これまでの もくじ
第1回 幼児教育・保育無償化に賛成
第2回 先生の人材難時代に
第3回 定員割れ 園児の奪い合い どうする
第4回 幼児教育と小学校との円滑な連携を
第5回 あなたは子どもを知っていますか?
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こんにちは。じゅっぺちゃんです。
岳南朝日新聞 2018年 平成30年 9月5日 水曜日 掲載されました。
幼児教育・保育を考える(no. 5)
― あなたは子どもを知っていますか? ―
塩川寿平(元静岡県立大学教授・大中里こども園名誉園長)
1、子どもから学ぶ
子どもにとって不幸な事は、大人の価値観を押し付けられることです。
善意から来る心の優しい大人でも『乳幼児の心理を知らない人』は、無意識に大人の常識を押しつけます。
これが困ったことなのです。
今回は、楽しく子どもから学ぶコツをお話しします。
2、『子育ち』について
『子育て』という言葉はよく使われますね。
では『子育ち』と言う言葉はわかりますか。
実は、この2つの言葉の違いをしっかりと理解することが重要なのです。
『子育て』は、未熟で生まれてきた赤ちゃんを大人が養うと言う、大人側からの「育てる」と言う言葉です。
『子育ち』は、未熟で生まれてきた赤ちゃんが自ら生きる力を持っていて、子ども自ら「育ちゆく」と言う言葉です。
そして、幼児教育・保育の重要なコツがここにあります。
大人は『育てる力』があり、子どもは『育つ力』があり、この『育てる力と育つ力が合体する』ことが重要なコツなのです。
この両者の合体は必要不可欠ということです。
3、「どろんこ遊び」の例で考える
『育てる力』と『育つ力』の両者の合体の姿を、「どろんこ遊び」の例えで考えてみましょう。
雨上がりの水たまりを見つけると大好きなどろんこ遊びが始まります。
ピチャ ピチャ ドロ ドロと、ニコニコ笑って、体中泥だらけ。
泥水に寝転がって足をバタバタ始める子もいます。
私が見てきた世界中の子どももどろんこ遊びをしますから、間違いなくどろんこ遊びは子どもにとって魅力のある遊びだと言うことが分かります。
泥水を「コーヒー牛乳どうぞ」、ドロドロの泥を「チョコレートだぁー」「ソフトクリームおいしそう」と楽しげな会話が聞こえてきます。
ご機嫌な笑顔から・・・よくわかります。子どもはみんなどろんこ遊びが大好きと言うことが。
一方、大人は「クロイ」「キタナイ」「バイ菌ガイル」「ミットモナイ」「何ノ役ニモタタナイ」「洗濯ガ大変」等々、不愉快そうに眉をひそめます。
大人の常識や価値観と言うメガネで子どもを見ているのでしょうね。
困った。困った。困ったことです。
子どもから学びましょう。
どろんこ遊びをする「子育ち」の姿が大切なのです。
大人や先生に言われてじゃないんです。
誰かに言われたわけではありません。
本人の好奇心から自発的に主体的に「どろんこ遊び」に挑戦しているのです。
この自発的に挑戦する意欲こそが大切。つるつるぬるぬるの気持ち良さの学び。
どろんこ遊びは変化に富んでいるし、点数はつけられないし、比較されないので気楽で本当に楽しい。
バタバタ発散してストレスも取れ、抑圧からも解放されてスッキリ。
シアワセって気分。
大人にとって「子育て」すると言う事は、楽しいどろんこ遊びを支えるお世話をすると言うことです。
遊び終わった子どもの手・足・身体を清潔に洗ってあげましょう。
泥だらけになってしまった洋服やパンツを不愉快に思わないで、「よく遊んで楽しかったでしょう」と前向きの気持ちで洗濯しましょう。
これが「子育ち」と「子育て」の合体のあり方です。
4、「のぼる遊び」の例で考える
子どもは高いところにのぼるのが大好きです。
登り棒にのぼる。
ジャングルジムにのぼる。
お家の中では、タンスにのぼる。
ピアノにのぼる。
高いところなら何でも登りたがります。
猿の時代からの遺伝子であり、子どもの快感本能です。
あなたならこの「子育ち」の遊びをどのように評価し、受容しますか。
私は「高いところへのぼりたいという意欲は大切にしたい」また「高いところにのぼれる能力は育てたい」と思います。
ですから、大人の側の「子育て」のあり方として、危険な事と破壊につながる事は「ダメ」と、叱るのではなく伝えます。
「タンスにのぼる・ピアノにのぼる」は、具体的に危険と破壊につながることだから止めるように伝えます。
しかしながら意欲と能力は育てたいのですから、のぼるための遊具は必要です。
そこで大人の側の「子育て」として、室内でも屋外でも・・・ジャングルジム・登り棒・ロッククライミング等々の・・・のぼる意欲と能力を育てる『遊び環境のある公園や施設』に子どもと一緒に出かけましょう。
5、言葉の例で考える
3歳の娘さんが『大きくなったらパパと結婚する』と言いました。
さぁ、パパは何と答えたらよいでしょうか。
答えは『ありがとう』で良いのです。
「近親結婚は困るなぁー」などと考えすぎないことが大切です。
自己中心期の子どもの世界観を学びましょう。
自己中で、 1人称人格で考えますから、自分の思い通りに暮らしています。
砂場でプリンを作って美味しく食べたり、棒きれが刀になって切ったり切られたり、自由自在に自分を中心に宇宙を作って遊びます。お姫様になりきります。太陽に目や鼻や口も描きます。
空想の世界もこの子どもたちにとっては全て現実なのです。
ですから本当のこととして楽しめるのです。
でも、こんな風に心配される親がいます。
『小学校へ行って困りませんか?』と言う質問です。
答えは『困りません』です。成長には脱皮理論があります。
1人称人格の自己中時代から、 2人称人格の相手(家族・友達)の立場に立てる時代から、 3人称人格の「組織の一人」である事や、客観哲学や民主主義や自己犠牲の意味がわかる時代へと、脱皮して生まれ変わるのです。
幼児期には野球で言う『犠打(バント)』の意味はわかりません。
自分は自己犠牲によって死(アウト)ですが、組織は勝利すると言う意味は、小学生になるとわかります。幼児期には『多数決』も『民主主義』の意味もわかりません。
1人対5人になっても絶対に譲りません。泣きわめいて頑張ります。
このような時には、先生が事態を処理しているのです。
小学生になると『多数決』も『民主主義』もわかるようになり、自治の能力で処理ができるようになるのです。ですから、小学校に行っても困りません。
人格は脱皮して生まれ変わり、小学校生活に適応する別人になるからと言って良いでしょう。
一番いいのは、子どもだった頃の自分を思い出してみることでしょう。
そこには目の前のあなたの子どもと同じだった『幼い自分が見えてきませんか?』私たち大人も子どもだったのですから。
6、幼・少の連携で考える
新法令により小学校との連携が義務付けられております。
そして、新学習指導要領(文部省・厚労省・内閣府の共通)の小学生の受け入れは『幼児期の教育の基礎の上に』行われることが明記されております。
今まで知育中心の暗記型のお勉強をしてきた園や学習塾のお子さんは、幼児期の教育の基礎である『遊びによる主体的な体験学習、同時に*非認知能力』が不足し、 1年生になって『遊びによって培われる自分で考える力の不足』のために、戸惑いが心配されています。
そのためにも「子どもから学ぶ」、このお話を実行していただきたいと思います。
*一口メモ:
【認知能力と非認知能力は、相互作用して培われる能力でどちらも必要ですが、今までは知育重視の知的能力、学力等、大学受験や入社試験に適した認知能力が重視されてきました。
しかしながら、最近の研究で明らかになってきた事は、後々の社会生活で建設的な業績を上げるのは非認知能力の方だと認められるようになりました。
そして注目された事は、乳幼児期からの遊びを通して身につくことが明らかされたことです。
非認知能力とは、外から見えにくい心の能力・集中力・忍耐力・失敗を生かせる力・ 相手のやる気を引き出す力・健全な楽天・自己肯定感がある・・・ 等々の育ちのことです。】
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塩川 寿平(1938年生まれ)
大地教育研究所所長
大中里こども園名誉園長
元静岡県立大学教授
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活動:こども環境学会アドバイザー
愛育心理研究所インストラクター
著書:「名のない遊び」「コーナーのないコーナーの保育」
「どろんこ保育」「大地保育環境論」等
(出版社 フレーベル館=電子書籍化も有ります)
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ジュッペちゃんの保育のこころ
子どもを大切にするということは人としてであって、
私たちの"大地保育"は大人も童心人となって、
子どもと共に独立国(子どもの園)を創造するということ
ではないかと思います。
いつでも・どこでも・いつまでも子ども心を忘れずに
『名のない遊び』等を大切にしたいと思います。
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勤務先:大中里こども園
静岡県富士宮市大中里837
※姉妹園野中こども園(旧野中保育園 創立1953年)
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社会福祉法人柿ノ木会「大中里保育園」は、
平成30年度から
幼保連携型認定こども園に移行し、
施設名称を「大中里こども園」と改めました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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