写真の方はヴィジャイ・セードゥパティさん。「 マスター先生が来る 」でバワーニ演じた人ね。当然彼目当てで行ったわけですが、思いの外出番が少なかった。でも良い役でした。ある出来事から世捨て人同然になってあちこちの聖地等を巡っているんです。一途な所が『'96』を彷彿とさせます。何をやるにしてもやり過ぎなのよ、この人。
世捨て人の彼は最終的に纏う肉体も捨てて飛び立ち、迷える魂を見つけて地に戻し、役目を終えて飛び去った……。そんなちょっと不思議な役回りでした。彼の服装とか持ち物の意味についてもっと深く知りたかったと思います。とはいえ、これは映画の本筋じゃないのよね。
本筋は、まあ簡単に言うと雨乞いのために久しく絶えていた儀式を復活させようという村人の話なんですよ。例によってカーストやら縄張りやら宗教やらで反目はあるし、土地開発の奴らは農地を買い叩こうとしてるし、保護政策か何かのせいで女性達は昼間から農作業をする事もできないと、障害だらけの。
で、祭祀のために必要な稲の初穂を奉納してくれと頼まれるのが件の農夫。なんで80才もの高齢者に、というと彼しか残ってないから。農地を持っているのも彼だけなんです。仕方なく引き受けた彼は、一から稲を育て始めます。初穂を収穫するためには種まきから始めなきゃいけない訳で。大変な作業ですよ
田に鋤を入れ、灌漑し、インド式田植えをやって……と、この辺が非常に美しい。ルンギ姿のお爺さんが一人で淡々とこなしていくのが絵になるんですよ。脚がいいのね、きっと(←何の話だ)。いや、植物が成長していく様子を見るのは単純にワクワクするし、尽力する人の姿には自然と頭が下がるんですよ
このままお爺さんが田んぼをやって、時折ふらりとやってくる世捨て人と交流する話なのかと思ってたら、違った! さすがインド映画、思わぬ展開をする。そしてここからが面白かった! この映画、村が舞台でも意外と都会に近いんですよ。何故って、警察が機能している。罪を問いに警官が来るんですよ
そして当然のように無能で横暴でいい加減。そりゃこんな警察だったらいらんわ~と激しく納得する私。 そこに颯爽と登場する若い女性の判事。かっちょええ♪ 高い教育を受け職業を誇りとしているのできっちりと仕事をします。四角四面で賄賂もききません。自分より年上の警察官にガンガン命令を下す。
ところが警官達は男だから女の命令なんてまともにきかない。表面だけ敬って、あとは有耶無耶になるまでほっておいて誤魔化そうとする。しかし誇り高く、カーストも高そうな彼女は負けない。でも融通も利かない。 この辺がテンポよく描かれて、それで困り事が膨らんでいくのが面白かったですね。
村では初穂の他にも必要な物を作ったり、よその村に頭を低くして太鼓の演奏を頼みに行ったり(カーストが違うといろいろ大変らしい)、雨乞いの準備をじわじわ進めています。着々じゃなくてじわじわなのが、インド的ですな。でも一生懸命なのよ。一生懸命な人に、みんな協力しようとしていくのよ。
というわけで、近代化の影響で分断されてしまった村落共同体が一つの祭祀を再現しようとする過程で失われていた絆を取り戻していくというお話なのでした。80才のお爺さんが一人で育てる稲は無事に初穂を実らせることができるのでしょうか? 乞うご期待。いや、おもしろかったんですってば♪