないのか、それを言葉と身体を使ってきっちり示す。こいつが長年西部で生き抜いて来られたのは何故か、観客は背筋に冷たいものを覚えながらはっきり理解できるように。それでいてどこか滑稽で、尊大で冷酷な人物なのに何故か観客はハックマンに可愛げさえ覚えてしまうのだ。カデミー助演男優賞受賞も当然です。
実際物語りの面白い部分を担っているのはほとんどハックマンの方で、イーストウッドはその間泥の中を這い回ったり、馬に乗り損なったり、風邪っぴきになったり、わざとかの如く惨めな醜態をさらしているのである。どう見たってハックマンの方に分があります。
その大幅に開いた上下関係を、イーストウッドが最後の最後にパーンとひっくり返す、これがもう、爽快極まりないわけですよ。まさに西部劇の醍醐味。もちろん決着をつけるのは銃だから、パパパパーンとあっという間。一瞬で立場が逆転する。観客総立ち、スッキリさわやか溜飲下がって開放感ってわけですよ(実際には立たないけど)。
多分この爽快感が圧倒的に足りなかったんですよね、リメイク版には。
オリジナルでは細身のイーストウッドと丸っこいハックマンは見た目から水と油のように違う存在で、だからこそ水(イーストウッド)とをの上にずーっと乗っかってた油(ハックマン)の位置がひっくり返った時が劇的な感動を観客にもたらすのですが、リメイクでは二人の立場が違うのはよく分かるものの、なんかどっちも濃くてがっしり、同じ雰囲気なのよね。
リメイク版の主役は渡辺謙。彼も冒頭から辛く、苦しい境遇だけど子どもいるから頑張ってます的な姿で出てくるんだけど、そこに何か無理を感じてしまうのよね。なんでわざわざそんなことしてんの(役にもたたないのに)と思ってしまった。
ハックマンにあたるのは佐藤浩市で、この人はこの人でやたらエキセントリックを気取った演技で、ちょっと気負いすぎのやりすぎじゃないかと思ってたんですが、これはオリジナルを見て一応納得。彼なりにジーン・ハックマンの向こうを張ろうと思ったのね。残念ながら憎々しいばかりで、ハックマンが映画に添えてくれてた愉快な部分が欠落しているんだけど。
そう、「許されざる者」はにジーン・ハックマンが観客に暖かい人間味をもたらしてくれたからよかったのだ。厳しい顔のイーストウッドばかり見ていては息がつまるから、ハックマンの存在が息抜きになるのだ。彼が自分の武勇伝を語って悦に入ってるシーンなど、観客はほとんど彼を好きになる。でも次の瞬間には冷酷で傲然とした顔を見せ、やはりこいつは悪役なんだと観客は自分に言って聞かせなければならなくなる。
そういう魅惑的な要素が佐藤浩市からは見られなかったんですね-。なんか、単にいかれた大げさな人にしか見えなかったような。
大げさな人と、濃い人って、どこか似通ってません? 佐藤浩市と渡辺謙が俳優としてお互いの役を交換してもそれなりの「許されざる者」はできそうな気がします。
けれどオリジナルはそれができない。
イーストウッドとハックマンがお互いの役を交換したら成立しないですよ。
この二人は水と油、似てる点なんて銃の腕前以外にあってはいけないんだから。だってそうじゃないと映画が面白くならないもの。
さっきからジーン・ハックマンばかりほめてますが、彼からその演技を引き出したのは監督であるクリント・イーストウッドです。主役(自分)は地味に徹しつつ、他のキャラクターはそれぞれ自分の個性が際だつように、話が滞ることなく進むように、見事な手綱をとったものだと思います。
これがリメイク版の男性キャストは全員が個性爆発させようと必死になった挙げ句、変というその一点で横並びになったために結局誰が誰だかよく分からないという感しだったんですよねー。女性陣はそれぞれ印象的でよかったです。オリジナルより若い年齢設定だったみたいで、皆さん美しかったです。
今回スクリーンで「許されざる者」が如何に傑作であるか知ることができて、スカパー!映画部とイマジカBSの関係者の皆様には感謝しても感謝しきれません。
「史上最大のイーストウッド特集」、「許されざる者」の次は「奴らを高く吊るせ!」が放送されます。今週木曜日、是非、ご覧下さい!