1月の読書メーター
読んだ本の数:17
読んだページ数:6510
ナイス数:98
超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどるの感想
この本を読んで確信ができた。もしゾンビが発生しても、日本の関東以南では酷暑を三日と死に抜けない。すぐに目から溶け始め虫に食われて原型をとどめなくなるだろう。夏さえ待てばゾンビは勝手に液化して流れて消える。北の方は冬を待てば雪に埋もれて動きがとれなくなった所を退治すればよい。秋は台風で外をうろついてるゾンビはダメージを食らうはず。しかも孤独死する程孤立して生活している人が日本に増えているなら、ゾンビが発生しても家に閉じこもったままやり過ごせる人も多そうだ。超孤独死社会は実は超ゾンビに強い社会かもしれない。
読了日:01月03日 著者:菅野 久美子
生理用品の社会史: タブーから一大ビジネスへの感想
月経に関して抱いていた様々な疑問が一気に解決した。白眉は子どもの頃水洗トイレに入ると必ずといっていい程「つまるので脱脂綿は流さないで下さい」という掲示があった理由。何故トイレに脱脂綿を持ち込むのか永らく理解できなかったのだが、ナプキンが出回る以前は当たり前の生理用品だったからとは。最初からナプキンがあると、脱脂綿を使うなんて発想すら湧かないものだ。日本にナプキンの恩恵を与えてくれたアンネ社に満腔の感謝を。映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』で、最近まで月経時には女性が不便を強いられる姿を見たので尚更
読了日:01月05日 著者:田中 ひかる
11 eleven (河出文庫)の感想
江戸川乱歩の「現世は夢、夜の夢こそ真」的世界にある短編集。耽美ではない。美を突き放した所から観察しているから。本書の中で重要なのは異形も含めた「人」の「美しい形」。それが生身の肉体である必要はない。素材がなんであれ、美しさを感じる形をした人間のパーツであればよいのだ。それは部品として様々な方法で作り上げられ、また破壊されていく。「美しさ」はその過程の中でのほんの一瞬の切り口に過ぎない。しかしそれでも、いや、それ故か、人はその美しさにひきつけられ、心奪われ、破滅していくのである。という話ばかりで最後に疲れた
読了日:01月07日 著者:津原 泰水
幻の朱い実(上)〈石井桃子コレクションI〉 (岩波現代文庫)の感想
100年程前の東京。断髪・洋装で女子アパートに住み自由と独立を謳歌するような職業婦人も、結婚は25歳までにという周囲の圧力には抗えない。結婚に終われば全てが美しいが独身男女が二人で会うのは何であれ汚らわしいという母親世代の信念が凄まじい。気の合う女性同士であれば苦もなく実現できる互いに対等で束縛せずに思いやり合う豊かな関係が、男女では何故実現できないのか。主婦ばかりが家事を担うのは不公平ではないのかと主人公は思い悩む。劇的な事は殆ど起こらないが、当時の東京の話言葉の流麗なリズムの美しさで読ませてしまう本。
読了日:01月08日 著者:石井 桃子
幻の朱い実(下)〈石井桃子コレクションII〉 (岩波現代文庫)の感想
36(昭和11)年前後の東京での暮らしが丹念に綴られているだけなのに途中で本を置くことができなかった。暑中でも言及があるが、軽やかな中に教養が滲み出る女性の東京言葉が心地よい。大正デモクラシーで磨かれ今も黒柳徹子が話すそれは、また私が子どもの頃親しんだ本の言葉でもある美しい国語だ。物語は第三部で50年程時代が飛ぶのだが、90年前後であっても時代が歴然と違うのは、携帯電話がない事だ。本書で克明かつ執拗に書き連ねられるのは「便り」=「消息」を待つ時間の長さである。かつては文学のテーマだったが、今はもうないのだ
読了日:01月08日 著者:石井 桃子
黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実の感想
本書への「参考にした」との謝辞を最近よく見るので手に取った。ほんの数ページ読んだだけで納得。頗る面白いのだ。表現はユニークだが的確で、論理的で文章の流れもよい。翻訳のリズムも抜群。なによりも「人」に対する鋭い観察眼に加えての深い思いやりと、公平であろうとする姿勢が素晴らしい。犯人にさえ、日本の司法のあり方を取り上げて同情的だ。自分の経験を踏まえつつも個人的な見解にはとどまらず、広い視野で当時の六本木を、東京を、日本を描き出し、被害者を含め関係者の誰一人責める事はしない。参考にすべきは著者の人間性なのである
読了日:01月16日 著者:リチャード ロイド パリー