ロンドンの演劇学校を卒業して18年…40歳前後になった同級生たちに切ない思い/鴻上尚史|ニュース&エンタメ情報『めるも』 https://news.merumo.ne.jp/article/genre/8084633?utm_source=twitter #めるも @merumonewsさんから
― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
◆冬のロンドンで疲労と寒さで頭がぐるんぐるん
ロンドンに行ってきました。ロンドンは寒いです。もう冬です。
何が悲しくて、わざわざ、寒い場所に来たんだろうと、ちょっと後悔しています。
計画を立てた時は、10月だから、まだなんとかなるんじゃないかと思っていたのです。
ロンドンの寒さをなめていました。
寒い上に、ロンドンに行くからと日本でぐわっと仕事を片づけて、転がるように来たもんだから、疲労が一気に爆発しました。
今、この原稿を書きながら、頭がぐるんぐるんしてます。
ロンドンでぐるんぐるんするのは、三回目です。
昔、ロンドンに住んでいたプロデューサーから「日本で無理して仕事を終わらせるから、疲れ切ってロンドンに来る人が多いのよ。ロンドンに来て、そのまま寝込んだって人もいるし」と言われました。
たしかに、50メートル潜水みたいな気持ちで仕事を片づけて飛行機に飛び乗ることが多いです。
これで温かかったら、身体もホッとするんでしょうが、寒いですからねえ。
でもまあ、やっぱり、街を歩けばウキウキします。
「若者の旅離れ」なんてことも言われていますが、一人で行く旅は、旅立つまではおっくうなものだと感じます。
改札を通るまでや出発ゲートを通過するまでは、なんとなく、気持ちが重いのです。
でも、ゲートを通った瞬間からふっと身体が軽くなります。
自分でもびっくりするぐらい気持ちが変わるのです。
なんでしょうね、この変化。
◆「宙に浮く労働者」と懐かしい友達と
今日は、コベントガーデンで、「宙に浮く労働者」の仕込みをじっと見つめてしまいました。
知ってます? 全身を銀色に塗った労働者が、シャベルを立てて、それを握ったまま宙に浮いているという大道芸というかパフォーマンスです。
この宙に浮くトリックは、世界的にかなり有名になりました。
透明な椅子に座っているように見えたり、仙人が杖を立ててそれにつかまって浮いているように見えるものです。
全身を銀色に塗った労働者が、浮き上がる仕組みを用意するために、ひとりでいそいそと、道端で準備していました。
ほほお。そういう仕掛けなのね。だから、浮けるのね。でも、ひとりで準備は大変ね。と、写真を撮りながらじっと見ていたら、じつに嫌な目でにらみ返されてしまいました。
そりゃ、そうですね。ものすごく隠したいことですもんね。
演劇学校時代の懐かしい友達にも会っています。
演劇学校のクラスメイトで、一番の出世頭は、オーランド・ブルームです。『ロード・オブ・ザ・リング』の弓矢の使い手、レゴラスですね。
こんなに有名になるなら、もっと仲良くしておけばよかったと後悔しています。イケメンだったけれど、中身はそんなに感じなかったんですよね。
みんな演劇学校を卒業して18年ぐらいたってますから、半分以上がもう役者をやっていません。いえ、仕事がないからやめざるをえませんでした。
ケーキ屋さんになったり、子供を産んで主婦になったり、ビジネスマンになったりしています。
俳優を続けていても、普段はバーやスポーツジムでバイトしている人がほとんどです。
みんな、40歳前後になりました。
昔は、未来を語ることが希望でした。どんな俳優になりたいとか、どんな作品に出たいとか、こんな演劇を創りたい、こんな映画がいいと、パブでビールを飲みながら、いつまでも話せました。
みんな、目がキラキラしていました。
僕はその当時、すでに40歳前後、彼ら彼女らはみんな20歳前後でした。
それが、20年近くたって、変わりました。俳優をやめたクラスメイトとは、なんとなく疎遠になります。
お互いに話すことがないと思っているのかもしれません。俳優を続けている人の話を聞きたくないのかもしれません。
気持ちは分かるのですが、じつに切ないなあと思うのです。