ジャイホー!「一体何が起きているんだ?」インド映画『バーフバリ』監督も驚いた日本での大ヒット(dmenu映画) - Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180602-00010000-dmenueiga-movi @YahooNewsTopics
>ジャイホー! 王を称えよ!!
もはや説明抜きでこの“合い言葉”が通用してしまうほど、日本でも熱狂的マニアが増加中の『バーフバリ』2部作(2015年、17年)。世界に冠たる映画大国・インドの興行収入記録を塗り替え、堂々の歴代1位に輝いた、究極の叙事詩アクション大作だ。舞台は古代インドで栄華をきわめたマヒシュマティ王国(架空)。“国母”として君臨するシヴァガミの実子・バラーラデーヴァと、甥である伝説の戦士バーフバリの王位継承権をめぐって、隣国までも巻き込んだ親子三代のストーリーが展開される。
話の骨格そのものはベーシックな貴種流離譚(高貴な身分に生まれた主人公が追放され、行く先々でさまざまな試練を経験する説話パターン)なのだが、これが滅法おもしろい! インド映画の大衆娯楽的な伝統をしっかり受け継ぎつつ、それこそハリウッドから日本の黒澤作品まで古今のエンタテインメントの要素を自在に吸収。スピード感あふれる活劇に仕上げる手際は、お見事としか言いようがない。
本国での公開から2年後の2017年4月には前編『バーフバリ 伝説誕生』、同年12月には後編『バーフバリ 王の凱旋』が相次いで日本上陸。どちらも尻上がりに動員を伸ばし、近年まれに見るロングランとなった。さらに、コスプレした観客がスクリーンに向かって歓喜の雄叫びをあげる「絶叫上映」を催す劇場も続出。リピーターが大挙して押し寄せ、盛り上がっているニュース映像をご覧になった方も多いだろう。
そして、今年6月。日本人ファンの熱い要望に応えて、従来の「インターナショナル版」よりも26分間長い『バーフバリ 王の凱旋』完全版(オリジナル・テルグ語版)の公開がついに実現。インド以外のマーケット事情を考慮してカットされていたシーンも含めて、このエンタテインメント巨編の完結編を本来のかたちで楽しめるようになった。
「私にとっては、ほとんど超自然的な経験でしたね」。プロモーションのために来日したS.S.ラージャマウリ監督は、今回の成り行きをそんなふうに振り返る。
「日本の皆さんがこの作品を楽しんでくださっていることは、もちろんインドにいながら認識していました。ツイッターなどSNSを通じて流れてくる絶叫上映の様子も、とても新鮮だった。何しろ、登場人物のコスプレをして映画館に出かけるというのは、私たちの国にはない文化ですからね。しかしその盛り上がりが数週間続き、100日を超え、半年に近付いてくるにつれて、『一体、日本で何が起きているんだ!?』と(笑)。インド以外でフルバージョンを上映したいとオファーをいただいた際には、最初は正直、何かの間違いだろうと思ったくらいです」
ちなみに本インタビューが行われた前日に、監督は都内の劇場で催された「絶叫上映」を初体験。終映後のトークショーでは客席から「バーフバリ! バーフバリ!」のコールが自然に湧き起こり、拍手喝采のなかステージに迎えられた。
「言葉も文化も違う国の映画を、こんなにも深く受け入れてくれる人たちがいたことに、心が震えました。作り手として特に嬉しかったのは、すべての登場人物たちに惜しみない声援が送られていたこと。インドでは多くの観客が主人公のバーフバリに感情移入しつつお話を楽しみますが、日本のファンは救いようのない悪役も、そういう存在として愛してくださっている。『絶叫上映』に立ち会って、肌で感じました。『バーフバリ』は多くの国や地域で上映されましたが、これは初めての感覚かもしれません」
撮影がスタートしたのは、2013年。当初は1本の長編にする予定だったが、いざ現場に入ってみると「さまざまな感情や見せ場が交錯する3代の物語を、1本の映画にまとめるのは不可能」と感じ、急きょ2部構成に変更したそうだ。
「実はインド国内では、今回日本公開される『テルグ語版』の他に、南部の公用語である『タミル語版』も存在するんですよ。撮影現場ではまず俳優たちにテルグ語で演技をしてもらい、問題なければ同じカットを再度タミル語でも撮り直した。そうやって同時並行で作っているので、2つのバージョンには編集的な違いはありません。ただ、167分という上映時間は、インド以外の映画マーケットにはちょっと長すぎる。それで助監督と協力し、全体を刈り込んだ『インターナショナル版』を作ったわけです。
これは正直、なかなか大変な作業でした(笑)。基本的には、話の運びに影響が少ないパートを少しずつ削っていくわけですが、それによって絵的な豊かさが失われてしまっては、そもそも映画を作る意味がない。つねに微妙なバランスが求められました」
そうやって細かくブラッシュアップされたことで、インターナショナル版には「ジェットコースターにも似たスピード感とスリルが生まれた」とラージャマウリ監督。その一方で今回の「オリジナル・テルグ語版」では、観客は「それぞれのキャラクターが秘めている感情の余韻をより長く、ゆったりと味わえるはず!」と話す。
「それが楽しい場面であれ、泣けるシーンであれ、観る方にとっては“お楽しみの時間”が少しずつ増えるということですよね(笑)。もう1つ、ぜひ注目していただきたいのが、アクションと踊り。『インターナショナル版』を作る際には泣く泣く削った部分ですが、どちらもインド映画に欠かせない要素ですからね。全体を通してご覧いただけば、作品の印象はぐっと楽しく豊かになると思いますよ!」
「完全版」の魅力をそう語る監督が、自ら具体例として選んでくれたのが、映画の中盤。本作のヒロインであるデーヴァセーナ(アヌシュカ・シェッティ)が、侍女たちを率いて「かわいいクリシュナ神よ」という曲を歌い踊る場面だ。劇中、主人公のアマレンドラ・バーフバリ(プラバース)は旅先のクンタラ王国で王女であるデーヴァセーナと出会い、運命的恋に落ちる。これまでの「インターナショナル」版では、剣の達人でもある彼女のエモーショナルで気高い側面が印象的だったが、「完全版」ではそこに可憐でたおやかなイメージが加わり、キャラクターの奥行きがぐんと深まった。
「それだけじゃありません。すでに前編の『伝説誕生』を観ている私たちは、物語内では第二世代にあたるアマレンドラが殺害された後、デーヴァセーナがマヒシュマティ王国で長い虜囚生活を送ることを知っているわけですね。でも若い頃の彼女は鳥のように自由な魂を持った魅力的な女性だった。本来は歌と踊りを通じてそれを観客と共有することで、その後の彼女を待ち受ける苛酷な運命とのコントラストを描きたかったんです」
ただ、長い物語においてデーヴァセーナが誇りを失うことは一度もない。彼女に限らず、ほぼすべての女性キャラクターが、決して「物語を彩る美しい添えもの」ではなく、むしろ個人の意志と尊厳を感じさせる人物として造形されている。神話的な世界観を描く一方で、このように今の観客が自然に楽しめるよう細かくアップデートされているのも、本作が世界的大ヒットを記録した大きな理由だろう。取材の最後、ラージャマウリ監督に女性キャラクターの捉え方について質問してみた。
親と子の愛憎。苛酷な権力闘争。可憐で強いヒロインとの恋物語と、行く手に待ち受ける数奇な運命。圧巻のスペクタクルとアイデア満載のバトル・シーン。“キャラ立ち”しまくった名脇役たち。そして何より、スクリーンに向かって「待ってました!」と300回は叫びたくなる、王者バーフバリの存在感──。すべてにおいてパワーアップした今回の「完全版」でこそ、この一大叙事詩の真価は味わえるのかもしれない。ジャイホー! 王を称えよ!!
近年は私の映画に限らず、しっかり個人を感じさせる主演級の女性キャラクターが増えてきています。それは作家性だけでなく、観客が求めていることの反映でもあるのです」
「より広い観客に共感してもらえるよう、特に女性を現代的に描くといった部分は、実はそんなにないんですよ(笑)。もともとインドには女系社会の伝統が根強く、実際に女性君主が実権を握っていた国もありましたからね。インド映画でも、昔から強い女性が数多く描かれてきました。ただ、その多くが脇役であったことは紛れもない事実です。
取材・文=大谷隆之/Avanti Press