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第1回 幼児教育・保育無償化に賛成 

第2回 先生の人材難時代に

第3回 定員割れ 園児の奪い合い どうする

第4回 幼児教育と小学校との円滑な連携を

第5回 あなたは子どもを知っていますか?

第6回 教育のすべては愛すること

キラキラ

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こんにちは。じゅっぺちゃんです。

 

岳南朝日新聞 2018年 平成30年 9月12日 水曜日 掲載されました。

 

 

幼児教育・保育を考える⑥ 

 ―教育のすべては愛すること―  

塩川寿平(元静岡県立大学教授・大中里こども園名誉園長)

 

 

(1)  ジレンマの宝庫

 「子育ち」「子育て」はジレンマの宝庫です。

 

例えば、冒険させたいが怪我は困る。

動物を飼いたいがアレルギーが問題だ。

どろんこ保育をしたいが嫌がる親がいる。

大好きな水遊びをさせたいが『もったいない』『節水にご協力を』と言われる。

抱っこしていると『抱き癖がつくわよ』と言われる。

のびのびと遊ばせたいが親は『勉強・・・』を希望する。

遊びもいいが『学校に行って困らないか』と言われる、等々。

 

子どものやり過ぎは「怪我・破壊」になる。

大人のやり過ぎは「過保護・過干渉」になる。

まさに幼児教育・保育はジレンマの宝庫です。

さぁ、このジレンマをどうする。

 

その答えは! 

親と先生と地域社会は協力し、『子どものすべてを愛すること!』からはじめることです。

 

(2)  子どもに自由を!

『自由の量と質のバランス』の取り方で、子どもの個性と能力は伸びるのです。

しかし、愛がなければ続けられません。

愛するという事はジレンマの構造を理解して受容をすることです。 

もちろん怪我や破壊に繋がるレベルは受容ではありません。

た、過保護や過干渉に繋がるレベルも受容ではありません。

『子どもに自由を!』という意味は、『自由とは、大人の責任の取れる裁量の範囲』のことなのです。

 

自由を6つのレベルで考えてみましょう。

条件は、子どもへの無償の愛と責任を持って裁量することが大前提です。

 

(1)時間の自由(いつまで見守るか?一区切りつくまで・昼ご飯まで・明日まで、等) 

(2)空間の自由(場所はどこでもいいのか?室内で・園庭で・園外散歩等、等) 

(3)仲間の自由(誰とでも良いのか?一人で・友達と・先生と、等) 

(4)遊び方の自由(どこまで許されるのか?ブランコの立ちこぎ~飛び降り・服のまま全身水たまりに、等) 

(5)教材教具の自由(何を使っても良いのか?のり・テープ・新聞紙・段ボール・板・釘・鋸、等) 

(6)後始末の自由(やりっぱなしで良いのか? 本人が片付ける・全員で片付ける・年齢にあわせて指導する・先生が片付ける、等)

 

ポイント=[1]大人が責任の取れる範囲で『自由の量と質のバランス』を裁量する。

[2]子どもの発達の程度をよく見極めましょう。放任は禁物です。

[3]それぞれの家庭や園なりの責任が持てる範囲で考えて実践しましょう。

 

(3)  自由は放任ではない

自由は放任ではありません。

自由は責任を持つことです。

遊びと生活の発達過程に対応した『子育ち=子どもの主体性』と『子育て=大人の役割』の3つの形態について知ってほしいと思います。

 

(1)子ども主体で始まる遊び(水いたずら・どろんこ・名のない遊び、等)

・・・子どもが助けを求めたら、助けることのできる近さで大人は見守る。 

 

(2)伝承遊びなどはじめに大人が手本を示す遊び(かくれんぼ・鬼ごっこ・こま回し・竹馬・凧揚げ、等) 

 

(3)大人の援助・指導が必要な基本的生活習慣(歯磨き・手洗い・トイレットトレーニング・交通安全教育、等)

・・・日常生活のなかのルールは大人の責任で、子ども自身がそのルールは必要であると感じるように導きましょう。

また、子どもがいやがったり、飽きてしまわないように、大人は愛のある『適時・適切を心がけた根気のいる導き』が必要です。

 

(4)  『表出』の理解を!

近年、子どもに対する大人の期待は増すばかりです。 

 

英語を! パソコンを! AI(人工知能)の活用だ! IT(情報)時代に乗り遅れるなと。

知能・認知重視の園では、大人の期待を優先して『表現』に偏った教育が行われています。

このようなプレッシャー(抑圧)に対する、息抜き(俗に言うガス抜き)のための、『表出』が大切であることを伝えたいと思います。

まず『表現』とは何か。文章を書かせる・英語で表現させる・漢字を覚えさせる・パソコンを使わせる・ブロックやレゴでお城や乗り物など大人がわかる形あるものを作る・各種の競技を行う、等々。

 

以上の例から『表現』は、採点可能・知能的・認知的・建設的・道徳的・汚れたりしない・評価される・好かれる・褒められる・認められる、等々。

 

良いことなので過剰に奨励されて、*能力主義 *認知主義 *順位をつける *ナンバーワンを目指せ! *無理強いする、などの過激な競争となります。

その結果、子どもは肉体的に、精神的に抑圧され、「無気力」「ひこもり」「情緒不安定」「いじめ」等の社会問題を引き起こします。

 

次に『表出』とは何か。どろんこ遊び・水いたずら・自由奔放なぬたくりの絵・ボディーペインティング・紙やぶき・名のない遊び・大きな声を出す・泣き叫ぶ・地面をのたうちまわって暴れる、等々。

 

以上の例から『表出』は、採点不能・破壊的・暴力的・汚くて・やかましく・嫌われる・叱られる・評価の対象とならない・感情の解放、等々。大人は困ってしまい無視か、禁止か、一般的には受け入れられません。

 

しかしながら、安全な方法で見守る、受容的遊戯療法を取り入れた教育もあるのです。

その良い点は、

*オンリーワンである 

*計れない 

*点数をつけられない 

*評価されないから恥ずかしくない 

*夢中になれる 

*比べられないから気楽、

 

等々から『かけがえのないあなた』『世界に1人しかいない尊い我が子』『ありのままの君でいい』等々の自尊心や自己肯定感情を育てることができるのです。

 

世間では、『表現』は高い評価を受けます。

一方『表出』は評価されにくいのです。

 

しかし、それは誤りです。

両者ともに必要なことなのです。

私は長い現場での臨床観察から幼児教育・保育とは、両者ともに50%と50%が理想的だと考えています。

 

特に乳幼児は時間の感覚がありません。

過去・現在・未来がありません。

『今=現在』しかありません。

『表出』と『表現』の持ちつ持たれつの相殺関係も、今、その時その時に精算していかなければならないのです。

 

高校生が受験時代を『灰色の青春』と意識的に抑制したり、『大学に入ったら好きにするぞ!自由を取り戻す!』と言うような時間的な取引を乳幼児はできません。

 

乳幼児は日々、その時 その時に『表出と表現の精算』が必要なのです。

と言うわけで、大人の皆さんにお願いします。

 

子どもの 『表出50% 』『表現50% 』のバランスのとれた遊びと生活を保障してくださいね。

 

(5)  むすびにあたって

子どもを育てると言う事は、子どもが可愛くて、子どもが好きで、子どもを愛している大人にとっては、難しいものではなく、楽しいものなのです。

 

子どもを育てると言う事はジレンマの連続ですので、ユーモアの精神が大切です。

 

例えば、お子さんが砂場でプリンを作ってきたら、一緒にご馳走になってください。

 

棒きれを剣にして斬りかかってきたら、切られて倒れてください。

 

太陽に目や口を描いた絵をプレゼントされたら「ありがとう」といただいて、居間に飾ってください。

 

このように認められたお子さんは『人格を全面的に受け入れられた日々の生活実感』から、自己肯定感情が育ちます。この自己肯定感情こそが幸せに育つ特効薬なのです。

 

一人称人間で自己中心期のお子さんが創造するメルヘンの宇宙を丸ごと受容してください。

 

お子さんを愛していると言う事はそう言うことですが、そのことを通してお子さん自身も愛されているという実感が育つのです。

 

こうして愛し愛され、共に育つ時に自己肯定感情は育ち、ハッピー ハッピーの『子育ち』と『子育て』は大きな花を咲かせます。

 

それでは、長い間「幼児教育・保育を考える」シリーズを愛読していただきありがとうございました。

 

感謝申し上げます。(大中里こども園名誉園長 元静岡県立大学教授)

 

一口メモ***【寿平さんの幼児教育・保育の哲学】 

「子どもを大切にすると言う事は『人として』であって、自然環境を重視した『大地教育』は、大人も童心となって子どもと共に独立国(=こども園)を創造することではないかと思います。私たち大人は、いつでも・どこでも・いつまでも『名のない遊び』や『どろんこ遊び』など、童心を忘れずに子どもと共にある暮らしを大切にしたいと思います。」

 

 

 

 

 

 

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塩川 寿平(1938年生まれ)


   大地教育研究所所長
   大中里こども園名誉園長
   元静岡県立大学教授


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活動:こども環境学会アドバイザー
    愛育心理研究所インストラクター

著書:「名のない遊び」「コーナーのないコーナーの保育」 
    「どろんこ保育」「大地保育環境論」等   
(出版社 フレーベル館=電子書籍化も有ります)

 

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    ジュッペちゃんの保育のこころ
子どもを大切にするということは人としてであって、
私たちの"大地保育"は大人も童心人となって、
子どもと共に独立国(子どもの園)を創造するということ
ではないかと思います。 
いつでも・どこでも・いつまでも子ども心を忘れずに
『名のない遊び』等を大切にしたいと思います。

 

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